2020年度の不動産マーケットはどうなるのか。総合不動産サービスを手がけるシービーアールイー(CBRE)(株)代表取締役社長の坂口英治氏に聞いた。
―― 19年度の不動産マーケット動向から。
坂口 当社が手がけるオフィス、物流施設、リテール、ホテルの4つのセクターで、特にホットだったのは物流施設だ。物流施設は19年度、首都圏を中心に大量供給があったにも関わらず、三大都市圏で約100万坪にも上る需要が顕在化した。これを主導したのはeコマースで、引き続きeコマースの強いニーズも確認できた。リテールはラグジュアリー、化粧品、スポーツ関連、免税関連などが堅調だったが、10月以降は消費増税の影響が見られた。
また、ホテルはまだら模様と言える。関西圏は大量供給の影響、インバウンドの減少などで厳しい局面を迎えた。一方で、東京や札幌、福岡は需要が強かった。エリアによって差はあるものの、全国的に見れば横ばいから微増、安定していたと見ることができる。
―― 20年度の不動産マーケットは。
坂口 引き続き物流施設が挙げられるだろう。今のこの状況でオフィス、リテール、ホテルと比較すると有望なセクターだ。
―― 注目の4セクターは。
坂口 「消費」に注目しており、リテールと物流施設だ。前提として、新型コロナウイルスの問題は短期間で終息しないと思っている。その中で、リテールのキーワードを強いて挙げるとすれば「eコマース」「コト消費への逆風」「インバウンド消費の消滅」というまさに三重苦。特にコト消費は、eコマースの対抗として伸長してきたが、新型コロナによって逆風が吹いたせいで、リテールを支える柱が見えない状況になってしまった。
今、各国を見ても終息に1年、もしくはそれ以上かかるかもしれないウイルスとどう付き合っていくかを模索している段階だ。これが決まらないとライフスタイルが固まらず、具体的なリテールのキーワードも見えてこないのが現状だ。
また、リテールでは雇用の面で人材の余剰が出る可能性がある。この中から一部の人たちは、物流施設に流れるのではないかと思っている。これまで物流施設は雇用が制約になっていたが、リテールやもしかしたらホテルなどからも、人材がどう物流施設に流れていくかに着目している。
―― 20年度のキーワードは。
坂口 今年度のマーケット全体で言えば「我慢」だと思う。国の財政出動の規模を見ても、リーマンショック時より悪くなるのは確実だ。まだ各企業の決算を具体的な数字で確認する機会が少ないので、5月ごろに業績や見込みが出てきたときに、良くない数字が確認され確実に引き締めに走る。例えばオフィスの拡張を中止することもあるだろうし、不要不急の消費を控えることも起きるだろう。こうしたことから、今年度は我慢の年かなと思う。
個人的には結構悲惨な現実が待っていると思っている。V字回復を描く人もいるが、今のような緊急事態宣言が第二波として、もう1回出てもおかしくない状況であると考えている。
―― 東京五輪延期によるマーケットの影響は。
坂口 個人的に直接的な影響はほとんどないと思っていて、コロナの問題さえ解決できれば、むしろ助走期間と言うべき、五輪前の1年間の盛り上がりが景気に対しては良いと聞く。もう一回、1年ほどかけてオリンピック・パラリンピックに対する期間を確保できたという意味において、ポジティブに考えたい。
また東京五輪後、日本の不動産マーケットが暴落すると言われるが、現在のような環境下でも、欧米の投資家は日本の物流施設や住宅に投資したいという人は意外と多い。これまで日本は金利が低く、これからも上がらないと言われているが、今後、欧米諸国も大量の国債を出さなければいけなくなり、これに伴って財政悪化すると思うので、世界的に利回りが低くなる。金利を上げられない状況が各国とも続く。日本は高齢化が進むなどマイナス要素が大きく、敬遠されがちであったが、欧米の財政が悪化する中、欧州も高齢化の面では日本に迫っているので、相対的に日本を魅力的に見る動きが出てきている。
(聞き手・若山智令記者)
※商業施設新聞2342号(2020年4月21日)(1面)