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大和ハウス工業、医療・高齢者施設の施工は12年3月末で2377件


HAL/セラピー用/自動排泄処理など介護ロボットを多彩に展開

2013/3/26

広瀬元紀氏(左)と新倉昭人氏
広瀬元紀氏(左)と新倉昭人氏
 (株)日本計画研究所主催の特別セミナーで、「シルバー事業+老人ホーム事業+ロボット事業まるごと戦略事例&ロボット介護機器導入に向けた課題整理『医療・介護ロボット施策の展開と大和ハウス工業の取組み』」と題して講演が行われた。今回は、第二部の大和ハウス工業(株)の講演内容を伝える。講演は、大和ハウス工業顧問で大和ハウスライフサポート(株)取締役の広瀬元紀氏による「大和ハウス工業のシルバー事業の展開」、同社ロボット事業推進室課長の新倉昭人氏による「ロボット事業の取組みについて」の順で進められた。

■医療・高齢者施設の施工実績は2377件
 広瀬氏は、大和ハウス工業(株)が設立したシルバーエイジ研究所の初代所長に就任した。設立当初はバブル経済のピークで、大和ハウスの住宅事業においては施工の依頼を断っているような状況であったが、国のゴールドプラン政策も開始され、今後は医療、福祉施設が有望な市場として同研究所の設立に至ったと振り返る。
 以来、2012年3月末までに老人保健施設95件、特養ホーム・ケアハウス34件、病院90件、診療所528件、デイケア・デイサービス520件、グループホーム438件、有料老人ホーム195件、高齢者住宅66件、小規模多機能66件、その他345件の計2377件の施工を手がけた。
 高齢者人口については、2055年にかけて前期(65~74歳)高齢者は増減があると予測されるが、後期(75歳以上)高齢者は一貫して増え続けると予想され、この問題をビジネスとしてどうとらえていくかが課題である。また、都道府県別に見ると、2025年までに東京、神奈川、埼玉、千葉といった首都圏と大阪、愛知、福岡などで高齢者人口の急増が予想され、東京では特養ホームの入居は無理な状況で、また、特に増加率の高い埼玉県などでは団地居住者の高齢化やゴーストタウン化が社会問題として浮上しつつある。
 2010年から2020年の10年間で、高齢者人口は2900万人から3600万人に、うち75歳以上の高齢者は1400万人から1900万人に急増、また、高齢者単身および夫婦世帯は1000万世帯から1245万世帯へと増加する。これに対して、全高齢者における日本の介護施設・高齢者住宅などの定員数は、欧米と比べ、介護施設の定員数は見劣りしないものの、高齢者住宅の整備が大幅に遅れている。
 一方、受け皿の1つとなる有料老人ホームは、住宅型(介護事業者が居宅介護サービスを提供)、介護型(一般型・外部サービス利用型)、健康型(健康型は要介護になれば要退去)があり、民間事業者は介護型を設置したい意向が強いものの、総量規制の対象になっており、民間は住宅型の設置へとシフトしている。

■サ高住が倍々で増加、今年60~70件施工
 また、2011年度の高齢者住まい法改正により発足したサービス付き高齢者向け住宅(サ高住、1戸あたり100万円補助)が増えており、現在、10万戸程度が整備され、年に5万戸ほどの増加が見込まれている。同社では、ここ1~2年はサ高住を倍々で受注してきており、今年は60~70件の施工を予定している。ただ、サ高住の定員は増加するが、高齢化がさらに進展すれば、認知症をはじめ医療や介護の必要性が高まるため、その時のサポート体制を視野に入れる必要性を示唆した。
 その他、ケアハウス、認知症高齢者グループホーム、特養ホーム、ショートステイ、医療および介護療養病床、老人保健施設などを概説。こうした施設を設置する場合、自治体の整備枠の設定、さらに公募と事業者選定の手続きが必要で、公募による事業者としての当選率は3割くらいと明かした。地方市町村では、地縁や人的つながりが根強いが、最近は大手事業者に地元の小規模事業者の模範、基準となるような施設作り、運営を要望される傾向が出てきていると説明した。
 同社の高齢者住宅の事業スキームは、土地オーナーが大和ハウス施工のサ高住を建設、その建物と土地を地域の社会福祉法人、医療法人、介護事業者が賃貸し、医療介護および生活サービスを提供し、建物を管理する形態である。

