(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉
「少なくとも今年の前半までは、半導体設備投資はそれほど減らないと見られていた。2012年については、世界全体で前年の4兆円に対し、せいぜいが5%減程度にとどまるとされていたが、多分10%減になるだろう。2013年については、ほぼ2011年水準に戻すと思われていた。ところがここに来て潮目が変わった。2013年設備投資は、下手をすれば前年比30%減になる可能性も出てきた」
筆者が親しくする敏腕の証券アナリストの談話である。もしこれが本当であるならば、半導体製造装置および関連のメーカーにとっては、2013年は超厳冬の年になってしまうだろう。またしても、経営破綻、事業所閉鎖、リストラの嵐が吹き荒れるわけであり、ただですら暗い顔色の半導体業界は、ますます下を向いてしまうことになるのだ。
筆者が属する半導体産業新聞の記者たちの談話を総合しても、あまり明るい見通しはない。だいたいが、半導体の世界チャンピオンであるインテルにして、来年の投資をほぼ半減するといっている。つまりは、120億ドルを超えてきた投資水準を60億ドルレベルまで落としてしまう公算も大きいというのだ。さらに加えてインテルとほぼ同額の巨大投資を断行する2番手のサムスンが、やはり2013年は投資半減を打ち出している。これまた50億~60億ドル水準に落ち込むのだ。台湾のファウンドリー大手であるTSMCだけは、前年比横ばいといっており、60億ドル水準を維持すると見られている。
この背景は、やはり世界の経済状況にあるだろう。EUのクライシスはまったく抜本的に解決されていない。中国も大きく落ち込み、韓国も絶不調となっている。期待されていたブラジルもまたほぼ横ばいという状況であり、インドも、ロシアも力強さに欠ける。こうした経済情勢は2013年の秋口までは続くと見られており、そうなれば自動車、電機、エネルギー、化学など主要産業の設備投資は低迷する。当然のことながら、半導体投資も伸びるわけがないのだ。
さてここに興味深いデータがある。それは、国内半導体メーカーのこの10年間の設備投資推移である(グラフ参照)。国内メーカーが行った半導体投資のピークは2006年度であり、1兆3000億円に届こうかという勢いであった。もちろんリーマンショックの2年前の状況下でのことだ。しかして、その3年後の2009年度には何と3379億円に急落する。ピークから見て実に4分の1の水準にまで一気下降してしまうのだ。
ここからが情けない。力を失ったニッポン半導体は二度と高水準投資に戻れなくなる。2010年度、2011年度はともに6000億円前後の水準となり、2012年度については、おそらく5000億円を割り込んでくるだろう。2013年度についても強気の声はまったく聞かれず、下手をすれば4000億円前後となる可能性も強く、ピークに対し3分の1という有様だ。
ちなみに、2011年度の実績でいえば、国内メーカーで最大の投資をしたのはソニーであった。これまで投資ナンバーワンの東芝の1280億円を抜いて1500億円を投入した。すべてはスマホ向けのCMOSセンサー拡大に充てたものであった。ところが2012年度になると東芝が逆転しトップの1400億円投入、次いでソニーが900億円投入となっている。驚くべきことに、投資の第3位はLEDの世界チャンピオン、日亜化学工業であり、700億円を投入中だ。
「半導体産業は典型的な装置産業であるからして、設備投資ができなくなれば終わりだ。ファブレス、ファブライトなどのカルチャーが台頭しているが、思い切って投資できない日本勢の言い訳にしか聞こえない。体を張って投資するのでなければ勝てない」
前出の敏腕アナリストは吐き捨てるように、こうつぶやいている。しかしながら、筆者は投資する対象がないのに根性を出しても仕方がないだろう、と考えている。いま日本メーカーに必要なことは、どこに向かっていくかというビジョンであり、そのためのロードマップ作成であり、これを実現する投資プランなのだ。
筆者の考えでは、やはり高付加価値・高品質の分野以外に日本勢の出口はない。となれば、先端医療産業、次世代環境車、次世代エネルギーなどの分野で活躍する半導体にフォーカスしていくことを、真剣に模索しなければならない。