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八尾医療PFI(下)、GMが病院幹部会議に出席するなど事業運営の一翼担う


門井洋二氏「病院PFIは事業として成り立ち、他の病院にも応用が可能」

2013/4/9

門井洋二氏と八尾市立病院の事務室風景
門井洋二氏と八尾市立病院の事務室風景
 (株)日本計画研究所主催の、八尾医療PFI(株)常務取締役の門井洋二氏による講演「『八尾市立病院PFI事業運営の課題と留意点と対策実務』~性能発注・長期契約を活かした業務運営、経営支援業務の実践例、今後の課題~」のリポート2回目は、「PFIを担うSPC(特定目的会社)の在り方、経営支援業務の実践例、今後の課題」について紹介する。

■全職員の「病院を良くしていく」意識を最優先
 門井氏は、従来の病院業務の委託型運営とPFI(八尾市立病院)との違いについて説明。従来型は病院の担当者が各企業に業務を委託、各企業は契約(仕様)に基づいて業務を遂行するが、PFIでは、病院内の事務局、看護部、診療局と並んでSPCが院内組織の1つに位置づけられ、SPCは病院と一体になり病院運営に当たる。また、SPCが要求水準に基づいて、各企業を束ねながら業務を遂行する。この際、PFI事業者を含めたすべての病院職員が「病院を良くしていく」ことを最優先するのが理想で、こうした一体感を持つが重要であるとした。
 SPCの八尾医療PFI(株)は、八尾市立病院の維持管理・運営業務を行う目的で設立された。出資企業は(株)ニチイ学館(出資比率51%)、MIDファシリティマネジメント(株)(30%)、三菱商事(株)(10%)、(株)日本医学臨床検査研究所(9%)。
 協力企業と担当業務は、以下のとおり。
▽MIDファシリティマネジメント(設備・外構施設保守・環境衛生・植栽の管理、医療ガスの供給設備の保守点検、警備、清掃、廃棄物処理)▽日本医学臨床検査研究所(検体検査)▽鴻池メディカル(滅菌・消毒)▽シダックスフードサービス(食事の提供)▽エム・シー・ヘルスケア(医療機器の保守点検、医療機器類の整備・管理、医療機器類の更新、物品管理・物流管理(SPD))▽トーカイ、三栄基準寝具(洗濯)▽ニチイ学館(医療事務、健診センター運営、電話交換、図書室運営、一般管理)▽富士通(総合医療情報システムの保守管理、運営)▽総合メディカル・総合ヘルスケア(売店運営、自販機運営、テレビシステム・冷蔵庫・コインランドリー・公衆電話)▽テスティパル(一般食堂、職員食堂)▽理容村上(理容室)▽ヒューマンヘルスケア(院内保育)

■SPCのGMも病院幹部会の議員
 八尾市立病院では、毎週木曜日8時30分から開催する病院幹部会議に、SPCのゼネラルマネージャー(GM)もその議員の一人として出席し、委員会審議事項の承認・否認、各部署からの提案事項の審議、病院課題のディスカッションなどを行っている。事務室内のスペースは、当初、病院事務局とSPC事務室がパーティションで仕切られていたが、1年後に仕切りが撤去された。
 毎週木曜日朝の病院幹部会議において、病院の意思決定、各部署・委員会等の決定事項の承認・却下、課題の相談がなされる。その翌日金曜日のSPCの朝礼で、病院幹部会議の議事を報告すると、SPCマネージャーは担当業務に関係する事項はすぐに業務責任者に連絡し、対応について相談・検討を行う。こうして、病院の経営・運営方針を各受託業務にタイムリーに反映することが可能となり、協働、パートナーシップが醸成され、病院と一体となったPFI事業運営が実現する。
 SPCは、PFI事業者を統括する役割として、受託企業のスタッフではなく「八尾市立病院の職員」という意識の植えつけ、共有化を図る。さらに、八尾市立病院はSPCを病院の組織の一員として位置づけている。SPCはPFI事業者を統括するだけではなく、「病院事業運営の一翼を担わなければならない」と解釈し、その解釈の具現化に取り組んでいる。

