電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第30回

パワー半導体は将来アプリ明確で再び成長に期待


~鉄道、重電、IT電源、新エネルギーなどの次世代版開発に総力~

2013/4/5

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 昨年のパワー半導体の伸び悩み、それどころか20年ぶりのマイナス成長をウォッチして、いくつかの悲観論が出ている。

 確かに、大票田の中国向けがストップしていることの影響は大きい。中国は内需経済がまだ完全には育っていない状態で、所詮は外資の設備投資による雇用増大と、その波及効果で食ってきた国だ。ところが尖閣問題を契機にヨーロッパ勢の工場引き上げや日本企業の対中投資後退などがあり、マイナス要因が拡大した。さらに加えて、米国のシェール革命のインパクトは大きく、米国の「強い製造業」復帰宣言に伴う設備投資の米国回帰、つまりは中国からの引き上げも数多くなると思われるため、ますます中国の成長要因をそいでくることになるだろう。

 中国における省エネ推進策は公共投資の拡大である。LEDや太陽光発電の大量投入に加え、インバーターエアコンの積極普及などを進めてきたが、ここに来て大きく歯止めがかかっている。また、高速鉄道計画や各種の建設投資が後退を余儀なくされている。こうなれば、中国向けで拡大してきたパワー半導体に大きな負のインパクトを与える。

 またグリーンニューディール推進エリアであるEUは、イタリアやスペインの危機が叫ばれる中にあって、正直言って省エネどころではない。EU経済を守ることが先決問題であり、グリーンニューディールの退潮や公共投資の縮小などのために、どうしてもパワー半導体需要は下がってくる。

 これらを背景に、2012年は勢いのよかったパワー半導体も20年ぶりの退潮を余儀なくされたのだ。おそらくは1兆3000億円程度まで縮小したと見られ、少なくとも十数%は下がっている。こうしたことから世界で最先行する日本企業のパワー半導体主力工場の操業率は、非常に低い水準となっているのだ。

 しかしながら、これは一時的な現象だと捉えるべきだろう。一例を挙げれば、米国のインバーター比率はまだ非常に低く、中国の約50%に対し20%程度しかないという有様だ。バンバン金を使い、物を消費することが美徳という考えを持つこの国は、省エネから最も遠い哲学の中にいると見てよい。おまけにシェールガスを一手に握ってしまっただけに、ジャバジャバとエネルギーを使い捨てしていく国に逆戻りしていく傾向もある。
 それでも、世界のCO2問題が一切解決したわけではない状態で、米国だけが省エネに背を向けるというわけにはいかない。いずれは、大市場のエアコンをはじめ、エレクトロニクス機器全般に対しインバーター採用の比率が高まるだろう。

 また、いくらシェールガスで世界全体がエネルギー潤沢という状況になっても、国家防衛、安全保障などの観点から、自ら電力を起こせる再生可能エネルギーの比率は、どんな国にあっても全エネルギー消費の20~30%以上に引き上げていくだろう。太陽電池のパワコン、風力発電のギア、地熱発電のヒートポンプなどにパワー半導体の採用はさらに増えていくのは間違いない。

 確かに、シェール革命の影響で電気自動車不要論も飛び出すなど、EV向けのパワーIGBTの大量搭載の夢はすこしく後退したかもしれない。しかし容量が5分の1に減ったとしても、今後の環境車の主役となるプラグインハイブリッド車(ガソリンまたはシェールガス使用)が急拡大していくのは確実であり、こちらのIGBT需要もバカにならない。

 5KV以上の高耐圧化、さらには25W/cm3以上の高電圧に対応できれば、次世代高速鉄道、インフラ機器、各種重電機器に日本が得意とするSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体の採用が急加速していくだろう。もちろん、こうした時代にはSiCにあっても8インチウエハー採用による大口径化が進むだろう。高耐圧と高電圧対応が達成できただけではダメであり、高温実装、高パワー密度、低EMIも重要な要素となるのだ。家電や照明、IT電源、さらにはモバイル機器におけるIGBTの採用も決して進んでいるとはいえない。ピュアシリコン、SiCパワーに加えて、GaN(ガリウムナイトライド)パワーの急速な搭載も進むことは間違いない。

 パワーの有力な旗手であるロームのパワーSiCは現状で35億円程度であるが、2014年には160億円まで拡大するといわれている。三菱電機のSiCインバーターは、日本の鉄道車両に実搭載され始めた。日立製作所や東芝もすでにSiCインバーターの実機を完成させている。カーオーディオの世界では新日本無線がSiCダイオードの本格採用を考えている。
 また、GaNデバイスを家庭向けパワコンに採用する動きも強まってきた。富士通は2015年度中にGaNデバイスで100億円の売り上げをぶち上げている。東芝もまた白色照明LEDを200mmのSiウエハー上に作成し、一部量産移行している。

 一回はしぼんだかに見えたパワー半導体の世界が、次世代版に向け確実に動き始めている。省エネ、リサイクルを江戸時代から実現していた日本人の感性に最も合うパワー半導体の市場は、ここ数年のうちに2兆円を大きく超えてくるだろう。

ワイドギャップ半導体パワーエレクトロニクスロードマップ

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