電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第28回

半導体テスティングのコスト10分の1、労力40分の1という離れ業


~Cloud Testing Serviceはオンデマンドで最先端技術を提供する!!~

2013/3/22

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 「スピードがコストに勝つ」という現象はIT業界では、しばしば見られることなのだ。例えば、A社の半導体は最高の機能、最高の品質を誇り、価格が安いとしても、出荷するまでに3カ月かかってしまう。しかし、B社の同様の半導体は、歩留まりが少し劣り、価格が高めであったとしても、1カ月半で出荷できるとする。半導体を採用するセットメーカーはどちらを選ぶのだろう。大半の場合はB社を選ぶ。ITの世界は旬がものを言うわけであり、先に出したほうが勝つからだ。

 さようまことに、IT機器、自動車、産業機器などについては、製品開発と製造のスピードが勝負の分かれ目となるケースが多いのだ。こうした時代にあって、半導体テスティングの新しいカタチ、を追求する注目カンパニーがある。それがアドバンテストグループのCloud Testing Service(株)(東京都千代田区丸の内1-6-2、新丸の内センタービルディング、Tel.03-3214-7716)である。

Cloud Testing Serviceのスタッフ(左端は木村社長、左から2番目は渡辺取締役)
Cloud Testing Serviceのスタッフ
(左端は木村社長、左から2番目は渡辺取締役)
 この会社の考え方は、半導体メーカーに対し「テスター/計測器を買う」から、「テスティングIPを利用する」への転換を呼びかけるのだ。つまりは、ツール、ファンクション、アプリケーション、アルゴリズムなどテスティングに必要なIPをすべてクラウドで提供し、ユーザーは測定から解析まで目的にあったアプリケーションを、自由に選択・追加できるのだ。PCとインターネット環境があれば、クラウド上にある豊富なテスティングIPと貸与される卓上型テスティング端末でパーソナルユースのテスティング環境が実現できる。

 この会社を率いる代表取締役社長の木村学氏は、山口県生まれ福岡県育ち、筑波大学で物理工学を学び、大学院を経てアドバンテストに入社する。川崎でのシステムエンジニア、アドバンテストアメリカでの勤務を経て、クラウドコンピューティングによるテスティングにのめりこむ。2012年3月にアドバンテスト社内でこのグループを立ちあげ、同年10月にはCloud Testing Service(株)として分社化にこぎつけるのだ。
 「半導体テスターといえばかつて数億円という世界であり、おいそれと投資(購入)することは難しかった。設備投資が難しいお客様はレンタルでテスターを使っているが、標準的なハード構成は月額使用料金で換算すると160万円はする。
 ところが、当社のサービスを活用すれば何と10分の1の16万円で済んでしまい、コストは10分の1に下がる。さらにいえば、これまで1台のシステムを40人のエンジニアでシェアして時分割で使用していたが、これは1人1台の環境が容易に作れる。つまり労力コストも40分の1というサプライズを実現した」(木村社長)
 同社の取締役の任にある渡辺利明氏は、東京調布で生まれ、日本大学理工学部を卒業して、アドバンテスト(当時の武田理研)に入社する。そしてまた彼も半導体テスティングのシステムエンジニアとしてIPの世界にのめりこむのだ。
 「このころの半導体テスティングの環境は、ひどいものであった。現在もまだその気風が残っているが、汎用テスターのオンラインデバック待ちで3~4時間の待ち時間は当たり前。場合によっては、シリコンデバックのために1週間の泊り込みもある。ユーザー側のエンジニアも大変だ。2時間のオンラインデバックのため、テスタメーカーのエンジニアとともに待機する必要がある。
 当社のテスティングの新しい手法は、ハードコストを大きく下げるだけではなくこうした待機時間の短縮につながり、開発のTAT短縮を実現する。これまでは、こちら側が提供する最新のソフト環境に習熟するために先方のエンジニアは3週間程度の時間を要していたが、当社サービス環境ではテスト言語なしでハードウエア制御・テスト設計ができるので1時間でOKだ」(渡辺取締役)

Cloud Testing Serviceのハードはこんなにコンパクト
Cloud Testing Serviceのハードは
こんなにコンパクト
 つまりは、アドバンテストグループの新設会社であるCloud Testing Serviceは、「お客様のTAT短縮に圧倒的な力を発揮する」ことを最大の目的に作られたのだ。しかも、このシステムは、1台のパソコンとクラウドテスティングステーションという端末および接続ケーブルなどがあれば、小さなスペースですべてを実現できる。いつでも、誰でも、ポータブルに利用できるテスティング環境づくりに成功したのだ。

 「そのうえに、このステーションの端末は、わずか100ボルトの家庭用電源で駆動するわけだから、電気代も安くエコなのだ。また、半導体メーカーは常に巨大な設備投資のリスクを背負っているが、当社のサービスを利用する限り縮小、中止または拡大という点でまったくリスクがない。スピーディーに立ち上げて一刻も早く市場に出すということは、この時代にあって至上命令だ。当社が提案するテスティングの新しいカタチは、必ずや多くの貢献を果たすと信じている」(木村社長)

 ところで、木村社長や渡辺取締役をはじめ、スタッフの竹内氏、高橋氏、尾池氏などにアドバンテストの社風とはどのようなものかを聞いてみた。返ってきた答えは一様にみなと同じで、「とにかくめちゃくちゃ堅い会社である」とのことであった。

 計測とはこうあるべき、との理念を確立すればひたすらに突き進む。いたずらなわき道は通らない。これなら堅く収まるという世界で常に勝負する。そうであるがゆえに、徹底的な技術先行型の思想を持つカンパニーなのだという。そういえば、筆者に対し愛想笑いをするエンジニアはいないことに、このとき初めて気づかされた。
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