電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第9回

パワー半導体の将来予想はどうあっても明るいのだ


~自動車向け期待が減速しても環境エネルギーが加速~

2012/9/14

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 国内のガソリンスタンドは4万カ所近くある。電気自動車を普及させるためには、急速充電設備を少なくともガソリンスタンドの10分の1に当たる4000カ所にしなければならないといわれる。現在の国内の電気自動車向け充電設備は1300カ所にとどまっている。

 日産自動車、住友商事、JX日鉱日石エネルギーなどは先ごろ、共同で電気自動車向けの急速充電設備を2020年までに4000カ所まで増やすと発表した。設置コストは1カ所で400万~500万円程度と見られる。

 こうした動きの一方で、自動車向け半導体はあまり伸びないのではないかという意見が出てきた。つまりは、次世代環境車がハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EVというロードマップで進めば、確かに自動車向け半導体は現在の3~4倍まで市場が膨れ上がるという読みは正しい。ところが、第3のエコカーともいわれるエンジン車が登場し始めた。マツダのスカイアクティブという技術は、その代表例であり、ハイブリッド車でもないのにリッター30km走るという低燃費車を達成してしまった。

次世代自動車の普及目標(政府)

 さらに加えて、米国におけるシェールガス革命が進展していけば、石油の代替エネルギーとしてシェールガスが自動車燃料の主役にのし上がることも考えられる。つまりは、シェールガスをはじめとする天然ガスエンジン車が増えてくるのは確実なのだ。こうした状況の変化により、IGBTをはじめとする自動車向けパワー半導体は、バラ色の成長予想の軌道が描けない、ともいわれている。

 確かに、自動車産業は世界最大の工業であり、市場規模は少なく見積もっても300兆円あり、ここ十数年のうちに500兆円まで膨れ上がるという予想が出ている。これに対し、IT市場は120兆円で足踏みし、世界的に見ても成熟化を迎えつつあると指摘される。

 日本経済における自動車産業の位置づけも重い。何しろ国内すべての製造業出荷額の約20%が自動車であり、おおよそ60兆円の巨額に上っている。就業人口も全体の約1割を占めている。日本の家電産業は一気に後退している一方で、トヨタの今年の生産台数はブッチギリの世界第1位に返り咲くとの予想が多い。いわば、日本経済は自動車産業のみの一本足打法ともなっている。

 それはさておき、次世代環境車向けのパワー半導体が、様々な理由で期待値を大きく下回るとしても、パワー半導体全体の市場は、2015年には200億ドルを超えてくることは確実と見られる。2010年段階で140億ドル市場であるから、まさに緩やかな右肩上がりという成長市場なのだ。この予想は、ガートナー社によるものであるが、筆者としてはこの予想を下方修正する必要はないと考える。

パワー半導体の市場規模

 その最大の理由は環境エネルギーというビッグマーケットがあるかぎり、IGBTをはじめとするMOS-FET、ダイオードなどのパワー半導体は、その分野で用途も数量も広げていくと見られるからだ。太陽光発電は、太陽電池自体で見ればたかだか6兆~7兆円のマーケットと見られるが、世界的なメガソーラーブームが巻き起こっている以上、やはり最終的にはかなりの伸びを示すだろう。ここに使われるパワコンが重要であり、IGBTが多く搭載される。つまりは、太陽電池が加速度的に成長していけば、加剰算的にパワコンも伸びるわけであり、IGBTも出荷を増やしていく。また、風力発電も重要な再生可能エネルギーであり、ヨーロッパが一時減速しているとはいえ、これもまた再び成長への足取りを強くしていくことだろう。何しろ、風力発電1基あたりで50発のIGBTを搭載するのだ。

 新エネルギーの地熱発電も地味ではあるが、徐々に火がついてきた。とりわけ日本は火山列島であり、地熱エネルギー大国の3本の柱のひとつといわれるだけに、今後普及が進むだろう。地熱発電プラントは三菱重工業、東芝、富士電機の3社で、実に世界シェアの70%以上を占有している。地熱発電はヒートポンプとの組み合わせで威力を発揮するわけであり、ここに多くのIGBTが使われていくのだ。

 そのほかにも火力発電所、海水淡水化プラント、高速鉄道などの社会インフラ系の整備が新興国を中心に進んでいくわけであり、ここに使われるパワー半導体の数もバカにならない。

 期待の柱のひとつである自動車向け半導体が減速したとしても、環境エネルギー系の伸びがある限り、パワー半導体の市場は堅実に伸びていくことは疑いのないところだ。そしてまた、パワー半導体の最先端品であるIGBTについては、三菱電機、富士電機、東芝などの日本勢が世界シェアの70%を握っていることも忘れてはならないことだろう。
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