電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第352回

ソニー(株) 常務 半導体事業担当 清水照士氏


19年度国内半導体で初の首位へ
CMOSセンサー急伸で1兆円突破
長崎工場立ち上げなどに尽力

2019/12/6

ソニー(株) 常務 半導体事業担当 清水照士氏
 ソニー半導体が爆裂成長の機運に入ってきた。2019年上期の世界大手半導体メーカー15社のなかで、ソニーただ1社がプラス成長を達成。また、国内半導体メーカー15社の売上ランキングでは、19年度の見通しとしてソニーがキオクシアを抜いて初の首位へ躍進することがほぼ確実になった。主力のCMOSイメージセンサーは絶好調で、モバイル分野に加え、車載向け、さらには産業向けへ販路を一気に拡大し、金額ベースの世界シェアを18年度の51%から25年度には60%まで高める方針だ。ソニー(株)常務/半導体事業担当の清水照士氏に現状と展望、これまでの歴史、ソニースピリッツの本質などについて話を伺った。清水氏は現在、ソニー半導体のトップとして、ソニーセミコンダクタソリューションズ、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング、ソニーLSIデザインのすべてで代表取締役社長を務めている。

―― 「ソニー一人勝ち」ともいうべき状況となっていますが。
 清水 非常にありがたいことだと思っている。2018年度の半導体事業は売上高が前年度比3%増の8793億円であったが、19年度は同18.3%増の1兆400億円に押し上げる見通しだ。19年度売り上げのうち、イメージセンサーは8900億円を占める見込み。半導体分野の18年度の営業利益は1439億円、19年度は2000億円を見込んでおり、利益という点でソニー全社に貢献できていることを嬉しく思っている。

―― 22年度以降は不透明との考え方ですか。
 清水 21年度まではスマートフォンの多眼化やイメージセンサーの大判化で、年率13%の成長が続くと見ている。しかし22年度以降は、スマートフォンの多眼化などが落ち着き、年率3%に鈍化すると想定している。
 ただし、自動走行運転のレベル4以上への移行がやってくれば、車載向けCMOSイメージセンサーが一気拡大することもありうる。完全自動走行運転になれば、1台の車に多くのカメラモジュールが付けられるわけであり、イメージセンサーはおよそ20~30個程度搭載される可能性がある。まさに新たな市場の到来と言ってよいだろう。

―― 設備投資についても積極的ですね。
 清水 19~21年度の3年間で半導体に7000億円を投じて、イメージセンサーの月産能力を19年度末時点で11.7万枚、21年度には13.8万枚に増やすことにしている。21年度以降の需要に対応するため、約1000億円を追加投資して増設棟を新設することも決めた。ただ、21年度以降の投資はこれよりも減額する方針になっている。
 さらなる微細化に関しては、必要かどうかも含めて(画素セルサイズ)0.7μm以下への検討も続けている。なぜなら画素の微細化を優先することで、高感度・広ダイナミックレンジなどの画質を犠牲にすることは無意味だからである。

―― センシング領域の売り上げ構成比を上げていくお考えですね。
 清水 これは重要なことだ。現在は数%にとどまっているセンシング領域の売り上げ構成比を25年度には30%に引き上げていくことを目指していく。
 モバイル、マシンビジョンを中心とする産業分野、そして車載分野に大きな売り上げが見込めると想定している。15年にベルギーのソフトキネティックシステムズ(現Sony Depthsensing Solutions SA/NV)を買収し技術を獲得した、物体との距離を測定できるToF(Time of Flight)センサーに我々の裏面照射型イメージセンサーの技術を融合したことで、圧倒的に測距精度を向上させることができた。まずは、モバイル用で立ち上げ、産業分野に順次普及させていく。
 また、将来はエッジAI処理を融合し、センサーの売り切りにとどまらないリカーリング(繰り返し収益が見込める)ビジネスモデルを追求する。AI活用は重要であり、19年5月、米マイクロソフトとクラウド領域で提携することを発表した。もちろん、ソニーの中にもAIエンジニアはいるが、自社で足りないところはパートナーをどんどん活用していく。

