「あべのハルカス近鉄本店」を中心に、近鉄沿線で百貨店や商業施設を展開する(株)近鉄百貨店(大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43、Tel.06-6624-1111)は、小売店から共創型マルチデベロッパーへの変革を急いでいる。郊外の百貨店は、地場産品を取り扱う店舗の導入や、FC事業の強化を推進するなど、矢継ぎ早に施策を展開。都心の商業施設も変革の構想を練っている。同社の商業開発本部 副本部長の北村浩氏に話を聞いた。
―― 商業開発本部の概要から。
北村 当社の営業部門は「あべのハルカス近鉄本店」「上本町店」「奈良店」「橿原店」「和歌山店」「四日市店」を管轄する百貨店事業本部と、「Hoop」「and」「上本町YUFURA」「生駒店」「草津店」「東大阪店」「近鉄パッセ」の計7店を管轄する商業開発本部がある。商業開発本部には生駒店、草津店、東大阪店といった百貨店が含まれているが、これらの店舗は百貨店の良さを残しつつ、専門店を導入したハイブリッドな商業施設となる。
―― コロナ前の状況を振り返って。
北村 「Hoop」は2018年から改装を実施したことで、19年度の売上高は2%増を記録した。生駒店や草津店も改装を実施したことで、来館者数が数%伸びるなど、どの施設も比較的順調であった。
―― コロナ後は。
北村 お客様の来店が減り、一時は売上高が40%減まで落ち込んだが、現在は5%減まで回復している。郊外の百貨店は回復基調にあるが、「近鉄パッセ」はやや回復の速度が遅い。近鉄パッセは名駅地区に立地し、岐阜県や三重県に住む学生がよく訪れる施設であるが、その学生の来店が少ないのも影響している。
―― 現中計で「共創型マルチデベロッパー」への変革を掲げています。この意図は。
北村 共創型マルチデベロッパーは百貨店の範疇にとらわれず、マルチな事業展開を行うデベロッパーになることを意味する。具体的には、買い取りや売上仕入れといった従来の百貨店の運営手法に、不動産の発想を取り入れる。近年、台頭してきているカテゴリーキラーの専門店などを導入し、お客様の選択肢を増やしている。
―― 郊外の百貨店における取り組みを。
北村 地域共創型百貨店の確立と、FC事業の強化を進めている。地域共創型百貨店は2月に全館リフレッシュオープンした草津店が良い例だ。草津店は2階に「プラグスマーケット」を導入しているが、同じフロアに「伝え場」というイベントスペースを設け、地元の滋賀県を中心としたこだわりのある商品を提案している。
また、1階には食品の物販コーナー「近江路」を開設し、ギフトだけでなく、自家需要をそそる商品を並べている。こうして地元の滋賀県民にもっと知ってもらう機会を設け、ショッピングセンターとの差別化を図る。
―― FC事業の強化の狙いは。
北村 すでに草津店や生駒店で実施しており、特に「成城石井」の導入は成功事例となった。当社のFC事業は、食品から非食品まで10業種を手がけており、こうしたアンカーテナントは雇用を守りつつ、収益力を高められることから、自社でやる必要性を感じている。
FC事業は次の展開も模索している。他のデベロッパーは500坪や1000坪のテナントを導入するのに長けているが、当社のような百貨店は、1000坪の中に様々なテナントを導入する、編集力が強みとなる。この編集力を駆使し、様々なFCのテナントを核としながら、色々な取引先を組み合わせて、ひとつのフロアを作り上げていく、新規プロジェクトを模索中だ。現在、新規プロジェクトのシミュレーションを行っており、いずれは他社の商業施設にも提案していきたい。
―― 都心の商業施設は。
北村 Hoopはこれまで20~30代の女性をメーンターゲットに、地下にフードコートを作り、低層階に路面性の人気テナントを、中層~上層階にはスポーツや美と健康をコンセプトとした、吸引力のあるテナントを導入してきた。しかし、生き残るには個性を磨く必要があり、数年後には大改装を計画している。同施設は若い世代に向けて情報発信の役割を担うため、物販店に、イベント性や参加型の仕組みを取り入れていく。
andは30~40代の女性をメーンターゲットとしているが、もっと足元商圏を掘り下げるため、商圏内に何が必要か調査している。今後はサービス店のほか、医療モールなど、利便性の高いテナントの誘致を検討する。このように様々な取り組みを進め、将来、商業開発本部が百貨店事業本部と肩を並べる事業規模に成長させていきたい。
(聞き手・岡田光記者)
※商業施設新聞2371号(2020年11月17日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.346