(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉
半導体産業新聞の2013年2月20日付(第2028号)1面トップ記事によれば、世界ベースでの2013年の半導体設備投資は、前年比ほぼ横ばいの517億ドルになる、としている。IT市場の伸び悩みを反映して一時期は前年比20~30%のマイナス成長が予想されていたが、いまのところは大きくぶれることはないとの見通しなのだ。
「半導体設備投資はかつて、世界経済を引っ張る大きな要因であった。毎年の投資計画が発表されると、これに関わる製造装置メーカーや材料メーカーの株価が良くも悪くも大きく変動したものだ。しかしながら、ここにきてそのインパクトは薄れてきた。かつては、高成長を当て込んで各社とも積極投資を行い、全半導体生産額の20~25%を投資するということもよくあった。しかし、最近では15%強の水準が続いているわけであり、向こう5年間についても500億ドル前後の投資にとどまると見られている」
ため息をついてこう語るのは、半導体業界では著名なアナリストである。確かに、半導体投資の巨大化は多くのベンチャー企業を生み出し、製造装置メーカーの飛躍的な売り上げ増に寄与し、また半導体材料メーカーの研究開発を加速する要因となっていった。しかしそれも、今は昔物語かもしれない。材料メーカーにあっても開発費を削られていることから、エンジニアの顔色は現在において決して明るくない。
2013年の半導体設備投資が、市況不透明の中で何とか前年比横ばいにとどまっているのはインテル、サムスン、TSMCのビッグスリーが投資水準を落としていないからだ。何しろ、世界のすべての半導体企業の設備投資のうち、62%をこのビッグスリーで占めてしまうほどの寡占化が進んでいる。
台湾のTSMCの2013年の半導体設備投資は、前年比8.4%増となる90億ドルを計画している。中心は20nmおよび28nm世代の増強投資となる。特にHigh-kメタルゲートの比率を飛躍的に高めていくと見られている。何しろ、世界半導体売り上げランキングで3位のクアルコム、9位のブロードコム、さらにはエヌビディアやメディアテックなどのファブレス半導体メーカーが飛躍的に伸びている以上、この受け皿となるファンドリーには強い追い風が吹いている。ファンドリーの主役は言うまでもなくTSMCであり、主力顧客のクアルコムに加え、2014年からは新たにアップルが加わってくる。
世界チャンピオンのインテルは、パソコン市場が低迷を続けているにもかかわらず、前年並みの130億ドル前後を投入するとしている。14nm世代への微細化投資でコストを下げたい考えだ。また、450ミリウエハーへの移行も予想されるが、まだまだ大型の装置発注には時間がかかるだろう。
サムスンはいまやアップルを抜いてケータイ、スマホのチャンピオンを目指すというだけに、モバイル向けのロジック、さらにはNANDフラッシュメモリー、DRAMなどの投資に手を抜くことはできない。今のところは、100億ドル強の投資で前年並みを投入する構えといわれている。
「日本メーカーの半導体設備投資は、かつて世界を揺るがすほどであったが、いまや全32社を合わせても5000億円を切ってくるという状況だ。2013年度にはもっと減るかもしれない。ほんの数年前までは少なくとも1兆円以上の水準は維持していた。エルピーダメモリが経営破綻し、ルネサスやシャープも経営危機という状況では、投資拡大を期待できるメーカーは東芝とソニーぐらいしかない。情けない、とはこのことだ」
前記のアナリストが怒りと泣きを混ぜ合わせたような顔つきで、吐き出すようにいった言葉である。日本企業全体としては、ファブライトの方向に向かっているだけに、台湾やアメリカのシリコンファンドリーに対する依存度はますます強まってくる。それゆえに、半導体設備投資が拡大してくる機運は今のところまったく見られない。スマホおよびタブレットに頼っている現状を打破し、自動車、医療産業、航空機産業、環境エネルギーなどにアプリを拡大し、画期的な製品開発と量産投資を実行すること以外にニッポン半導体の出口はないのだ。
IT全体が世界的に見ても成熟化の傾向を強めているが、充電して1日も持たないスマホは不便、という声も多いなど半導体がやるべきことはまだまだある。すべての電子機器において省エネルギーが今後のキーワードになるのだ。それだけに、MRAM、パワーIGBT、LED、有機ELなどのエコチップに磨きをかけることが、何よりもニッポン半導体の将来を切り開く導火線になるだろう。