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東大ヒトゲノム解析C、スパコンSHIROKANEがゲノム医療リード①


全ゲノムシークエンスは500ドルから100ドルへ、加齢に伴うがん化のメカニズム解明

2020/6/16

山口類氏
山口類氏
 医療と介護の総合展(大阪)の医療IT EXPOが開催され、その基調講演として、「がんの個別化ゲノム医療にAIとスーパーコンピュータが必要な訳」が2月26日に行われた。東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターは、スパコン「SHIROKANE」を駆使し、日本トップのがんゲノム研究の成果を生み出してきており、そのセンター長でがんゲノム研究の第一人者である宮野悟教授が講演を行う予定であったが、急用のため登壇できず、同センターの研究に参加し、現在は愛知県がんセンターのシステム解析学分野の分野長で、がんゲノム医療センターの副センター長である山口類氏が講演を行った。

 山口氏は、九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻修了した理学博士で、東京大学医科学研究所の宮野センター長のもとで13年間にわたり研究に参加し、19年2月より現在の愛知県がんセンターシステム解析学分野・分野長となった。

 山口氏は、がんになる原因として、「DNAはたばこの煙や放射線、ウイルス感染などの環境因子や加齢による変わる」ことがあり、DNAを構成するA、T、C、Gの塩基配列の一部が変わっても、「ほとんどが『修理』されたり、警察(免疫細胞)に『逮捕』されるが、システムが異常になるとそれができなくなり、警察に捕まらなくなったり、細胞増殖にブレーキが効かなくなって」、がん化・がん細胞の増殖が起こると説明した。

 がんの可能性を探るには、塩基配列の「変異」を全部抜き出す必要があり、その「変異」には、塩基が別の塩基に置き換わったり、そのほか、挿入や欠失、転座、逆位など様々なタイプがある。

 このA、T、C、Gの文字で綴られるゲノム情報(ヒトの場合30億文字のDNA情報)をコンピュータで読めるように取り出すことを「シークエンス」、その装置を「シークエンサー」と呼ぶと説明し、「ヒトゲノムのシークエンスの費用は、今は500ドル。そして、100ドルの時代が到来しようとしている」と続けた。

 MGI社の新しいシークエンサー「DNB-seqT7」は、1セット1億1000万円弱の価格であるが、24時間で6Tbのシークエンスが可能で、これ1台で1万人全ゲノム(90Gb、30カバレッジ)シークエンスを6カ月(166日)ででき、試薬費用は今まで独占的であったイルミナ(Illumina社製「Novaseq6000」)の実質価格の3分の1程度で可能であり、DNB-seqT7であれば、1人5万円で実現する。

 元データである生のDNAサンプルを次世代シークエンサーにかけると、100文字ぐらいの文字列断片データ(シークエンスデータ)が大量にコンピュータに吐き出される。現状は1000文字に1文字くらいのエラーが入るため、シークエンスデータからゲノム上の変異を正確に検出するためのアルゴリズムの開発が必要であった。

 それらのアルゴリズムを用いて、スパコンは、正常ゲノム9億ピース(900億文字/100文字)とがんゲノム12億ピース(1200億文字/100文字)の2箱のジグソーパズルを解き、がんのシステム異常の原因(親からもらったゲノム、がんのドライバー遺伝子、がんゲノム)を暴きだすことができる。

 こうした成果を生み出してきたのは、「ヒトゲノム解析センターのスパコン『SHIROKANE』であり、がん研究に必須のインフラとして、日本のトップがんゲノム研究はほぼすべてこのスパコンから出てきた」と説明する。計算能力は、19年から1.5PFLOPS、THINノード:5GB/CORE、Fatノード:2TB/node、高速ストレージは30PB高速ディスクアレイを誇る。通常ストレージは100PB(IBM社製テープアーカイブ+1PBニアラインディスク)。

宮野悟氏
宮野悟氏
 続いて、SHIROKANEとがんの変異を正確に暴き出すソフトウエアによるがんゲノミクスの成果の数々が宮野教授および小川誠司教授(京都大学)のグループの共同研究を例に披露された。「がんがどのようにT細胞(キラー)から逃れているのか」という課題に対し、遺伝子PD-L1のタンパク質をコードしていない領域の構造異常が原因で、PD-L1タンパク質が異常に作られ、それを「賄賂」のようにT細胞(「警察」)の「賄賂受け取りポケット」に渡され、その結果、T細胞はがん細胞を殺さなくなったことが判明した。これは複数種類のがんで観察された。

 再生不良性貧血においては、変異を蓄積しながらクローンが進化していることを見出し、これはがんの予防・早期発見に示唆を与える。

 また、加齢に伴う正常組織の遺伝子異常とがん化のメカニズムを解明した。食道がんにおいては、遺伝子変異が乳児期から獲得され、加齢とともに増加し、70歳以上では全食道面積の40~80%が、がん遺伝子の変異を持った細胞で置き換わる。がんがなぜ高齢者に生じ、「飲酒」や「喫煙」によって促進されるかを解明し、がんが生ずる初期のメカニズムの解明の突破口を創ったとともに、がんの早期診断、予防、がんの死亡率の低減に資する大きな社会的意義を獲得した。これには、0.5mm微小サンプル解析システムの開発と超大量シークエンスを実行した。

(編集長 倉知良次)
(この稿続く)

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