2007年に開業した「東京ミッドタウン」は、商業施設、「ザ・リッツ・カールトン」、4haの緑地、オフィスなどで構成する複合施設。商業施設は18年度に初めて売上高300億円を突破するなど年々進化している。東京ミッドタウンマネジメント(株)代表取締役社長の中村康浩氏に現在の動向や、街区の魅力について聞いた。
―― 商業施設の動向から。
中村 開業以来、業績を着実に伸ばしている。18年度はファッションが好調だったことから、初めて売上高が300億円を突破した。開業した07年度は280億円で、当時から300億円突破は目標だった。
毎年店舗を少しずつ入れ替え、開業時と比べて約半分ほど刷新された。また、イベントにも積極的に取り組んでいることに加え、周辺にタワーマンションを含む住宅が増えており、こうしたことが300億円突破に結びついたのだろう。
―― 19年度上期はいかがでしたか。
中村 19年度は、18年度と同等の数字を目指しており、上期は予定どおりの数値で推移した。ファッション関連は梅雨明けが遅いこともあり、当初は伸び悩んだが、その後は回復した。夏の終わりごろになると、増税前ということもあって数字が伸び、9月はファッションの売り上げが過去最高をマークした。特に冬物衣料やバッグなど高額品がよく動いた。
飲食や食物販は昨年、国立新美術館で行われた展示が好調で、当施設に立ち寄る人も多かった。今年はその反動もあったが、新店をオープンしたこともあり、最終的に同等にできた。
―― 19年度上期も店舗の入れ替えを行いました。
中村 飲食店では、うなぎ店「まるや本店」、寿司店「SUSHI TOKYO TEN、」「伊吹うどん」が出店した。ファッション系ではトゥモローランドが展開する「CABaN」、レディスの「DRAWER」「Bonpoint」などを誘致した。
MDで意識しているのは、高級というより上質、一流なもの。加えて、当施設ならではの店であること。例えば今年、うなぎ店「まるや本店」をオープンした。都内にうなぎ店は多いが、まるや本店は名古屋発祥の店で、関東系のうなぎとは少し違った味が楽しめる。こうした「せっかくならここに」と足を運びたくなる店を揃えたい。
―― 来館者の動向は。
中村 年齢でいうと30~50代が多く、中でも中心となっているのは30~40代。エリアでみると、当館がある港区からの来館が圧倒的に多い。次いで渋谷区、世田谷区が多く、足元商圏に強いのが特徴。富裕層の来館も多く、館内にある上質な店舗や、スーパーなどを日常使いしていただいている。芝生広場やガーデンもあり、ふらりと訪れる方も多い。
―― 昨今、商業施設に体験、イベントが求められています。
中村 我々の体験に関する一番の強みは、何といってもガーデンや芝生広場などのオープンスペース。敷地10haのうち、4haが緑地であり、施設としても“On the Green”をコンセプトにしている。ガーデンを散策する方も多いし、芝生広場などでイベントも頻繁に行っている。
我々は開業当時からイベント運営に注力しており、多くのノウハウを持っている。「東京ミッドタウン日比谷」の開発においても、広場の整備などで様々なアドバイスをした。
―― 確かに東京ミッドタウンは商業施設以外のイメージも強いですね。
中村 我々は複合施設であることが強み。施設内には大型オフィスがあるが、六本木は“ITなら渋谷”のように特定の業種が集まるエリアではない。実際、六本木でオフィスを探しているという企業はさほど多くはない。しかし、東京ミッドタウンには緑地や、ザ・リッツ・カールトンや上質な商業施設、サントリー美術館といった機能があり、これらが賑わいやブランドを形成している。オフィスに入居している方に聞くと、六本木エリアというより東京ミッドタウン自体を評価していただいている。複合開発としてのブランドや魅力を磨くことは本当に重要。
―― 今後の取り組みは。
中村 来春も例年同様に店舗の入れ替えを計画しており、物販、食物販など幅広い業種で新店がオープンする。上質で、面白いと思っていただけるブランドを誘致している。店舗の入れ替えは今後も続け、集客につなげたい。
その一方で、周辺の町では新しい開発がどんどん進んでいる。これまでと同じことをしていては、いずれ飽きられてしまう。東京ミッドタウンらしさは失わず、新しいことにもどんどん挑戦していきたい。上質なライフスタイルを求める周辺住民、緑に囲まれた土地などもあって、東京ミッドタウンはここにしかない「街」の商業施設に成長した。今後も『経年優化』をさらに深めていきたい。
(聞き手・副編集長 高橋直也)
※商業施設新聞2323号(2019年12月3日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.319