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日本医師会の中川俊男会長、東京都内で新型コロナ対策の講演(上)


全国各地で医療崩壊はすでに頻発、感染者減は経済対策につながる

2021/2/9

講演する中川俊男会長
講演する中川俊男会長
 公益社団法人・日本医師会の中川俊男会長は、東京都内の内外情勢調査会で、「最近の医療情勢とその課題~新型コロナウイルス感染症対策に向けて~」と題して講演した。日本ですでに医療崩壊が頻発していること、感染防止と感染者減少が医療従事者支援と経済対策にもつながること、一般通院を控えることは生活習慣病悪化につながる懸念などについて説いた。


 同氏はまず「不織布マスクの着用を推奨している立場にあることから、マスクをしながら講演をさせていただく。フェイスガードやマウスシールドは、新型コロナウイルス感染防止には役に立たないと判明していることがテレビなどでも報道されている」と口火を切った。新型コロナウイルス感染症については「2020年4月に政府による緊急事態宣言が発令され、いったんは収束に向かったが、同年6月中旬以降に第2波が、同年11月には第3波が襲ってきた。その間、ハンマー(コロナウイルスをたたく)とダンス(新生活様式)の両政策がとられてきた」と日本での感染拡大と対策経過について振り返り、「徹底的な感染防止対策が、結果として最強の経済政策になる。中途半端な対策は効果が薄い」と断じた。「感染収束への突破口を開きたく、国民の皆様には様々なお願いを発言してきた。医療従事者が疲弊を極める中で、すでに全国各地で医療崩壊(必要時に適切な医療提供を受けられない状態)が頻発している。そのため、20年12月21日には、医療関係9団体で年末年始に向けて医療の緊急事態を宣言した。これが21年の年明けの政府による緊急事態宣言につながっている」と現状の深刻さを述べた。

◆感染者減少が医療従事者への最大の支援
 「新型コロナを甘く見ないでもらいたい。風邪に毛が生えた程度、インフルエンザと同程度だ、と誤解している人も多いが、新型コロナは感染力・致死率の桁が違う。日本人は公衆衛生の意識が高く手洗い、マスクをすることによってインフルエンザは激減したが、新型コロナは無症状もあって完全には抑えきれない。日本では34万6000人が感染し、4700人が亡くなっている(1月21日時点)。一方のインフルエンザは年間1300万人が感染し、インフルエンザウイルスとは異なる2次感染病が引き起こされて亡くなっている。新型コロナウイルスは、2次的な感染ではなく、コロナ自体が肺炎を引き起こす点でより危険だ。若年層には後遺症が残り、血管、脳などに障害を残す例も出ている。だから、甘く見てはいけないというのは事実に基づくものである。感染者が急増しているため、必要な時に適正な医療を提供できない(受診できない)医療崩壊がすでに点在している。これが地域で面になると医療壊滅になる。医療を受けられない状態は壊滅である」と同氏は危機感をあらわにしている。

 医療従事者は次々に運ばれてくる新型コロナ感染患者への対応で、心身ともに疲弊している。1月下旬は東京都内で1000人以上/日、国内で5000人以上/日の感染者が出ている。最良の支援は財政支援ではなく感染患者を減らすことである、と同氏は明かす。

◆PCRは行政検査として行えることが重要

 また、感染症発生当初を振り返りながら「PCR検査は20年3月6日に保険適用されたものの、医師が行政検査委託契約を結んでいないと、費用が一部患者負担になっていた点が問題だった。そのため、日本医師会は20年8月に、7項目の緊急提言を行った。当時の加藤厚生労働大臣が、PCR検査で患者負担が発生しないためには、PCRを行政検査として行えることが大事と、理解を示してくれたため、行政委託がなくても、医師がPCR検査を実施した際には行政検査委託と見なされることになった。これにより、医師は患者負担なしでPCR検査を行えるようになった。その後検査簡易キット、抗原検査など検査方法も増えてきた。厚労省の進歩である」(同氏)と医師会の提言の成果を紹介した。同提言により、都道府県が作成する医療計画は5疾病6事業になり、新たに感染症への対策が加わった。平時から新興感染症対応の病床、検査、人工呼吸器(ECMO)、マスクなど防御対策を医療計画で備えることが盛り込まれるように厚労省が働きかけた。

◆徹底した感染予防の医療機関に安心マーク発行

 別の問題も発生した。「20年春から夏にかけて、かかりつけ医に通院していた患者が、医療機関を感染リスク大と思って、受診を控えるようになってしまった。通院患者が2~3割、4割減った医療機関もある。必要な通院を控えるのは、生活習慣病などにとって悪化の危険がある。そこで日本医師会はチェックリストを作成し、新型コロナ対策を徹底して行っている医療機関には20年8月から安心マークを発行し、掲示してもらっている。2万2000枚弱(21年1月下旬時点)をすでに発行しているので、生活習慣病の通院患者は安心して通院してほしい。貼っていない医療機関があれば『どうして貼らないのか』と問い合わせて貼付を促してほしい」(同氏)と述べた。「通院減少の動きが始まってから1年近くが経つことから、生活習慣病の重篤化が顕在化する時期ではないかと懸念している。例えば19年4~9月の通院患者の血糖コントロール値は平均7.20%だが、20年4~9月には0.55%上昇して7.75%に悪化しているデータが出ている。かかりつけ医の診療を受けることは大事である」(同氏)とも指摘した。

◆インフルとコロナの病状が重なることを危惧

 20年秋からはインフルエンザと、新型コロナの症状が重なることが危惧された。「中小医療機関では、一般外来と発熱外来の動線を分離することが困難なため、時間を別に分けて診療することを提案した。例えば1日の診療7時間のうち、5時間を一般外来に、残り2時間を発熱外来に充てるなど。もし発熱外来に1人の患者も来ない場合には、厚生労働省に20人分(1時間当たりの想定患者数)の補償をしてもらう補助事業に認定された。2~3割患者が減って経営危機に陥り、20年内の経営が維持できるかと心配された診療所にとっては効果があったと考える。厚生労働省と財務省の激しい協議の結果、患者1人当たり1万3470円で、20人分が補償された(26万9000円)」と、同氏はコロナ禍での医師会の仕事の成果を述べた。

(笹倉聖一記者)
(この稿続く)

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