(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉
自動車向け半導体は急速に伸びている
(環境車AQUA)
世界の半導体市場は伸び率が急速に鈍化している。2006年ぐらいまでの40年間については、実に年率12%で伸びるというウルトラ成長産業であった半導体産業は、明らかに成熟化の様相を見せ始めた。ガートナー社の調べによれば、2011年の世界半導体市場は約3000億ドル(約24兆円)であり、2012年については多少上方修正されたものの前年比4.6%増にとどまる。その後の3年間も伸びが鈍く、2015年でようやく3750億ドルになるという予想だ。ITハードに頼っている限りは仕方がない。
「まったくもってどうしたことだ。日本の電機産業、とりわけ家電産業は全軍総崩れの様相ではないか。目の付けどころがシャープでしょ、などというテレビコマーシャルを流し、老齢にして純情という化け物女優の吉永小百合をCM起用していたシャープは、事実上、経営破たんの危機ではないか。ニッポン半導体の象徴であるDRAM量産のエルピーダメモリもマイクロンに買収されるという有様だ。エレクトロニクス産業は、壇ノ浦が近づいているのか」
筆者は全国各地へ公演の旅に出ることが多い。元気の出るスピーチをしてくださいと主催者に頼まれるが、こうした状況下ではなかなか難しく、口も重くなるのだ。はっとして会場を見渡せば、うつろな眼をした聴衆がため息をつきながら、筆者の話を聞いている。講演後の立食パーティーで酒が入れば、ようやくにして口が軽くなるが、聴衆たちの多くからは上記のような言葉が吐き出されることになるのだ。
しかして筆者は考える。確かに日本の家電産業および半導体は、非常に厳しい局面を迎えている。しかしこれは日本だけのことであろうか。いまや液晶テレビ市場を制覇した韓国のサムスンもLGも、この分野に限っては決して儲かっているとはいえない。液晶ディスプレーは在庫の山を築いているとも言われる。世界最大の携帯電話メーカーであるノキアも、ここに来てまったく元気がない。同じくパソコンの世界チャンピオンであるヒューレットパッカードも、決して儲かっているとはいえない情勢なのだ。
最大の理由は世界のIT市場の成熟化にある。購入人口が二十数億人しかいないといわれるパソコン市場にあって、今や出荷台数は4億台に近づいており、限界成長率をとっくに超えた。2億台以上を出荷すれば危険レベルになるといわれる液晶テレビも、2010年から2011年にかけて2年連続で世界出荷2億台を超えてきた。携帯電話にいたっては、世界人口が70億人であり、電気を使える人口が50億人しかいないというのに、なんと世界出荷12億~13億台レベルまで来ている。そこまでくれば、どうにもこうにもならない。それでも携帯が伸びるという人は、頭は中学生以下だ。スマートフォンやタブレットのようなヒット製品が出てきているものの、世界のITマーケット120兆円はここ3、4年踊り場状況を迎えるだろう。そうなれば半導体産業も大きくは伸びない。
しかしてITのカリスマ成長神話は止まったとしても、半導体産業は決して衰えることはないと、筆者は考える。なぜならば、環境エネルギー、医療産業、自動車といった新アプリが育ってきており、これらが新たな半導体市場を切り開くと考えるからだ。このうち、自動車向け半導体はここに来て大きく伸ばしてきており、2012年市場は実に前年比11.5%増が見込まれているという。
一方、半導体設備投資を見れば意外と減っていない。ただし、近い将来も大きく増えるとはいえない。これもまた、IT市場の飽和状態を反映している。ガートナー社によれば、2011年の世界の半導体設備投資は、430億ドル前後であり、2012年はマイナス11.6%を予想している。その後緩やかにもどるが、2016年段階でも500億ドルは超えてこない。ただ、この間に急速に落ち込むことがないのは、いわゆる3Dトライゲートトランジスタの登場により、前工程設備が大きく変更を余儀なくされるからと見られる。つまりは40年ぶりのトランジスタ革命が半導体投資を支えるというわけだ。