(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉
東日本大震災の被災地を訪れて、立ったままチャラチャラと話をし、急いで帰ろうとする当時の首相を呼び止めて、「もう帰るんですか」という怒りの声が飛んだことを覚えている方も多いだろう。これに対し、天皇陛下と美智子様は十数時間も被災地にとどまり、一人ひとりに丁寧に応対されたのだ。もちろん立ってなどいない。座ってよく話を聞かれ、痛みを共有しているご様子がテレビ画面からも、ありありとうかがうことができた。陛下ご自身が重い病気を抱えておられるだけに、その愛情がひしひしと伝わってきた。
ところで、暴走モードに突入してしまったかの首相は、姑息にも自らの政権を守るべく、「新エネルギー立国でニッポン再建」などとほざくに至った。まずは、ひたすら太陽電池を大量導入し、国内にメガソーラーを次々と立ち上げ、省エネルギーと関連産業の育成を同時にやっちゃおう、というわけで、これはこれで正論ではある。しかしながら、太陽電池の関係者の中には、この暴走モード首相の発言を苦々しく思っていた人もいた。
「メガソーラーに巨大投資を行う運動論に異存はない。しかし、いまや太陽電池の世界は中国が4割以上のシェアを持ち、日本メーカーは十数%のシェアまで沈んでいる。世界1位はサンテックパワー、2位はJAソーラーであり、いずれも中国勢だ。国内のメガソーラーを普及させれば、中国メーカーに多くの利得がある。この首相の行動は、いわば、国賊ともいうべき暴挙であり、売国奴といっても良いかもしれない」
この発言は筆者のものではない。神田の居酒屋で、おそらくは太陽電池関連の業者とも目される中年男がビールをあおりながら、テーブルをたたいて吐き出した言葉だ。
それはさておき、日本国内におけるメガソーラー建設計画の案件数は出力1MW以上で、震災前の4倍強に当たる130件に到達した。7月から開始された再生可能エネルギー全量買取制度を追い風に急増したのだ。太陽光発電の買取価格が42円/kWhに決定するやいなや、これは儲かるとみた事業者が、すさまじい勢いで計画を立てていったのだ。今後もしばらく参入ラッシュが続くだろう。
詳しくは半導体産業新聞6月27日号の1面トップ記事を見ていただきたいが、都道府県で最も多くの案件が立ち上がっているのが北海道で16件、ついで栃木県9件、福岡県6件、宮城、新潟、大阪、兵庫、鹿児島が5件と続いている。また、事業者別では国際航業ホールディングスが7件と最多で、以下ソフトバンク子会社のSBエナジー、メガソーラー事業に特化した企業として2011年に設立されたソーラーウェイ、太陽光発電システムインテグレーターのウエストホールディングスなどが続いている。太陽電池そのものを手がけているシャープや京セラなども参入しており、NTTグループも全国30カ所にメガソーラーを建設するとぶち上げているのだ。ようするに、空前のメガソーラー建設フィーバーが始まったのだ。
日本国内の利権を狙いに、外国勢も虎視眈々と参入を狙っている。米国のサンエジソン、カナダのカナディアンソーラー、ドイツのソーラーワールドなども国内数カ所にメガソーラーを新設する計画を持っているようだ。さらに、情報筋によれば、中国上海に拠点を持つスカイソーラーが日本国内で数カ所メガソーラーの用地物色を行っている。同社はヨーロッパで実績があるが、原発がほとんど止まっている日本にチャンスありと見て進出を計画する。あろうことか、インドに拠点を持つモーザーベアもまた日本国内でメガソーラーの用地物色を行っているのだ。
こうしたメガソーラーフィーバーの一方で、セルそのものを製造する太陽電池メーカーはここにきて苦悩の色が強い。なにしろ、かつての太陽電池世界一企業であったドイツのQセルズが破産してしまったのだ。同社は99年に設立され、ドイツをはじめ太陽光発電に熱心であった欧州市場を主戦場にシェアを伸ばし、07年にはそれまで長年太陽電池市場で首位を守っていたシャープを抜き、生産量世界一に輝いた。しかし、その後はサンテックパワーなどの中国勢や、コストの安い米国ファーストソーラーなどの猛追を受け、シェアを一気に落とした。同じドイツの太陽電池モジュールメーカー、ソロン社も破産を申請、薄膜太陽電池で勝負する米国のユナイテッドソーラーオボニックも今年に入って会社更生法の手続きを申請している。
しかし、業界内ではさらに多くの太陽電池メーカーが破綻するだろうとの見通しが強い。最大のユーザーであるEUに元気がなく、買取制度や補助金制度も後退している。何しろ、世界の太陽電池の55%はドイツとイタリアが買っている状態であり、とても世界すべてで均一に普及しつつあるという情勢ではないのだ。風力発電、さらには地熱発電といった強力な新エネルギーのライバルも存在する。
それでは躍進すさまじい中国勢は儲かっているのか。それはとんでもない。サンテックパワーも、インリーも、JAソーラーもみな軒並み赤字が続いている。ニッポンの御三家といわれるシャープ、京セラ、三洋電機もまた収益面では苦しく、のたうち回っている。太陽電池はいまや、メモリー半導体や液晶パネルのようにコモディティー化が進み、誰も儲からないビジネスに突入しつつあるのだ。
この苦境を脱出するためには、やはり低コストで製造できる技術の確立、新材料を採用したパフォーマンスの上昇などが待たれるところだろう。