JR東日本グループの(株)アトレは、首都圏の駅を中心に「100の街があれば、100の顔のアトレ」をコンセプトに商業施設を29カ所展開している。最近は、「プレイアトレ」や台湾出店、駅ソトなど新たな領域にチャレンジしている。代表取締役社長の一ノ瀬俊郎氏に展望を聞いた。
―― 2018年度を振り返って。
一ノ瀬 売上高は前年比3%増の2166億円だった。特筆すべきは、売上高、客数、入館者数のすべてが前年比3%増だったことだ。既存店も伸び、全29館のうち、8館が過去最高を売り上げた。また、衣料が厳しいと言われているが、全8業種が前年をクリアした。ECが隆盛を誇る中で、リアルマーケットで健闘している。テナントの皆様の努力といえる。
―― 新業態「プレイアトレ」を開業しました。
一ノ瀬 茨城県の土浦駅ビル「ペルチ土浦」を「サイクリングリゾート」のコンセプトで、プレイアトレに転換した。従来の物販中心とは異なる初の試みだ。東京から土浦はちょうどいい距離で、霞ヶ浦一周や自転車で駆け抜ける桜並木はリピーターが多い。こうした地元の魅力とうまくミックスして、新たな取り組みを発信したい。19年4月に2期でバルニバービのレストランが、5月に3期で書店、ローカルフードマーケットが開業した。来春の4期でホテルが開業してグランドオープンとなる。
―― プレイアトレとなってインパクトは。
一ノ瀬 土日を中心に常磐線土浦駅の乗降客が若干増えている。最近、市庁舎や図書館が駅前に移転してきた。コンパクトシティの発想で、賑わいや活力が生まれることに期待したい。
JR東日本グループは地域を元気にすることを掲げている。我々は、地元の和菓子や喫茶店など地域に根ざしたものを駅に取り込み、そこに全国区の力のあるテナントをキーに迎え入れて磨き上げるなど、アレンジするのが我々デベロッパーの役割と考える。それにより、“100街アトレ”を具現化したい。
―― ホテルは。
一ノ瀬 サイクリストを意識した斬新なデザインで、それ自体が話題になるだろう。
―― ボックスヒル取手店のリニューアルは。
一ノ瀬 取手駅周辺に東京藝術大学があるので、アートを軸に考えている。取手市の市民ギャラリーを駅に取り込み、芸大生によるワークショプや過去の作品を展示するアーカイブなどアートの空間を4階につくり、年内に開業する予定だ。
―― 新規計画は五反田駅と竹芝で予定しています。五反田駅から。
一ノ瀬 ホテルの利用客と地域住民向けを中心とした商業施設となる。1~3階がアトレ、4~10階にホテルメッツが出店する。20年春の開業だ。
―― 竹芝は。
一ノ瀬 JR東日本が「ウォーターズ竹芝」というプロジェクトで、マリオットのオートグラフコレクションを誘致するほか、劇団四季の劇場が出店する。アトレは両者をつなぐ形で約8000m²で展開する。
―― ラグジュアリーホテルとのマッチングがカギ。
一ノ瀬 そのとおりだ。竹芝は大型開発が進行しているほか、近隣には浜離宮や築地があり、ウォーターフロントとして、将来大きく進化を遂げるエリアだと思う。
浜離宮は外国人から評価が高く、ラグジュアリーホテルが必要だとの意見が多かった。駅から離れていることもあり、当社も駅ビルと同じスタイルでやるだけではなく、生活感のある場所とは異なるので、遊び場のような大人の都会空間を新しく表現し、舞台装置を仕掛けられればと思う。
―― 台北のBreeze南山atreは。
一ノ瀬 1月10日に開業した。台湾もモノは満ち足りているので、購買につながる仕掛けが必要だ。桜のイベントといった、四季の移ろいの演出などは、現地の商業施設にはあまりない。国内で多数のイベントを開催してきたので、このノウハウを台湾で試す。こうしたイベントはSNSによる発信も期待できる。またアイデアだが、館内に催事スペースがあるので、国内のアトレをアピールすることで、相互送客も図りたい。
―― 新たなチャレンジが多いですね。
一ノ瀬 プレイアトレは売り上げ面ではまだまだで、試行錯誤中だが、結果、人が育ち大きな財産になる。それが次の時代につながると期待している。さらに、新しい領域で数億円単位の投資ができるのは、恵比寿や吉祥寺など既存施設がこの厳しい状況の中でも昨対をクリアし、収益、利益を上げているからこそできることだ。
―― そのなかでこだわることは。
一ノ瀬 ECの勢いを感じるが、リアルにこだわりたい。強みは生身のお客様とショップの人間が作り出す瞬間。顧客満足は人間の六感も含めて訴えるもの。リアルを突き詰めて、ネットは、CRM(顧客管理)を磨いたところとは次のステージでうまくコラボできると思う。
―― 10年後のアトレの姿について。
一ノ瀬 今やっているいくつかのチャレンジの1つが新しい時代の中軸になれればいい。そのカギとなるのはいかに人材を育成していくかであり、時代や環境が変わっても対応できる力をつけることだろう。
(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2301号(2019年7月2日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.304