電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第26回

あくまでも半導体の本丸『MPU』にこだわっていく!!


~日本発の次世代版を発信するトプスシステムズ~

2013/2/8

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

トプシステムズ 松本祐教社長
トプシステムズ 松本祐教社長
 茨城のつくばおろしに吹かれながら、1人の男が天空を見上げている。80年代には東京・青山、はたまた90年代には米国テキサスのダラスでMPU(マイクロプロセッサー)開発に邁進したこの男は、世紀末の1999年にベンチャーカンパニーを立ち上げる。世界に通用する開発を成し遂げるまでは、半導体業界を去ることはないと胸に誓っている。この男の名前は松本祐教氏、立ち上げたカンパニーの名前はトプスシステムズである。

 MPUはまさに半導体すべての頂点に立つ製品であり、人間でいえば頭脳中枢を支配する回路であり、このチップを制したものが王者になるといわれてきた。事実上、現状のパソコンのMPUはインテルが支配し、アップルにおいてはモトローラの68シリーズが中核を占めてきたという歴史がある。半導体を開発する以上、誰もが夢みるチップ、それがMPUの世界なのだ。

 インテル支配が確立していない時代には、テキサス・インスツルメンツ(TI)をはじめ、AMD、NSなどの米国のメーカーが数多くのMPU開発に挑戦していた。日本においても日立、東芝、NECなどがやはり、ITの主役となるMPU開発を進めていた。

 しかし、多くのメーカーが挑み、敗れ、今日において新たなMPUを開発し、普及させようという企業は、ほぼ皆無といってよいのだ。ところが、世の中には諦めの悪い男がいる。言い換えれば、賭けた夢を捨てたくない男というものが存在する。松本祐教氏こそその男であり、「日本発の次世代マイクロプロセッサーを開発し、世界に普及させる」という強い意志の下に、トプスシステムズは創られたのだ。

 「茨城県古河の出身で、生家は真言宗のお寺であり、平安時代から続いている。父は36世の住職であった。自分は青山学院大学に進み、電気・電子を専攻、マスターまで進むが、磁性材料がそのころのテーマであった。しかし、次第に原子間コントロールの世界に惹かれ、当時世界最大の半導体メーカーであったTIに入社し、日本で初めて設計するDSPの仕事に関わった」(松本社長)

 TIで2年間過ごした松本氏は、半導体の本丸ともいうべきMPUの開発を自分の手でやりたいとの思いから、ベンチャーのVMテクノロジーに身を転じる。しかし、93年初めに残念にも会社解散となり、再びTIにカムバックする。マルチコアのMPU開発に全力を挙げるものの、TIはこのころDSPとアナログに特化という方向性を打ち出しており、思いが叶えられないことを知る。そこで、97年に現在の会社の前身となるトプス(TOPS)を嶋正利氏が社長、松本氏が副社長というかたちで立ち上げるのだ。この嶋氏こそ、インテルの初のMPU「4004」に関わったことで世界に知られるエンジニアであり、彼もまた諦められない男であった。TOPSという社名は1秒間に1テラの演算をするという意味の英語をもじったものだ。

 その後、嶋氏が会津大教授に転じることとなり、松本氏は嶋氏の「もう一度、世界に通じるMPUを日本人の手で開発」という夢を背負うかたちで、99年にトプスシステムズを設立することになる。

 松本氏の開発した「TOPSTREAM」というアーキテクチャーにもとづくMPUは、ヘテロジニアスな分散処理とストリーム処理により、きわめてエネルギー効率の高い分散処理システムを実現する。マルチコアプロセッサーであり、マスターコントローラーの32ビットRISCプロセッサーと最大8個までのデュアル・命令セットのデータ・プロセッシングエンジンの組み合わせなのだ。

 「このチップを組み込みに採用すれば、一桁以上の高速化を図れる。従来比1/10以下の低消費電力も実現する。簡単にいえば、ゆっくりと動きながら、様々な処理を同時並行で行う。超高速なのに超低消費電力という二律背反を実現してしまったのだ」(松本社長)

 このマルチコアプロセッサーは2001年には武田研究奨励賞の優秀研究賞を受賞、その後、様々な国家プロジェクトにおいて、日本に残存するMPU開発として多く採用されることになるのだ。しかして松本社長は、これからが本番として、このようなロードマップを打ち明ける。

 「IPビジネスでは意味がない。何としても多くの採用を勝ち取り、ファブレス半導体メーカーとして世界に名乗りを上げたい。まず、50億円以上の売り上げを計画し、2~3年度内にはIPO取得にこぎつけたい。何しろ、通常のMPUは、熱の問題で積層できないが、私たちのチップは冷たいプロセッサーであり、3次元積層も可能なのだ。いつかブレークできると固く信じている」

 最近ではアンドロイド端末、車載向け、デジタルカメラ向けなどにアプリが開けつつあり、医療系からの引き合いも出てきた。マルチコアプロセッサーの最大の強みは、画像認識に威力を発揮することであり、次世代の画像機器の時代にはうってつけなのだ。

 事業戦略顧問としては、OKI半導体で大活躍した日野原邦夫氏を擁し、最高技術顧問には、世界における低消費電力チップの第一人者である中村維男氏を迎え、いよいよ世界へ向かってTAKE OFFの体制が整った。日本半導体ベンチャー協会(JASVA)の理事でもある松本氏は、低迷する日本のIT業界が復活する日は必ず来るとして、こうコメントするのだ。

 「本丸のMPUの世界を支配しないかぎり、ワールドワイドマーケットは獲れない。ITは自動車に、環境に、そしてまたメディカルにと進化を遂げていく。マルチコアプロセッサーの時代が到来しようとしている」
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