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八尾医療PFI(上)、建築を含まない「運営型PFI」でも高いVFM


門井洋二氏「『公民協働』の発想、機能的組織で病院経営を成功へ」

2013/4/2

門井洋二氏
門井洋二氏
 (株)日本計画研究所主催の特別研究セミナーで、「『八尾市立病院PFI事業運営の課題と留意点と対策実務』~性能発注・長期契約を活かした業務運営、経営支援業務の実践例、今後の課題~」と題して、八尾医療PFI(株)の常務取締役の門井洋二氏の講演が行われた。講演の様子を2回にわたってリポートする。
 門井氏は、大阪府八尾市と市が属する中河内医療圏の課題、八尾市立病院のこれまでの沿革から紹介した。

■医療流出を止めるためがん治療強化などを推進
 八尾市は、大阪府の中央部東寄りに位置し、西は大阪市に、北は東大阪市に、南は柏原市、松原市、藤井寺市に、東は生駒山系を境にして奈良県に接している。面積41.71km²、2012年4月1日現在の人口は27万1066人(男性13万780人、女性14万286人)で、世帯数は12万90世帯。
 中河内医療圏は、08年の調査で患者の流入が24.6%、流出が36.4%、11年の調査ではそれぞれ22.9%、41.6%と、流出の比率が上がっている。この現実を前に、他の医療圏に流出する患者をとどめ、他の医療圏から八尾(中河内)で「治療を受けたい」という患者を増やすため、(1)医療の質(病院の魅力)を向上させるべく、がん治療を中心とした高度医療の提供体制の整備、さらに(2)地域医療機関との連携を強化するため、地域医療支援病院の承認を目標に、資格要件を満たす医療機能・医療提供体制の整備に取り組んでいる。
 八尾市立病院は、04年5月に新病院が380床で開院、当時としては画期的な地域医療連携室を設置した。同年8月には日本病院機能評価Ver.4認定を受けた。
 07年1月には肝臓がんの名医である佐々木洋氏を大阪府立成人病センターから副院長として招聘、がん治療を中心とした高度医療の推進体制の強化に着手(人材、設備・機器、チーム医療など)。08年にはがん相談支援センターの設置、ICU施設基準届出、7対1入院基本料に移行、DPC開始を遂行した。
 09年4月に佐々木氏が院長に就任し、八尾市立病院改革プラン(09~11年度)がスタート。地方公営企業法全部適用、八尾地域医療合同研究会開始、府がん診療拠点病院指定と実効のある施策を展開し、同年5月のインフルエンザ流行に対する発熱外来患者は府下の全患者の3分の1に対応、初動体制の迅速さが際立った。同年8月には日本病院機能評価Ver.6認定を受けた。
 10年にはMRIを増設(2台体制)、陰圧病床設置、心臓コールを開始、11年からがん心療地域連携パス登録を開始するとともに、府立成人病センターより兒玉憲氏を特命院長として招聘。呼吸器外科系がんの手術が加わり、5大がん(肝臓、胃、大腸、乳、肺)の外科手術が可能となった。11年には登録医制度、開放型病床の運用開始や地域医療支援病院承認に向けた取り組みの本格化、脳神経外科(入院心療)再開、総合入院体制加算も開始した。
 12年には、病院経営計画(12~14年度)策定、糖尿病センター開設、地域医療支援病院の承認を受けた。

■経営努力が実り11年度に単年度黒字達成
 病院事業収支の推移では、04年の開院から数年間は減価償却負担が大きく、また、07~08年の内科崩壊など厳しい時期があったが、11年度で単年度黒字(360万円)を達成した。資金余剰額は、06年度に旧病院跡地売却で一時的に10億円に迫ったが、07、08年度の低迷後に増額に転じ、11年度末に20億円超、12年度末には30億円となる見込み。11年度の病院事業収入、病院事業費用はともに100億円程度。
 外来患者数は、06年度には19万人に迫ったが、07、08年度は17万5000人程度に低迷は09年度から急増し、11年度は19万人弱で06年度のピークを更新した。入院患者数も06年度に12万弱を記録、07年度にいったん11万人強に落ち込んだものの徐々に増加し、11年度は12万人超となった。病床利用率は04年度の73%から11年度の87%へと上昇、平均在院日数は04年度の14.2日から11年度の11.5日へ短縮しており、理想的に推移している。
 外来単価は04年度の9473円から一貫して増額し、11年度は1万3199円と1.5倍、同じく入院単価も04年度の3万4831円から11年度には5万709円と1.5倍に増加を続けた。手術(中央手術室実施)件数は、05年度2992件、06年度2954件、佐々木氏を副院長に招聘した07年度は2879件であったが、08年度に3161件と大台を突破。以来、増加を続け、11年度は3772件、12年度は3800件をクリアする勢いである。

