(株)mov(東京都渋谷区代官山町9-10)は、インバウンド専門サイトの「訪日ラボ」、インバウンド対策のマッチングサイト「訪日コム」などを展開している。訪日ラボは、数値を扱ったデータを強みに、各企業のインバウンド担当者をサポートするほか、読者のリテラシー・知識レベル向上などにも貢献する。訪日ラボを通じて「外貨を稼ぐ国内企業を増やす」という目標を掲げる同社代表取締役の渡邊誠氏に聞いた。
―― 貴社の概要、訪日ラボの特徴から。
渡邊 当社は2015年9月に創業したベンチャー企業である。事業は大きく分けて「コンサルティング事業部」と「インバウンド事業部」の2つで、前者はデジタルマーケティングのコンサルタントなど、後者は主にインバウンドのニュースを発信するニュースサイトの訪日ラボ、インバウンド対策をしたい企業とインバウンド対策ができる企業のマッチングサイトの訪日コムという2つのサイトを運営している。
インバウンド事業部は「外貨を稼ぐ国内企業を増やそう」という、明確な目標を掲げて日々活動している。訪日ラボは、国内最大級のアクセス数を誇るインバウンド専門のニュースサイトだ。読者は、直接外国人と接する事業を行い、収益を得ているBtoC企業の「インバウンド企業」、これらの会社のコンサルや翻訳などインバウンド企業をサポートすることで収益を上げる企業を「ソリューション企業」とし、この分類上の比率はおよそ3対1の割合である。
―― 一番の強みは。
渡邊 都道府県別のインバウンドデータ(各都道府県のインバウンド需要や外国人の国籍比率など)や、外国人の宿泊データ、入出国別のデータ(各空港の入出国データなど)といった“数値に絡んだところを多く扱っている”のが強みだ。
また、サイトの特徴として、オンライン上でインバウンドに関する用語などの問題を出し、その正答率によって読者の求める知識レベルを定期的に測定している。これにより、例えば「この用語を知っているのなら、これも理解しているはずだ」といったように、発信する記事の難易度を調整している。これは他のメディアと差別化を図っているところである。
最近では、インバウンド対策セミナーの登壇も行っていて引き合いが多い。月2~3回、参加人数で50人~最大180人規模のものまで幅広く依頼がある。主催者も1企業単位から自治体まで様々だ。
―― 自治体のインバウンド対策での好例は。
渡邊 分かりやすいところだと、和歌山県白浜町が事例として面白い。ここは東京五輪が決まる前から、今後白浜町を盛り上げていくには外国人だという考えで、さらに香港にフォーカスを当てた。香港人は旅先でレンタカーによく乗るので、同町の駅の周辺はレンタカー店を誘致することを約10年前から行い、結果として、非常に多くの香港人の集客に成功した。
インバウンド対策は、業種によってプロモーションの時期が異なる。例えばインバウンドでは「旅前、旅中、旅後」という言い方をするが、自治体やホテル側が外国人集客のプロモーションをするのは旅前、旅行中に自分の店に来てもらいたい飲食店や小売店は旅中にプロモーションしたほうがコストパフォーマンスは上がる。だが、今はとりあえず旅前にガンガンプロモーションをやってしまっているというのが現状だ。こうした正しい知識というのも、積極的に発信していきたい。
―― 今後のインバウンドについて変化は。
渡邊 今、日本政府観光局(JNTO)は、「欧米豪」と言われる英語圏の人々の獲得を伸ばそうと打ち出している。これは先々増えてくるだろうというのは感じるし、19年のラグビーワールドカップ(W杯)は、私個人としてかなりインパクトが強いと思っている。
ラグビーW杯は日本全国で行われ、五輪のような東京集中とは異なるほか、前回(15年)のラグビーW杯はイギリスで行われたが、その時に訪英客として最多だったのがオーストラリア人だった。日本はイギリスに比べ時差もなく、距離も短く、旅費も安いので、日本開催時にはオーストラリア人が数多く来ると予想される。オーストラリア人が増えれば、英語圏の人たちなので例えばトリップアドバイザーなどの口コミサイトのレビューが増え、飲食店の情報が発信されたり、SNSを通じてオーストラリア以外の国の人々も来るようになるだろう。
―― 今後、訪日ラボをどう成長させたいか。
渡邊 訪日ラボに来れば、あらゆるデータが揃うことが目標で、読者のニーズにも広く応えられるようにしたい。一番の目的は「外貨を稼ぐ企業を増やす」ことなので、データを出すだけでなく、データを使った読み解きもメディアを活用して発信していきたい。コンサルティング要素をサイトに盛り込むことで、施策に移しやすいメディアを目指したい。
(聞き手・若山智令記者)
※商業施設新聞2255号(2018年7月31日)(7面)