商業施設新聞
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第179回

シービーアールイー(株) 代表取締役社長 坂口英治氏


19年は物流が盛り上がり
20年不動産は調整局面

2019/5/14

シービーアールイー(株) 代表取締役社長 坂口英治氏
 2019年度がスタートし、不動産マーケットは今後どうなるか。総合不動産サービスを手がけるシービーアールイー(CBRE)(株)代表取締役社長の坂口英治氏に、18年度のマーケットの振り返りや20年度以降の予測に加え、同社が新たに始めた小売り(リテール)のプロパティマネジメント(PM)事業について聞いた。

―― まず18年度の不動産マーケットを振り返って。
 坂口 「消費」というキーワードに近い、ホテルとリテール分野で従来と異なる現象が出てきた。ホテルでは、新規供給が多かった大阪や京都において、RevPARの成長が明らかに下落した。特に高額なホテルは、稼働率よりも客室単価の維持を優先する、逆にビジネスホテルは稼働率を上げるために単価を下げるといった傾向が顕著に見られた。
 リテールは、中国で1月1日に電子商取引法が施行された。これに伴い、これまで積極的な出店を行っていたドラッグストアの一部に出店計画の見直しが見られた。
 これまで両セクターとも強かったが、ホテルは新規大量供給、リテールはインバウンドツーリストの消費行動の変化などで、必ずしも各セクターが急成長する感じではなくなってきている。だが一方で、インバウンド数は増加し続け、リテールでは銀座、表参道などの好立地にはブランドの進出意欲は高い。なので、両セクターが総じてマイナスではなく、ホテルは都市や立地によって、リテールは中国のインバウンドに支えられてきた業種業態が一部弱含んでいる、まだら状態であると言える。

―― 19年にホットな分野は。
 坂口 物流施設が強いだろう。首都圏で見ると、19年は新規供給が約60万坪で過去最高となる見通しだ。また、その中で約6割の物流施設は入居者がすでに内定している状況だ。それは、今後もEコマース需要が強いと読んで、物流会社がスペースを先に押さえているからだ。この「先に押さえる」というのがキーワードで、オフィスでもコワーキングスペースの運営者に同じ傾向が見られる。例えば、20年竣工の大型オフィスビルは、当社が分かっているだけでも、半分以上テナントが決まっている状況である。

―― 20年以降の不動産マーケットをどう見るか。
 坂口 売買のマーケットで言うと、今まではバブル崩壊の時も、リーマンショックの時も、その直前でお金を引き締めている。例えば90年代では、旧大蔵省の総量規制で銀行の不動産への蛇口を締めた。また、06年に日銀は量的緩和を止め、その後たまたまリーマンショックが重なった。やはり中央銀行がお金を締めると、不動産は調整する。
 今回難しいのは、2年くらい前にすでに不動産下落の兆候はデベロッパーの株価などで表れていた。だが、中央銀行が蛇口を緩めたままなので落ちない。従って、量的緩和を止めない、止められないと読むのであれば、20年以降に調整する可能性はあるものの、非常に微妙な調整で終わると思う。また、若干不透明な面もある中国の経済状況も、日本経済に影響を与えると考える。

■新事業「リテールPM」始動
―― リテールPM事業を始めた。狙いは。
 坂口 1つは、これからさらに高齢化が進み、仕事をリタイアする人が増える。すると、時間消費の場が必要になる。Eコマースで買い物が済んでも、残りの時間を持て余す。こうした流れの中、コト消費の場を作らなければならない。商業施設は、例えば都心の銀座だけではなく、身の回り品を買ったりする+αの場所だ。そして、商業施設はこれを担う役割があると思っており、事業に着手した。
 メーンとするのは、郊外型のもので、それぞれの専門店が集積する施設になる。また、都心部よりは地方の主要都市の駅前や、大きな国道沿いなどだ。
 もう1つ着目しているのが車の自動運転。これが進むと、例えば、後期高齢者などは車が運転しづらいと感じても、自動運転で乗り合いでとなれば行きやすくなる。今、郊外型商業施設では大きな駐車場を持つところが多いが、これも自動運転の進歩によって、理論上は縮小できる。例えば、敷地内に入ると、車が自動で空いた場所に駐車するといったシステムを導入することで、効率的に駐車場をコンパクトにでき、そこにどういった施設を建てるか、というところまでいく。
 自動車を前提にした商業施設の在り方が変わる。これは郊外型であればあるほど。そこを商機として見ている。これに伴い、施設構成なども変わってくる。

―― どのようなビジネスモデルを考えているか。
 坂口 当社が貢献できる施設かを見極め、コンサルティングからお手伝いさせていただき、その後、経済的な部分が合えばPMとして実現していくという2段階でのビジネスモデルを想定している。慎重に、セレクティブにやっていく。こうした考えは他社とは違うところだろう。
 当社は強い物流チームやデーターセンターチームがあり、色々な合わせ技ができる。先ほどの駐車場縮小の話もそうだが、例えば、大きいスペースが欲しいデーターセンターがあるのでそこを誘致する、物流であれば近くに住宅地があるので、敷地内に小規模な物流拠点を設ければ物流がより効率化できるなどのニーズがあるかもしれない。今ある建物の活用や、テナントの入れ替えだけではなく、幅広い視点で当社の総合力を不動産オーナーに提供していきたい。

(聞き手・若山智令記者)
※商業施設新聞2290号(2019年4月9日)(1面)

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