■データ活用で病院の経営支援
 目指すべき経営支援では、(1)問題点・課題の抽出から改善提案・実行の流れとして、問題点・課題の抽出(ベンチマーク:BMデータ等を活用)、改善策の検討(BMデータ等を活用)、改善策実施に向けた調整(要改善部署と相談)、改善提案(運用の変更等)、改善の実行~成果の検証、のプロセスを経る。
 (2)経営・運営の判断材料の提示では、ホスピタルフィーアップに向けた提案(未取得のホスピタルフィーのうち、算定可能項目について、特に厚生労働省の誘導的な新設項目については積極的に。ただし、病院の目指すべき姿の明確化が必要)、統計資料などから現況を院内で共有すること(対前年度・対前月・対予算比較、データ数値の見方の共有、診療区分ごとの推移、各診療科の事情やイベントとデータの変化)、さらに、検討課題に対する判断のサポート(病院としての投資(設備、機器、人材など)を検討するような場面で、事務的な立場(主体的)での提言を考えること)が有効な経営支援となる。
 八尾医療PFIでは、コミュニケーションを密にしながら、院内各部署、各診療科から協力を得て材料費削減に貢献。上期と下期の削減目標と評価、そのデータ化に取り組み、光熱水費ではオペ室の24時間空調の見直しと効率的な運転による年間1000万円もの削減、また、エネルギーマネジメントシステムの活用と省エネ推進などに取り組み、総削減コストは2012年上期で2800万円、累計1億1700万円に達している。「コスト削減アクションプラン」は院長自らが院内に発信することで、効果が大きいとしている。

■インセンティブの実現を目指す
 八尾医療PFIでは、コスト削減などで成果を上げながら、これまでにインセンティブ的な対価の支払いは受けていないが、これから実現していきたいこととして、目標にしている。インセンティブの実現は事業契約第92条2項に「SPCの改善提案により、定量的、定性的な改善効果が認められた場合、市は、別紙5に従い、SPCに支払うサービスの対価につき、SPCの貢献度を勘案することができる」と規定されている。
 特に、SPCまたは協力企業が「病院経営・運営の改善」のために実施している取り組みの中で、費用(人件費を含めて)を要している部分については、是非とも実現したいとしている。
 さらに、協力企業へのフィードバックも、八尾市立病院のPFI事業に対する評価は、病院・SPC・協力企業に等しく「名誉」として配分されるべきで、実現したい目標である。門井氏は、「これまでは外部へのアピールは控えめでしたが、今後は積極的な情報発信に取り組み、八尾のPFI事業が評価されるようになれば、参画企業、協力企業にとっても、有力な営業ツールの1つになるはず」と期待している。すでに、業務の質の向上を目的とした試験的な取り組みや、人材育成カリキュラムにおけるキャリア形成の場として、八尾市立病院での受託業務を活用したい、との要望が協力企業からあった場合、原則的に応じている。

■八尾市立病院で病院PFIの事業成立を実証
 SPCと八尾市の契約は、2019(平成31)年3月31日で終了するが、SPCとしては19年3月31日を目標にSPCの経営計画(特に資金計画)を見直す必要があり、SPCの業務運営については、19年度以降を見据えた企画・計画が必要と考えている。契約終了後、病院直営化、従来方式の委託に戻す、PFI事業期間の延長などの選択肢が考えられるが、いずれの場合でも、「八尾市立病院にとって最適な経営・運営方式の導入が基本で、現在の協働パートナーであるSPCとしては、最適な手法の提案者でもあるべき」と考えている。
 「八尾市立病院の経営・運営を成功させること」を目指し、医療スタッフや病院経営陣と一体となった「公民協働」の取り組みにより、成果を上げている八尾医療PFIであるが、門井氏は「八尾医療PFIの取り組み方と成果により、病院PFIは十分機能し、サービス事業として成り立ち、他の病院にも応用が可能」と自信を覗かせた。
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