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東大ヒトゲノム解析C、スパコンSHIROKANEがゲノム医療リード③


世界は全ゲノムシークエンスへ、成長するAIが診断・治療支援も医師が最終判断

2020/6/30

宮野悟センター長とSHIROKANE
宮野悟センター長とSHIROKANE
 医療と介護の総合展(大阪)医療IT EXPOの基調講演「がんの個別化ゲノム医療にAIとスパーコンピュータが必要な訳」(講師・山口類氏)を紹介する第3回は、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター(宮野悟センター長)のエピソード2と3、Watsonの成長、AIの薬事規制上の位置づけ、がんゲノムシークエンスの世界の趨勢について取り上げた。

 エピソード2「全ゲノムシークエンス&AIでなければこんなことに」として、当初、急性骨髄性白血病再発の診断であった患者の全ゲノム解析の結果から慢性骨髄性白血病の可能性が強く示唆された例や、Ph染色体陰性急性リンパ性白血病の患者から、全ゲノム解析によりPh染色体が検出された例など、ゲノム解析により診断や治療法が変わった例が紹介された。

 エピソード3「Watsonの限界を認識しつつ医師たちは頑張った!」は、2018年、急性リンパ性白血病と診断され、抗がん剤治療により寛解状態の男性のケースで、主治医から患者と家族に対し、「移植せず再発した場合、その後の治療で長期生存できる可能性は1割以下です。移植した場合、2割以上の方が治療による合併症で亡くなられます。あなたの白血病には移植が必要かどうか私には分かりません。移植、どうしますか?」と言われた。

 主治医の言葉の背景には、診療ガイドラインにおいて、「抗がん剤治療を行い、微小残存病変陰性なら移植は不要、微小残存病変陽性なら移植が必要、微小残存病変が測定できない場合、移植を考慮しましょう」とされているためである。

 そこで家族は、東大医科学研究所附属病院ゲノム診療部の古川洋一教授の「医科研でのがんのゲノム医療」の講演を聴き、古川教授に相談した。研究参加を条件に、ゲノムシークエンス解析と微小残存病変測定を希望したため、血液腫瘍内科(東條有伸教授)で行った。治療前の試料の全エクソンシーケンス解析では微小残存病変があるとは確定できなかった。そこで、全ゲノムシークエンス解析をすると、12番染色体と17番染色体の構造異常によるTAF15-ZNF384融合遺伝子が見つかった。これまでに、TAF15-ZNF384融合遺伝子による白血病が報告されており、これを微小残存病変マーカーとして使えることが分かった。

 そしてその全ゲノムシークエンスで見つかった微小残存病変マーカーを調べることで、抗がん剤治療による微小残存病変の消失が確認された。その結果、リスクの高い移植を回避することができた。TAF15-ZNF384融合遺伝子による白血病の既報告を調べると世界で19人目の患者であった。

 Watsonは、16年の段階では、学習が不十分であるため、専門医が判断したドライバー変異を見逃すことも多かったが、18年の解析症例の抜粋(7症例)では、専門医とWatsonの判断したドライバー変異が一致するなど、大幅な成長がみられた。

 ここで、山口氏は、AIを用いたシステムの薬事規制上の位置づけについて触れた。医療機器該当性、膨大なデータと学習機能の評価が課題であり、同じ変異情報ファイルを入力しても、1カ月後にはデータが増え、AIが学習しているため、提示される結果に変化がある。こうしたなか、18年12月19日に厚生労働省医事課から届いた通知文によると、「AIを用いた診療・治療支援を行うプログラムを利用して診療を行う場合についても、診断、治療等を行う主体は医師であり、医師はその最終的な判断の責任を負うこととなる」が、この通知文により、医師が最終的な判断の責任を負うことで、AI導入が可能となり、京都大学附属病院においてもWatsonが使えることとなった。

 山口氏は、最後に、15年に遡っての知見(Canada British Columbiaのグループの12~14年の研究)として、「末期のがん患者群に対し、全ゲノムシークエンスを行って解析した場合、78人中、55人において治療標的となる変異が見つかり、そのうちの23人が実際にそれに基づく治療を受けた。一方、同じ患者群に対してパネルを使った場合、81人中、結局、治療につながるものは全くなかった」と紹介し、「全ゲノムシークエンス解析とパネル解析、あなたならどちらを選びますか?」と問いかけた。

 山口氏は、英国NHS(National Health Service)のゲノム医療の方向「がんだとわかったら全ゲノム解析を行い、診断・治療選択・予後予測」(19年)を例に、「世界は全ゲノムシークエンスに進んでいっている。日本もそれに向かって進んでいって欲しい」と希望を語り、講演を終えた。

(編集長 倉知良次)
(この稿終わり)

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