(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉
LEDの世界チャンピオン、日亜化学のLEDは
本当にまぶしいくらいの高輝度だ
世界的な省エネルギー革命が進む中で、LED照明の存在感が増している。オフィスや工場などで全面的にLEDを採用するという動きも少なからず出てきたのだ。ちなみに、筆者の家でも白熱電球がひとつ切れるたびにLEDに替えており、暖かい電球のオレンジ系の色と白色のやや冷たい色が部屋の中でまだら模様に交差している。これは実のところ、かなり気持ち悪い部屋の空間となっているのだ。
まじめに勤め上げてはいるが、なかなか収入の上がらない若い夫婦が乏しいお金をはたいて、玄関のライトだけをLEDに替えたという話を聞いたことがある。私たちはとても貧しいけれど、何とかして省エネルギーに貢献したいとの思いが、たったひとつの玄関のLED電球に表されているのだ。その話はなんとも、いじましく、切なく、美しいと思えるのだ。しかしながら、金銭的にはうだつのあがらない若い夫の腕を、両手で強くつかんで肩に首を持たせながら、かの若妻がこういったとすれば話は違ってくる。
「電球は切れてしまうけれど、LEDは半永久的に切れないのよ。だからあなたと私もこのLEDのように一生切れることはないと思うわ。もし、ふたりの間が切れたとすれば、あなたが一生に稼ぐ賃金のすべてを慰謝料に当てることになるのよ。うふふふふ」
こう耳元でささやかれ、キスをせがまれても大概の男であれば少しは引いてしまうだろう。男というものはやっぱり生産手段でしかないのか、という思いが頭を掠めることは間違いない。
それはさておき、LEDの需要はこの数年間、加速度的に伸びてきた。一般的な白熱電球や蛍光灯の置き換えとしての需要もそれなりに生まれてきているが、なんといっても液晶テレビやスマートフォン、携帯電話などの液晶の光源、つまりはバックライトとしての伸びがすさまじかった。ところが、ここに来て、これまで急成長してきたLEDの世界に異変が起こっている。2010年に全世界で生産額1兆2000億円に押し上げたが、これは実に前年比65%増という驚異的な伸びであった。しかしながら、2011年はわずかに+5%、2012年についても4%程度の微増といわれており、要するに急速な伸びが止まってきた。
この最大の理由は、液晶テレビの飽和状態にあり、バックライト用LEDの需要は限界普及率70%超えが間近に迫っているのだ。おそらく、バックライト用途としてのLEDは2013~2014年には市場が縮小へと向かうだろう。そしてまた、価格下落は急速であり、コストで強いといわれる台湾や韓国などの海外勢であっても採算性は非常に厳しくなっている。
こうなればやはり、LED業界全体としてはIT機器の光源需要に頼ることなく一般照明部門を拡大していく以外にはない。世界全体の照明市場は10兆円はあるといわれており、これを置き換えただけでも大変なことになるのだ。しかしながら、有力なライバルが虎視眈々とLEDの市場をうかがっている。そのライバルとは、ディスプレーとしても有力であり、かつ自発光であるために光源としても使える有機ELであり、今年に入って台頭の兆しを見せ始めている。この有機ELの市場はわずかに2000億円程度であり、現状ではサムスンが90%のシェアを握っている。ほとんどがスマートフォンのディスプレーとして使われているといっていいほどだ。
ところが、これまで劣勢であった日本勢も有機ELを一気に拡大しようとしている。本来なら、手を握ることさえ汚らわしい、とされていたソニーとパナソニックが有機EL分野においては共闘すると言い始めたのだ。もはや日本国内同士で争っているときではない、という状況が天敵同士を結びつけた。ジャパンディスプレイも有機ELの量産に向けた準備を進めている。そしてまた、総合化学トップの三菱化学がパイオニアと共闘し、有機ELに本格参入するという動きもある。こうした日本勢の巻き返しは注目に値するといってよい。
「LEDという世界は日本がフロンティアランナーであり、技術も大きくリードしてきた。2012年については、世界トップの伸び率(+12%)を記録することになるだろう。省エネルギー意識の強い国民性がLED需要を押し上げており、一般家庭における採用の急上昇が目立ち始めた」
こう語るのは台湾光電科技工業協進会の幹部の一人である。台湾はこの数年間LEDを急拡大し、2011年はトップシェアを持つ日本を破り、シェア27%で世界チャンピオンの座を奪取するにいたった。しかしながら、2012年は液晶テレビ減速のあおりを受け、台湾は2%のマイナス成長を余儀なくされる。相対的に日本のシェアは上がり、約30%のマーケットシェアを獲得し世界チャンピオンを奪い返すことになるのだ。ちなみに、LEDの3番手は韓国(シェア20%)、次いで欧州(同10%)、中国(同9%)となっている。メーカー別でいえば、徳島の日亜化学工業が相変わらずの世界トップの座を守っており、今後も巨大設備投資を断行すると強気の姿勢だ。
液晶テレビのバックライト光源の減速、さらには有機ELというライバルの台頭があり、LEDの将来像はこれまでのようなバラ色の絵図は描けないかもしれない。かつて、昭和30年代の日本の家庭の夕食のときに、家族みんなと食事をするちゃぶ台を照らした白熱電球の光は、人々を幸せにした。LEDもやはり幸せ指数の高い商品であり、今後とも拡大を続けてもらいたいと切に願う。