電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第15回

ニッポンエレクトロニクスの砦は一般電子部品にあり


~いまだ世界シェア40%を握る底力に期待~

2012/11/2

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 「日本の電機産業が苦境にあることは間違いない。とりわけ家電産業が厳しい。半導体や液晶の分野においても日本勢の後退が問題になっている。しかしながら、一般電子部品の分野については、日系が世界シェアの4割を握りエレクトロニクスの砦を守っているのだ」

 こう語るのはアルプス電気の片岡政隆会長である。片岡氏によれば、多くの強力なセットメーカーがこの日本に存在するために、一般電子部品の研究開発と量産技術の蓄積が進んだと指摘する。アルプス電気もまた一般電子部品の大手であるが、日本勢では積層セラミックコンデンサーでトップシェアを誇る村田製作所、半導体だけでなくチップ抵抗などにも強いローム、さらにはTDK、京セラなど錚々たるメンバーがこの分野には存在する。

 アルプス電気の場合、1975年当時に500億円程度であった売り上げを、10年後の85年には実に6倍の3000億円に押し上げ、電子部品メーカーとしての世界的地位を獲得した。つまりは、アルプスが伸び続けた75年から85年の間の10年こそが、日本の電機産業大躍進の期間であった。このころデジタル技術は一般的ではなく、アナログ設計が中心であったために、日本の持つカスタマイズの力が生きたのだ。しかしながら現在では、デジタル大全盛時代を迎え、多くの部品が共通化されるにいたって、日本の地位は相対的に大きく揺らいできた。

 JEITAによれば、世界の電子デバイスは2012年の見込みで52兆6000億円に達するとしている。このうち最大のものは半導体であり、全体の45.7%を占め24兆1000億円。これについで一般電子部品が33.7%を占め、17兆7000億円となっている。ディスプレーデバイスは20.6%で10兆8000億円という内訳だ。長くエレクトロニクスを見てきた方であれば、すぐに気づくであろうが、かつて半導体の地位は非常に高く、一般電子部品の2~3倍のスケールであった。しかし、ここに来て半導体が停滞する一方で、じりじりと一般電子部品が上がってきた。つまりは、半導体との金額をかなり詰めてきたのだ。ところで、一般電子部品とは、半導体や液晶を除く電子部品のことであり、代表的なものとしては、コンデンサー、スイッチ、コネクター、プリント回路、各種センサーなどがある。

 一般電子部品がここにきて堅調に上昇しているのは、なんと言ってもスマートフォンやタブレット端末などのモバイル機器の拡大が大きいだろう。アップルのiPhoneやiPadなどに使われる一般電子部品は70%以上が日本製であるとも言われている。スマホはいまや化け物商品であり、ここに来て少し弱くなってきているものの、2013年には8億5000万台となる見込みであり、パソコンの3億5000万台を大きく上回り、一般携帯電話の12億台の市場をバリバリと侵食していくのだ。アップルとサムスンのトップ争いがいまやIT業界の最大の話題であり、この2社に納入できるかどうかで勝ち組と負け組に分かれるとさえ言われている。ちなみに、アップルのiPhone5が本格出荷しているが、来春には新型GALAXYのS4がサムスンから発表されるだろう。先ごろ入手した情報によれば、サムスンはこれまでGALAXYに有機ELを搭載し、それを売りにしてきたが、様々な技術的不具合でついにギブアップするという。つまりは次世代版GALAXYは液晶に変更するということを内定したもようであり、シャープやジャパンディスプレイの中小型液晶に追い風が吹くかもしれない。

 それはさておき、何故に日本勢が一般電子部品に強いのかといえば、ソニー、パナソニック、東芝など多くの有力なセットメーカーに育てられたことがやはり第一要因だろう。また、半導体や液晶と異なり、かなりアナログ技術を駆使しなければならないこと、材料から作りこむ技術が必要なことなども日本勢を有利にする。

 「アルプス電気の場合、一般電子部品は車載が50%、民生・産業機器が50%となっており、やはりここに来て車載向けが伸びている。おおよそ2000社と取引があるが、どのくらいの点数を作っているのかとよく聞かれる。実のところ多すぎて数えたことがない。ただ、部下たちと話していたときに、少なくとも20万~30万点は作っているだろう、とのことであった」(片岡社長)

 これでお分かりだろう。一般電子部品は搭載機器に合わせこむカスタマイズが命なのだ。同じものを大量に作るということでは、もはやアジア勢には勝てないかもしれない。しかし、機器のニーズに合わせこむという点では、日本勢の右に出るものはいないだろう。ところで、これまで堅調であった一般電子部品については、日中対立問題や新型スマホ向け部品需要の立ち上がりの遅れもあり、先行きを懸念する声が強い。しかし一方で、スマホの生産をかなり多く担っている台湾の景気に底打ちの兆しが出てきている。はてさて、2013年の一般電子部品の生産はどうなるのか、これは神様でもわからない。


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