(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉
「こんなに働いているのにどうして儲からないんだ。銀行に追われる毎日が地獄。自由人の寅さんがうらやましいぜ」
かつて一世を風靡したシリーズ映画「男はつらいよ」の中で、タコといわれる中小企業の印刷屋の親父が常套文句として言う言葉だ。この印刷工場に勤める工員さんはみなまじめで貧しい。娯楽といえば、せいぜいが江戸川に船を浮かべて酒盛りし、ギターを奏で「スイカの名産地」を絶唱するぐらいのものだ。
いつもいつも儲からないという点では、この朝日印刷のタコばかりではなく、ニッポン半導体も似たようなものだ。大手各社の動向を見てもトップを行く東芝がわずかながらの利益を出している程度で、ほとんどが真っ赤っか秋の空という状態なのだ。しかしながら、しぶといのがLEDの世界チャンピオンである日亜化学であり、2011年度もしっかり利益を出している。いつもはきっちりと利益を計上してくるロームですら、11年度はタイ洪水の影響もあり、とうとう赤字になってしまった。
円高が長引き震災、洪水にもやられている状況では、どうにもこうにもならなかったというのが実情だ。ここにきて電気料金の値上げや電力不足も懸念され、これで消費税が増税にでもなれば、強くビンタされ、青息吐息というのがニッポン半導体の現状なのだ。
しかしながら、儲からないという点では、他の日系企業も同じようなものだ。重電部門において、海外企業の大手5社は12%程度の利益を上げている(07年度)。これに対し日系企業はその半分の6%にとどまっている。化学部門における海外企業17社の利益率は06年度で10%強。これに対し日系企業大手の3社は、やはり半分の5%しか利益率がない。ちなみに、07年度段階ではあるが、半導体海外企業の大手4社の平均利益率は実に16%。これに対し、日系企業2社は6%にとどまっている。つまり、どの分野を見ても日系企業の低収益体質が目立つばかりだ。
どうして日系企業が儲からないかということについては、多くの原因があるだろう。しかして、最大の理由は同一産業内にプレイヤーが多数存在しすぎる点が挙げられる。液晶テレビでいえば、ソニー、シャープ、東芝、パナソニック、船井電機など日本には多くのプレイヤーがいる。これに対し、北米ではビジオただ1社。欧州ではこれまたフィリップスただ1社。アジアでも名のあるところは、サムスン、LG、TCLなどだけだ。鉄道事業を見ても、日本には日立、川重など5社があるのに対し、北米ではカナダに1社、欧州ではフランスに1社、ドイツに1社、アジアでは韓国に1社にとどまっている。
同じ国の中に、同じ産業分野でプレイヤーが多数存在すれば、ロスは大きい。研究開発投資も、設備投資も重複し効率を上げることができない。何よりも国内勢同士で骨肉の戦いを演じるために、どの会社も利益が出ない水準までバナナのたたき売りをやり、疲弊していく。その間隙を縫って外国勢にやられまくる。もちろん頼みとする国内市場が少子高齢化でジリ貧状態であり、アテにならなくなってきたことも原因のひとつだ。日本勢は定評のある技術力があっても、すべての業種で海外展開に成功しているとはいえず、要するにグローバリゼーションができていない。
あーもうどうすることもできないのね、と絶望のため息をつきながら経産省を訪れたところ、拠点機能の喪失も問題だぜといわれてしまった。つまりは、アジア地域で最も魅力を感じる国に拠点が置かれるわけで、日本はもう対象外となっているとの指摘であった。アジア地域統括地点、製造拠点、R&D拠点、バックオフィス、物流拠点のどれをとっても中国がトップであり、日本は論外といえるほどのパーセンテージしか持っていない。あーやっぱりここもどしゃ降りなのね、と思いながら、ふらふらと秋葉原の街に出れば、そこはエヴァンゲリオンのふるさと。わがクールジャパンはファッション、観光、アニメなどの感性・文化関連産業では最先行しているではないか、との思いでパチンコ店の看板を見上げたら、綾波レイちゃんの美しい姿形が眼に飛び込んできた。