電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第22回

ついにNANDフラッシュメモリーは3次元の世界に突入


~東芝は独自の立体構造を採用、世界に先駆け四日市で量産移行~

2012/12/28

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 今を去ること15年前の1997年2月、米国サンフランシスコのホテルマリオネットで開かれたある授賞式の壇上で、一人の日本人が脚光を浴びていた。その賞は、エレクトロニクス業界で権威ある賞として知られるIEEEのMorris.N.Liebmann Memorial Awardであり、この脚光のただ中にいた日本人技術者こそ、フラッシュメモリーの発明者として知られる舛岡富士雄氏(当時東芝、現東北大学名誉教授)であった。

 同氏が提唱したフラッシュメモリーとは、電気的に一括消去が可能な不揮発性メモリーである。当時の不揮発性メモリーは、1ビットごとの書き換えが必要な紫外線消去型のEPROMであり、その点でこのフラッシュメモリーというデバイスは、画期的な発明であった。さらに、一括消去方式を採用することは、1ビット1個のトランジスタで構成できるため、占有面積で従来のEPROMの4分の1以下、コストで100分の1以下にすることも理論上可能となった。同氏はこのデバイスに対し、一括消去という機能から写真のフラッシュをイメージし、「フラッシュメモリー」と命名し、その呼び方は世界に広まることになるのだ。

 今日にあってフラッシュメモリーは、携帯電話、モバイル端末、デジタルカメラなどの主役ともいうべきメモリーにのし上がった。今後は、クラウドコンピューティングのサーバーにおける需要が急増するといわれており、成長が期待できる半導体の筆頭格ともいえるのだ。舛岡氏がフラッシュメモリーを発明したのは1984年のことであり、そんなに昔のことではない。発明に成功してから商業化にこぎつけるまでのスピードは、異例の早さであったといってもいいだろう。

 さて、現在、主力を形成するNANDフラッシュメモリーの世界は、いよいよ3次元立体構造の世界が開けようとしている。3次元構造のメモリーは2006年に学会発表されたが、それから6年しかたたないというのに、なんと東芝は世界に先駆けての量産化に踏み切るのだ。何ゆえに3次元立体構造に移行しなければならないのか。それは要するに微細化の限界を迎え、ビット単価が下がらなくなってきたからだ。現在の平面構造ではこれをブレークできない。

 これまでに提案されている3次元NANDフラッシュメモリーは、Cross Point、Simply Stacked NAND、Vertical NANDの3種類がある。東芝、サムスン、ハイニックス、東北大学は、いずれもVertical NANDを発表しておりこの路線を追求している。台湾のマクロニクスだけが少し違う路線を歩んでいる。東芝はBiCSという一括加工の技術を切り開き、最先行してほぼ実用化のレベルに持ってきた。

 半導体技術の追求については「鬼」ともいわれている東芝は、このVertical NANDの量産のためにいくつかのウルトラテクノロジーを独自に開発した。つまりは、「しきい値のばらつきを低減するために、ポリシリコンの膜厚を薄くしてしまえ」と考えつき、なんと一気に実現してしまう。8ナノという薄膜レベルであり、当然のことながら普通のCVDではできない。カスタマイズした技術がものをいっている。東芝という会社は変わった命名が好きであり、この薄膜ポリシリコンFETをマカロニ構造と名づけた。

 さらに、デバイス構造においても大胆な変更を行うのだ。通常の立体構造とは異なり、折り曲げ式にしたのだ。このことで超高温の影響を受けずにすみ、あらゆる技術的問題を解決できることになる。さらに、ワード線の低抵抗化のためにCVDメタルを用いたサリサイド技術も立ち上げた。

 すでに30Gbクラスのテストチップの試作に成功しており、動作と信頼性は完全に確認済みなのだ。そしていよいよ、2013年にも四日市工場における量産移行が計画されている。10ナノ以下を実現する世界初の3次元立体NANDフラッシュメモリーの量産ラインが四日市工場で立ち上がるのだ。

 周知のように、東芝はこの分野でサムスンとのトップ争いに総力を振り絞っている。今回の四日市における3次元構造の量産移行で一気に抜け出す考えだ。元気のないニッポン半導体の状況下で、世界初の3次元で戦う東芝の姿は、多くの日本人に勇気を与えてくれるかもしれない。


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