電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第25回

12兆円の有望マーケット「有機EL」に全力投球せよ


~サムスン席巻の状況下で日本勢の巻き返しに注目~

2013/2/1

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 ノーベル賞作家の大江健三郎氏の作品は数多いが、『遅れてきた青年』は特に面白い。その中身を解き明かすことはここではしないが、大江氏の初期の作品は決して神々しいものではなく、セックスを素材に取り扱った作品が多かった。それゆえに筆者は中学生の頃から大江健三郎をえらく愛読していたのだ。

 さて、エレクトロニクス業界において「遅れてきた青年」というのは、まさに有機ELのことだろう。大体がEL(エレクトロルミネッセンス)という概念は、液晶による電子ディスプレーよりも先に生まれていたといわれる。ところが、液晶ディスプレーが飛躍的な技術の進展を遂げ一気に巨大化していくのに対し、有機ELは開発も量産も立ち遅れてしまった。

 「有機EL製造装置の開発は非常に難しい。蒸着源のところで解決できない問題も多い。また、発熱の問題を抑えるためにキラーとなる材料が必要であり、具体的に言えば固体封止膜であるが、これまた完全なものができていない」
 こう語るのは、有機EL製造装置の開発に意欲的に取り組む長州産業の岡本要社長の弁である。メーンの装置については、良く知られているようにキヤノントッキが先行し、これをアルバックが追いかけ、装置最大手の東京エレクトロンが本命ともいうべき装置を出してくる、といわれている。材料面での問題もまだ解決できないが、なんといっても決定的な装置がないことが問題なのだ。

『これがディスプレイの全貌だ!』(かんき出版、泉谷渉、半導体産業新聞編集部著 161ページより引用
『これがディスプレイの全貌だ!』
(かんき出版、泉谷渉、半導体産業新聞編集部著 161ページより引用)
 有機EL市場は必然的に、いずれ巨大化すると目されている。第一に液晶市場12兆円のうち、50%が有機ELに置き換わるとの予測もあり、これで6兆円の市場がカウントできる。今年の米国における家電見本市においては、ソニーとパナソニック連合軍による有機EL4Kテレビがかなりの話題を呼び起こした。また、量産で先行するサムスンやLGは有機ELテレビの完全な商業化をアナウンスしている。

 一般照明といわれる分野は世界市場が12兆円だが、すでに1兆円程度がLED照明に変わりつつあるのだ。この次世代照明も当初はLEDが走るものの、使い勝手や光源としての高品質を考え合わせれば、やはり有機ELが本命だとする声が多い。白熱電球や蛍光灯がいまだ主流である照明市場12兆円のうち、50%を有機ELが獲得すれば、これまた6兆円の市場が切り開かれる。液晶と一般照明の置き換えにより12兆円の巨大マーケットが開けようとしているのだ。

 しかして現状のマーケットはせいぜいが3000億円あるかないか、というところだろう。有機ELを一般の人に有名にしたのは、サムスンのスマートフォン・GALAXYに搭載されたことだ。現状の有機ELディスプレー市場におけるサムスンのシェアは80~90%と推測され、現時点ではブッチぎっている。

 しかしながら、ここに来て日本勢の巻き返しも加速している。犬猿の仲といわれたソニーとパナソニックが共同開発を進め、その成果はすでに製品発表の領域まできた。セイコーエプソンも東京エレクトロンとタイアップし、新型有機EL製造装置の開発を進めている。シャープ、コニカミノルタ、昭和電工もまた独自の開発で有機EL本格量産の道をさぐっている。パイオニアは文字どおり有機ELのフロンティアランナーであるが、三菱化学と提携し有機EL照明事業に乗り出している。中小型の低温ポリシリコン液晶で成功を収めているジャパンディスプレイも、明確に量産工場建設を意図すると表明しているのだ。

 一方、ベンチャーの動きも加速している。横浜に本社を置くエイソンテクノロジーは滋賀県大津に量産の第1ラインを建設中であり、4~5月ごろには動き出すと見られる。

 「このエイソン型有機ELは、材料使用効率が90%と圧倒的に高く、製造スピードが50~100倍違う。これで世界で勝負できると考えている」
 こう語るのは、エイソンの中川幸和社長である。山形県米沢では山形大学の城戸淳二教授の開発成果を元にしたルミオテックというベンチャーが商業量産に踏み切っている。青森県六ヶ所村にはOLED青森というベンチャーがあり、これはカネカの出資を仰いで具体的な投資戦略を作成中だ。また、九州の地にあっては、ベンチャーのイー・エル・テクノが熊本新工場を立ち上げ、店舗照明向けの量産を開始している。

 そしてまた、日本勢が固唾を呑んで見守っている画期的な材料開発がある。それは、九州大学の安達千波矢教授による液体有機ELの研究であり、一方で高効率化を目指しエネルギー差の少ない新規材料の開発にも取り組んでいる。産官学を上げての有機ELに対するニッポンの挑戦がいよいよ始まったのだ。
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