電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第17回

究極の2次電池「シリコン+硫黄」がテイクオフする時


~日本勢はリチウムイオン電池で後退するも黄金の離れ技を持っている~

2012/11/16

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 「2次電池の中で最も期待が高まるリチウムイオン電池の世界は、かつて日本勢が圧勝であった。数年前までは世界シェアの7割を押さえていた。ところがどうだろう。ここに来て韓国企業の躍進はめざましく、ついに国別シェアでトップの座を韓国に譲ってしまった。情けない。ふがいない。悔しい」

 先ごろ開催されたケミカル関係のカンファレンスのパーティー席上で、業界関係者がいらだたしげにつぶやいた言葉である。なるほど、さよう、2011年のリチウムイオン電池世界市場の国籍別シェアは、韓国企業39.1%、日本企業38.7%、中国その他22.2%となっており、お家芸がまたもや韓国勢に屈するかたちとなっている。

 世界チャンピオンは今や韓国のサムスンSDIであり、23.8%のシェア、これに次いでかつての世界チャンピオンであった三洋電機が17.8%。3番手はこれもまた韓国勢でLG化学14.9%、4位はソニー10.9%、5位は中国BYD5.9%、6位はパナソニック4.5%と続いている。最近の情勢では、EV(電気自動車)の普及の遅れが影響し、リチウムイオン電池の市場も伸び悩んでいるといわれる。それでも、2015年には世界市場が約2兆3000億円に達すると予想されており、2011年に対し2.2倍に拡大するというのだ。

 リチウムイオン電池を育てたアプリはこれまでビデオカメラ、ノートパソコン、携帯電話であったが、今後はスマートフォン、タブレット端末がビッグマーケットとして注目されている。さらには、普及の遅れはあっても将来的にEVの世界が広がっている。また、家庭や事業所などの電力貯蔵装置向けにも出荷が期待されている。

 得意とするリチウムイオン電池の世界で韓国勢に首位の座を譲ってしまったが、ここにきて日本勢は、サプライズの2次電池の世界を切り開こうとしている。それは、すなわち「シリコン+硫黄」というまったくのユニーク素材による2次電池を登場させようというのだ。正極については、有機硫黄の化合物を採用しようというものであるが、硫黄は日本が唯一、豊富に持っている材料であることに注目してもらいたい。

 2010年段階で日本では340万tの硫黄が産出されており、世界第6位に位置し、世界の産出量の5%を占めている。硫黄は人体に無害であり、しかも1kg当たり90~200円でとんでもなく安い。高容量、高出力、高安全性という点でも文句なくすばらしい。実用化に向けてかなりの開発が進んでいるが、硫黄自体は導電性がないため、これを封じ込める材料に導電性が必要となり、この問題を解決しなければならない。その意味ではバインダーの開発も重要だといわれている。

 さて一方で、負極にシリコンを使うというのも離れ技だ。シリコンはご存知の通り、半導体の基礎材料であり、太陽電池においても重要材料となっている。シリコンの安定性は抜群であり、ガスバリアフィルム用の蒸着材料としては、すでに広く利用されている。シリコンの電極としての理論容量は、200mA/gと高く、グラファイトの6倍もあるのだ。ただし、問題は高温における動作であり、現段階では900℃まではいけるのだが、それ以上の領域がまだまだなのだ。EVの分野を切り開くためには、もう少し高温動作に問題がない状況を作らなければならない。

 「正極に硫黄、負極にシリコンという2次電池は、日本勢が世界に先駆け開発に着手し、テイクオフの方向性が見えるところまで来ている。コスト、使い勝手、性能のどれをとってもすばらしく、究極の2次電池といえるだろう。2次電池の世界では、これまで活物質の開発ばかりをやってきた。しかし今後は、バインダーを含めて総合開発の重要性が出てきた」
 こう語るのは、この分野に詳しい産業技術総合研究所のユビキタスエネルギー研究部門上席研究員・グループ長(神戸大学大学院併任教授)の境哲男氏である。境氏の主張するところは、「電池は単一性から多様性の時代へ」移行しているということであり、ここに日本の出番があるというのだ。

 つまりは、低コストで大量生産の世界は中国がやればいい。ただし、安全性にかなりの問題がある。実際のところリチウムイオン電池の爆発でEVが吹っ飛び、死亡事故も出ているのだ。これに対し、わが国ニッポンは高付加価値の専用電池の分野で勝負すべきだと境氏は示唆する。日本企業の今後の方向性が高機能、高品質、高付加価値、高価格の世界といわれているだけに、2次電池の分野においても、まさに驚きのシリコン+硫黄でブレーク、ということになるのであろうか。



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