■東京電力から有料ホーム3棟を譲り受け
 また、大和ハウス工業の子会社の大和ハウスライフサポート(株)では、東京電力から譲渡を受けた介護付有料老人ホーム3施設の運営を開始している。3施設は以下のとおりで、▽施設名(所在地、建物規模、敷地面積・建築面積、居室数、1人部屋の占有面積、建物竣工年月)の順。
▽もみの樹 練馬(東京都練馬区平和台2-50-1、RC4階一部3階建て延べ4412m²、2786m²・1469m²、85室、18m²、02年2月)
▽もみの樹 杉並(東京都杉並区和泉3-52-8、RC3階建て延べ3686m²、3704m²・1414m²、64室、21m²、06年3月)
▽もみの樹 横浜鶴見(横浜市鶴見区北寺尾4-3-1、RC3階建て延べ3155m²、4257m²・1274m²、64室、21m²、09年3月)
 いずれも、居室は全個室、緊急コールを備え、ガーデンテラスないし屋上庭園を確保。土地建物は事業主体が所有(もみの樹 杉並の土地のみ一部一般貸借権)、居住の権利形態は利用権方式、利用料の支払方式は一時金方式。

■ロボット事業の取り組みについて
わずかな筋肉の動きに反応するHAL
わずかな筋肉の動きに反応するHAL
 大和ハウス工業(株)ヒューマン・ケア事業推進部ロボット事業推進室課長の新倉昭人氏は、「大和ハウスは医療・介護施設の建築企画だけでなく、介護・福祉ロボット販売事業を加え、ヒューマン・ケア事業推進部として施設の運営サポート事業を展開している」と介護ロボット事業推進の背景を説明。少子高齢社会で求められるロボット技術3要素として(1)居住環境内での見守り、健康管理、家事支援、省エネ、(2)自立動作支援、(3)女性・高齢者の社会進出支援を挙げた。
 同社は、筑波大学大学院教授の山海嘉之氏が開発した「ロボットスーツHAL」を事業化するために設立したベンチャー企業、CYBERDYNE(株)の総販売代理店となっている。HALは人間の思い通りに動作する随意的制御(センサーが筋肉の動きを電気信号としてキャッチ)と、人間のような動作を実現する自律的制御(2000通りのプログラムをインストール)が統合されて支援動作を実現している。

■HALで歩行訓練のモチベーションが向上
 セミナーでは、脳梗塞(右麻痺)および脊髄損傷不全麻痺(右下肢)の症状が残る人にHALを装着した映像が映し出された。HAL福祉用は医療機器ではなく、自立動作支援機器であり、使用することによるリハビリテーション・機能回復等の効果の臨床データは発表されてはいないものだが、映像から、これまで後遺症に悩み歩行訓練に積極的でなかった人が、HALを使用することで、明らかにモチベーションが上がり、積極的に歩行訓練に取り組む様子が見て取れる。また、HALを外した後、自分で歩行動作を再現する「バイオフィードバック」効果にも期待がかかる。セミナー会場ではHALのセンサーを腕に装着し、かすかな腕の筋肉の動き、つまり弱い電気信号にも反応して、人間の意図に沿った動きが再現できることを実演した。
 なお、山海教授は、HALを用いたリハビリの臨床試験を進め、医療機器の承認を目指している。

■アザラシ型ロボットや排泄処理ロボットを販売
 大和ハウスでは、タテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルにしたメンタルコミットロボット「パロ」を商品化。パロは、人工知能やセンサーを内蔵し、声をかけたり触れたりすると、まるで動物のような仕草や鳴き声で反応するため、心理的利点(うつの改善、元気づけ、動機づけの増加)、生理的利点(ストレスの減少、血圧の安定化)、社会的利点(コミュニケーションの増加)があり、アニマルセラピーとしての活用に期待されている。
 アメリカFDA(食品医薬品局)は、Biofeedback Medical Device(ClassII)に承認され、医療機器としての安全性とセラピー効果を認めている。これを受けて昨年から、イリノイ州では看護師の継続研修の科目に追加され、コネチカット州では看護師養成学校の認知症ケア教育プログラムに組み込まれた。
 また、DTI(デンマーク技術研究所)は、パロの代理店となりデンマークや欧州で販売、09年からデンマークでは、パロはDTIにより免許を受けた看護師、セラピストなどが取り扱うことになっている。
 自動排泄処理ロボット「マインレット爽」は、要介護度が高く、寝たきりの人の介護において、介護する人もされる人にも大きな負担やストレスがかかる排泄処理を、ベッドに寝たまま自動で行うことができるもので、以前の販売に加え、12年からはレンタルも開始した。
 マインレット爽の導入により、介護される人は寝たきりでも気兼ねなく清潔な排泄ができ、介護する家族には負担が大幅に軽減され、また、夜間の睡眠や外出の自由度が高まり、さらにヘルパーなどに対しては施設内の介護環境が改善されるメリットがある。新倉氏は「マインレット爽は、介護現場での負担の大幅な軽減を実現しているが、もっと進化させていきたい。感度の良いセンサーなど情報があれば寄せて欲しい」と聴衆に呼びかけた。このほか、高齢期擬似体験システム「シニアポーズ」は看護師、介護士の養成学校や社会福祉法人向けに好調な販売を継続している。(この稿終わり)
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