電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第13回

日本の半導体製造プロセスの問題はこれだ


~工程数をとるか、スピードをとるかの勝負~

2012/10/19

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 「日本の大手半導体メーカーの場合、先端のナノメートルプロセスは実に600工程に近いラインに分かれており、約2カ月の生産期間がかかる。これに対し、サムスンのラインは400工程しかない。歩留まりは日本メーカーがサムスンに対し、10~15%勝っているが、日本メーカーの2カ月に対し、サムスンは1カ月ちょっとで作り上げてしまうわけだから、コストはかなり安い。しかも、旬のときにユーザーに出せる」

 筆者が親しくしている有能な半導体コンサルタントが、深い息をつきながら語ってくれた言葉である。一体に日本と韓国、または台湾の半導体産業を比較した場合に、技術では日本が上なのにマーケティングで負けている、という論調が多い。確かにそういう時期もかつてはあっただろう。しかして現状において、いまや巨大化したサムスンは、スマートフォンの代表格であるiPhoneのメーンとなるCPUのファンドリーを引き受けているくらいだから、その技術力は相当に高いのだ。「メモリーは量産できても、ロジックは苦手で作れない」というサムスンに対する批評が多くあったが、今となってはチャンチャラおかしいことになる。

 ロジック回路の作りこみにおいても、その製造プロセスにおいても、サムスンは超一流の技術を保有しているのだ。おまけに、不況になっても勇気を出して巨大投資を断行するのであるから、日本勢が苦戦するのは当然の帰結といえよう。

 「半導体企業の人員構成を見れば、ニッポン半導体の歪んでいる構図が浮かび上がる。日本企業は管理部門が圧倒的に多い。ところが、営業・マーケティングのマンパワーも足りない。技術部門では検証・検査サポートに膨大な人員がさかれており、一方でソフト開発が極端に少ない傾向がある。こうした人員配置を見れば、日本勢が韓国勢や米国勢に負けていく問題点が浮き彫りになる」

 こう語るのは、半導体業界でも最古参のアナリストとなった南川明氏である。南川氏によれば、日本を除く外国勢は、回路設計、ソフト開発に人員を徹底的にフォーカスしており、ここの技術力で日本勢は負けていく、と指摘する。つまりは、よく言われる「日本の技術はよいが、コストで負ける」という点も、はてさてと疑問を投げかけるのだ。

 日本のプロセスエンジニアは製造装置に対し、非常に厳しい条件に合わせこむ。いわば設計から回ってきた方法論を徹底的に機械にやらせるという手法をとる。結果的には多くの時間がかかる。TSMCやサムスンなどは生産の作りこみのところで不具合が出れば、直ちに回路設計を含めて設計部門に修正するべく指令を出すのだ。あっという間に全体最適を図ってしまう。ところが、日本の半導体製造の現場においては、設計にフィードバックして直ちに全体プロセスを見直す、というカルチャーが非常に不足している。要するに日本の半導体製造プロセスにはスピード感がない。

 こうした全体最適のプロセスは、強力なトップダウンでやるしかないのだが、日本のカルチャーはいまだにボトムアップなのだ。それゆえに、生産効率は悪く、コストが高くなり競争力がない。和の精神は日本の宝物といわれるが、半導体製造においてはこれがうまく機能しない。ちなみに、半導体における人件費はたったの4%程度であり、他の産業に比べ極端に少ない。日本勢は口をそろえて労働コストが安いアジアには勝てないと言い訳するが、これまた意味がない。

 歩留まりをとるのか、スピードおよびコストを取るのか、という命題について、日本の半導体企業は今こそ真剣に考える時がきたのだと思えてならない。そしてまた、断トツの世界シェアを持っていたときのファイティングスピリッツを、もう一度取り戻してほしいと切に願う。

 いまや新興国を中心とするアジアの時代が到来している。消費においても生産においてもアジアが主役の時代なのだ。この情勢下にあって、日本という国の役割、そしてまた世界に冠たるニッポンの技術力は、我々が考える以上に重要なポジションなのだ。そのことを深く自覚するときが来たように思う。

「最新 これが半導体の全貌だ!」(かんき出版、泉谷渉著)101ページより引用
「最新 これが半導体の全貌だ!」(かんき出版、泉谷渉著)101ページより引用

サイト内検索