電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第18回

京都環境ナノクラスターが成し遂げたことは大きい


~ポリマーMEMS、SiCパワー半導体などに成果~

2012/11/23

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

京都環境ナノクラスター本部長 堀場雅夫氏
京都環境ナノクラスター本部長 堀場雅夫氏
 「IT産業は今や厳しい時代に突入した。これまでの産業構造論では語れない。この状況を打開するために必要なことは、やはり画期的な技術しかない。京都に結集する産官学の知恵を集めて新時代を切り開いていく」

 半導体ベンチャーの成功例として名高いHORIBAのファウンダーである堀場雅夫氏が重々しくも語った言葉である。同氏が立役者となって立ち上げた京都環境ナノクラスターフォーラム(11月13日に京都リサーチパークにて開催)の席上であった。

 筆者は京都企業がユニークであることについては、これまでにも様々に語ってきた。また、京都大学、同志社大学、立命館大学などの学の力が多くのことを成し遂げてきたことについても書いた記憶がある。
 最近の例でいえばiPS細胞で堂々のノーベル賞の受賞が決まった京都大学の山中伸弥教授は手術が下手で、かつてジャマナカと呼ばれていた。要するにいないほうがいいくらいだ、との扱いを受けていたのだ。その落ちこぼれ人生から起死回生の逆転となる技術と発見に結びつけた山中教授のスピリッツは、まさに京都のフロンティア精神を代表している。

 さて、このフォーラムは「京都生まれのワザとモノで地球を救う」と名づけられ、文部科学省の知的クラスター創成事業第II期の成果発表となるものであった。様々な発表がされたが、活目して見るべき内容も多かった。
 例えば、ポリマーMEMSの開発がそれである。これは半導体加工装置を使用しないデバイス製作であり、設備投資を抑制し、環境負荷を少なくし、かつポリマー特性に応じたデバイス設計ができるという優れものだ。具体的にはアクリル樹脂を用いたポリマーMEMS製造プロセスを確立し、静電型マイクロミラーデバイスなどにおいてプロトタイプの試作と評価実行に結びつけた。光学・医療・バイオ分野などへの幅広い応用が期待できるのだ。

 SiC半導体パワーデバイスにおいても、ロームを中心に画期的な成果発表が行われた。電力損失を70%も低減するSiCパワーMOSについては、すでに量産に入っている。また、このSiCパッケージについても、京セラが300℃/1500Vに耐えられるタイプの開発にこぎつけた。フォトニクス分野においては京都大学と日亜化学の共同研究による加色混和の新概念LEDが注目されたが、このチップは要するに蛍光体フリーLEDとなるものであり、これまたすばらしい成果といえるだろう。

 ITOの代替となる脱真空プロセスを駆使したミストCVDによるZnO(酸化亜鉛)の生産技術も面白い。120℃からの成膜が可能というものであり、透明導電膜として使えるだけでなく、CIGS系の太陽電池バッファー層、薄膜太陽電池用の拡散防止膜にも応用できる。京都大学、高知工科大學など多くの研究機関が参画して作り上げた。
 メテック北村を中心とするグループは環境調和型のナノめっきプロセスを作り上げた。希少金属のニッケルを銅と錫の合金めっきに置き換えようというものであり、これまた適応範囲は広いと思われる。京都というロケーションは伝統的な電鋳技術を持ち、これを応用した形で有機EL用のメタルマスク製造にも取り組んでいる。

 京都環境ナノクラスターはこうした様々な成果を生み出して一応は終了する。しかしここで培った技術は、参加企業の中の実ビジネスとして活かされていくものが多いと見た。

 ニッポンのものづくりにおいて、京都企業や京都の大学が果たしてきた役割は、実に重要であるが、思えば8世紀の平安京がスタートした折に陶磁器や酒造りなどのインフラがすでに整っていた。医療機器や半導体装置で有名な島津製作所の技術は、仏師に始まるといわれるのだ。
 また、様々な人たちが流れ込んで多くの文化を作ってきただけに、多様性ということも京都の特徴だ。同じクラスターであっても九州のように半導体一本やりで行くということではなく、新エネルギー、環境センサー、パワー半導体、産業資源など多くの横展開を行う技術を追求してきた。

 伝統を重んじながら新技術を立ち上げ、ベンチャーが輩出するという京都の気風は、これからも後の世代の人に受け継がれていくだろう。
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