商業施設新聞
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第257回

(株)鉄道会館 代表取締役社長 平野邦彦氏


新グランスタに多彩な仕掛け
リアルとデジタルを融合

2020/11/24

(株)鉄道会館 代表取締役社長 平野邦彦氏
 JR東日本グループの(株)鉄道会館は8月3日、JR東京駅構内にエキナカ商業「グランスタ東京」を開業した。駅北側の地下1階から地上1階の店舗面積約6500m²に、66店が出店した。既存施設と合わせると、約1万1300m²、153店となり、JR東日本最大規模のエキナカ商業施設となった。コロナ禍のなか、どう展開していくのか。代表取締役社長の平野邦彦氏に聞いた。

―― 新型コロナがすべてを一変させました。
 平野 鉄道利用者が激減し、本来ピークのはずのお盆が底となった。今、回復基調にあり、9月の在来線利用者は5割を超えた。エキナカについては、デイリーや、新幹線利用客需要が落ち込んだ。東京駅は周辺に住宅がなく、また交通のハブであり、日本最大級のオフィス街であることから、その影響が大きかった。
 東京駅に来る通勤客は100%に戻らないかもしれないが、働き方改革やオフピークによる平準化で、購買行動の変化に注目する。

―― グランスタ東京開業に合わせてJR東日本が駅改良工事を実施しました。
 平野 駅のコンコースにエレベーターを5基設置し、バリアフリールートを増設した。また、従前は南側の通路だけだったが、新改札口「グランスタ地下北口」が新設された。この2ルート目ができたことは大きい。加えて通路が広がったので、視認性が高まり、縦横動線が向上した。吹き抜けもつくり、どこにいるかわかりやすくなった。江戸文様を通路にあしらうなどの空間設計に力を入れて、居心地の良さを高めた。

―― 人の流れが変わる。
 平野 従来中央や北のコンコースの流動客は足早に去っていたが、長時間の滞在や今までにない賑わいが生まれている。また、ロゴの刷新や、ポスターではなくデジタルサイネージをメーンとした告知や新たな打ち出しを行った。全体にすっきりして、ワンランク上の空間となった。東京駅に行ってみたい、探してみたいという需要が高まるのではないか。

―― どのような業種・業態を誘致しましたか。
 平野 従来型のナショナルチェーンは一切なく大半が新業態で、不足していた飲食、カフェも強化した。弁当やスイーツは従来とは異なるブランドとした。雑貨類もIDEEを誘致するなど新しくチャレンジした店舗もある。ギャラリーのようにゆっくり見て、いいものを買っていただく。
 “ストーリーのある店”をつくりたいと考えていた。有名店を誘致するだけではなく、心を動かすこと。そのひとつが「羽田市場」。羽田空港から鮮魚を直送し販売する羽田市場と協力した。さらに新幹線やJR高速バスで運び、全国から“朝獲れ”の新鮮な魚介類が、東京駅で夕方食べられる。

―― 情報発信にも力を入れています。
 平野 地下1階の吹抜空間を「スクエア ゼロ」とし、3本の立柱式サイネージを駆使してイベントや新製品発表など情報発信の場とした。第1弾で、今年中止となった青森ねぶた祭の思いを受け継ぎ、「吊りねぶた」を展示し、文化を発信した。また、催事場「PUG(ポップアップグランスタ)」を2カ所設置し、期間出店などに提供し商品の鮮度を上げていく。

―― 「東京ステーションナビ」を開発しました。
 平野 東京駅構内の店舗や駅施設・乗り場までのルート案内、飲食店やトイレ、コインロッカーの空き状況の表示、エキナカ商品をネット注文できる。わかりにくかった東京駅をわかりやすくした。さっとわかれば色々なお店に滞在する時間が増えるし、弁当やスイーツ売り場は混雑しているが、事前に予約して、受取カウンターで受け取れるので、並ぶ必要がないので非接触となり、コロナ対策にもなる。このアプリでは、地下でも現在地の表示が可能で、ホームや店舗など、目的地までのルート案内もできる。駅で必要なバリアフリールートも表示できる。これを駅版MaaS「Sta.aaS(スタース)」とする。

―― 時間をつくることは消費につながる。
 平野 列車の発車まで中途半端な時間は待つしかなく、混んでいる場所では機会ロスが発生していたかもしれない。これまで消費していた時間が、ゆとりに転換され、消費に結びつく可能性が高い。アプリは2万DLを超えて多くの方に利用されている。また、JREポイントをエキナカで始めた。顧客がどこで何を買ったかわかり、マーケティングにも使える。

―― 今後の抱負を。
 平野 交通のハブである東京駅というリアルのプラットフォームに、デジタルのプラットフォームが加わった。通過するだけから、時間を無駄に消費しない楽しむ場になった。今までのリアル(実売)のみが、ネットから買え、グランスタ限定商品が宅配や駅で一括受け取りも可能となり、まさにリアルとデジタルを融合したサービスがスタートした。このプラットフォームを生かし新たなビジネス展開を図ることが今後の課題だ。


(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2368号(2020年10月27日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.343

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