―― 車載に対応する作戦については。
 清水 車載に関しては、ミリ波レーダーやLiDARのデータとカメラ映像を組み合わせたセンサーフュージョンに取り組んでいく。要するに、あらゆる環境下で自動車の安全性を高める技術開発を推進していく。
 自動車分野への展開を意識して、14年には0.005ルクスという闇夜でも見通せる驚異的な性能を持つ車載センサーを世界で初めて開発した。また、17年にはLED信号のちらつき、つまりはフリッカーの抑制とHDR撮影を両立したイメージセンサーも開発を完了している。もちろん、自動車の場合、温度特性が重要であり、150℃の高温においても、また氷点下の領域においても十分に動くという性能も作り上げた。

―― 自動車業界における認知度については。
 清水 確かに、競合他社はかなり長く自動車業界に食い込んできており、新参者ともいうべきソニーがそう簡単にシェアを取れるとは思っていない。しかしてあらゆる努力は続けている。
 車載領域におけるシェア獲得のため、モービルアイ(単眼カメラの高度運転支援システムを提供するイスラエル企業=インテルが買収)、エヌビディア(画像処理用半導体を啓発する米国企業)などパートナー企業との連携が重要と思っている。

―― 車載向け強化のための技術的な優位性は。
 清水 16年1月には車載事業部が立ち上がっており、本格参入へ向けての体制が整い始めた。100万画素クラスから700万画素クラスまでの車載用CMOSイメージセンサーをラインアップしている。黒つぶれや白飛びを起こさないノイズの少ない鮮明な映像を得るために、さらなる工夫を凝らした技術を確立していく。将来の自動車はコネクテッドカーになると言われており、AIとつながり5G高速通信を駆使した走るコンピューターと化していくだろう。
 自動車業界におけるソニーの認知度を高めるためには何でもやっていく。ダイナミックレンジに強いソニーの技術は、必ずや次世代自動車には受け入れられると信じて止まない。

―― さて、ここからは清水常務についてのマイストーリーを伺います。お生まれは。
 清水 福井県の出身だ。福井市内から車で30分の丸岡というお城のあるところで育った。北陸はモノづくりに強いところであり、実家も織物工場だったことからやはり自分も工業系に進みたかった。1980年、ソニーに入社する。実際のところソニーに入るのは難しく、5年前に1人しか入っていないくらいの難易度であった。そんな状況下で、周りからは受からないと言われていたが、なんと受けてみたら受かった。

―― 入社後の配属は。
 清水 かなり多くの人が入社した年だったが、すぐに半導体分野に配属され、厚木テクノロジーセンターの開発試作部隊に入った。プロセスを作り、製造に持っていく仕事に従事した。厚木に久々に来た新人だったため、とても可愛がられた。上司には恵まれてきたかもしれない。新人の頃に先輩たちから言われたことは、次のようなものだ。
 「とにかく言いたいことを言った方がいい。部下を持つようになれば、部下からわーわー言われると腹が立つだろう。だから部下の時に自分からわーわー言っていれば、自分が上司になった時、腹が立たないだろう」。

―― その後、フェアチャイルドから買収した長崎の工場に行かれますね。
 清水 厚木で3年間を過ごし、その後鹿児島での3年間を生産部門で働くことになる。そしてまた厚木に戻るとなった頃に、ソニーが長崎のフェアチャイルドを買収するという話に絡むことになった。88年に当時のソニー長崎(現在の長崎テクノロジーセンター)へ行き、3年間は出向社員として過ごす。ここではデバイスプロセスエンジニアをやっていた。

―― そして91年のスーパークリーンルームの立ち上げに参画しますね。
 清水 半導体事業は莫大な投資が必要であるため、87年のフェアチャイルドの長崎工場の買収、90年のAMD社のサンアントニオ工場買収など投資を強化していった。
 長崎のスーパークリーンルームの立ち上げにおいては、経験と勘でやっていたファシリティーを徹底的に理論化することに注力した。スーパークリーンルームで世界的に有名な東北大学の大見忠弘教授の教えにもかなりの影響を受けた。大見教授からは「ソニーは実に科学的に半導体を作っている。理論の裏付けのある半導体作りで世界に先行している」と言われ、実に感激したものだ。AMDのテキサス工場は8インチで、SRAMを製造するものであった。ソニー長崎についてはASICプロセスを立ち上げた。
 長崎に3年いて、海外に行く機会があれば行きたい、と思っていたので、その後買収したAMD社のサンアントニオ工場立ち上げに4年間従事することになったが、これはたいへん貴重な経験であった。

(聞き手・本紙編集部)
(本紙2019年12月5日号1面 掲載)

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