■八尾PFIは15年間で総事業費544億円
 八尾市立病院PFI事業契約は、04年5月から19年3月までの15年間を事業期間として、総事業費は544億円。民間事業者の業務内容は、一部の病院施設などの整備、建物・設備維持管理(ファシリティ・マネジメント)業務、病院運営業務(検体検査、滅菌消毒、食事、医療機器の保守点検、医療ガス保守点検、洗濯、清掃)、その他病院運営業務(医療事務、SPD、医療機器類の整備・管理、総合医療情報システムの保守管理、利便施設、一般管理、歯器物処理、院内保育所、その他)まで。
 サービス対価のタイプA(需要などに関係なく当初本契約に定められた一定額が支払われるもの)には、設備管理、外構施設保守管理、警備、環境衛生管理、植栽管理、医療機器の保守点検、医療ガスの供給設備の保守点検、清掃、物品管理・物流管理(管理運営)、医療機器類の整備・管理(管理運営)、総合医療情報システムの運営・保守管理、一般管理、廃棄物処理、その他(危機管理、健診センター運営、電話交換、図書室運営、会議室管理、院内保育)、SPC運営管理が該当する。
 サービス対価のタイプBには、変動係数を用いる滅菌消毒、医療事務と、単価表に基づく検体検査、食事の提供、洗濯、物品管理・物流管理(調達)、医療機器の更新後油無(調達代金相当額)が該当する。

■八尾は建築を含まない「運営型PFI」
 病院を含めて多くのPFI事業が「箱物」型といわれる、建築・施設整備が中心の事業であるなか、八尾市立病院PFI事業は「運営型PFI」を特徴としており、「運営のみのPFIで効果を生み出せるのか」という声に対して果敢にチャレンジした。八尾市立病院の建物は、八尾市が従来の公共事業により建設した。
 当初、病院が試算した運営型PFI導入によるVFM(バリュー・フォー・マネー)は7.2%で、これに対し、今回の応募に際しての提案では12.7%を提示した。
 病院運営にPFI事業が導入される背景には、もともと自治体病院の多くが医療周辺業務を委託する傾向にあり、さらに、ここ5~6年は、(1)経費削減重視型の委託と、(2)PFI方式ないし全面委託・包括委託型の二極化を示しているという。
 経費削減を最優先する場合は、競争入札により委託企業を決定するが、委託企業との信頼関係・パートナーシップを重要視する場合は、性能発注を行い、なおかつコスト削減を果たすPFIや包括委託を選択するケースが多い。コスト、スキルの面で遜色なく遂行できるのであれば、直営という選択肢もありうる。

■「公民協働」の発想で病院経営を成功へ
 門井氏によると、八尾医療PFIのミッションは、簡単に言ってしまえば「八尾市立病院のPFI事業を成功させること」であり、言い換えると「PFI事業運営を導入している八尾市立病院の経営・運営を成功させること」である。すなわち、これは八尾市立病院そのもののミッションと同じであり、ここからその課題・問題意識を共有して初めて「(公民)協働」の必然性が生じることになる。
 「公民協働」「病院経営・運営の成功」の阻害要因として、医師であれば大学、病院の責任者や事務方は議会や本庁、医療スタッフは所属長、委託職員は就職先の企業の意向を重視し、病院の経営のことが二の次となっているケースが挙げられ、「病院経営・運営の成功」のためには、まず、機能的な組織作りが大切であるとした。
(この稿続く)

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