昨今、図書館の集客効果に注目し、商業施設内に公立図書館を設置する事例が増えてきている。数多くの公立図書館の運営を担っている(株)図書館流通センター(東京都文京区大塚3-1-1、Tel.03-3943-2221)は、こうした商業施設内への図書館進出を進めている企業の一つで、「イオンモールつがる柏」内へのつがる市立図書館の設置などで話題を集めている。同社取締役の佐藤達生氏に、これまでの取り組みや成果、商業施設内図書館の利点などについて聞いた。
―― 貴社の沿革から。
佐藤 当社は図書館用の書誌データベースの提供を主な事業としていたが、その後公立図書館で業務委託を請け負うこととなった。そして2005年には、地方自治法の改正による公立図書館の指定管理者制度導入に基づき、公立図書館の企画・運営業務に参入。現在は業務委託・指定管理者を合わせると、全国の公立図書館の約15.8%に携わっている。
―― 現在商業施設内で運営している図書館はどんなものがありますか。
佐藤 当社が関わったものでは、12年に徳島県の商業施設「アミコビル」内に移転した徳島市立図書館が最初だ。不振だった宴会場フロアを改装して開館した図書館だが、利用者からの評判は良く、来館者は増加した。それだけではなく、ビル内のレストランやテナントも売り上げが増加するなど、図書館の集客力が商業施設への集客につながる結果を見せた。
最近の事例では兵庫県明石市の「パピオスあかし」内のあかし市民図書館や、岡山県玉野市の「メルカ」内の玉野市立図書館などがある。また、青森県つがる市の「イオンモールつがる柏」内のつがる市立図書館は移転ではなく、これまで図書館がなかった自治体で新しく図書館を作った事例だ。
―― つがる市立図書館はどのような経緯で。
佐藤 複数の自治体が合併して生まれたつがる市では、これまで公立図書館がなく、市民からの要望はあったもののコストやノウハウの問題から、図書館の新設について行政は二の足を踏んでいた。そこで我々はイオンモールと共に14年11月、つがる市に対してイオンモールつがる柏内への市立図書館の設置を提案した。イオンモールつがる柏の周辺ではそのころ競合の商業施設が開業しており、同施設内への図書館の設置は、イオンモール側としても差別化戦略として利点があったのだと思う。
この提案を受けたつがる市は、当初は慎重な反応だった。商業施設内への図書館設置は、確かに建築コスト面では大きな利点があり、指定管理者制度の活用によってノウハウの問題も解決できる。しかし商業施設は民間の施設である以上、撤退することになれば一緒に図書館も無くなってしまうというリスクは排除できず、これもあって消極的な反応になったのだと思う。しかしその後の複数回にわたる協議や、図書館開設に関する市民アンケートの結果などもあり、最終的に市長の決断でイオンモール内への図書館設置が決定し、公募を経て指定管理者として我々が運営することとなった。
―― 施設ではどのような工夫を。
佐藤 館内、共用通路、カフェなどを統一したデザインで設計し、回遊性やシナジー効果を高めた。また同じフロアにはタリーズコーヒーを併設し、一部スペースで飲み物を飲みながら本が閲覧できるようにしている。
―― 来館者数は。
佐藤 開館から1年9カ月で、延べ約50万人の利用者が訪れている。つがる市の人口が約3万3000人であることを考えると、これはとても支持されていると思う。
―― 商業施設への波及効果や、その他の利点などは。
佐藤 図書館開館以降1年間で、モールへの来館者は約1割増えている。イオンモール側も成功例として認識しており、今後他の施設でも図書館の併設を検討している状況だ。
また図書館新設のための建物にかかったコストは初期投資が4億円程度で、新しく建物を建てるより格段に安く済んでいる。図書館を運営する側としても、駐車場の管理や雪かきなどをモール側がやってくれているので、労力面でとても助かっている。商業施設内への図書館設置を成功させるためには、このように利用者・商業施設・行政がみんな得をするスキームを築くことが一番重要だと私は考えている。
―― 貴社が手がけたところでは、同じ施設内で書店が営業している例もありますが。
佐藤 例えば兵庫県明石市の「パピオスあかし」では、図書館と同じビルに書店がある。ここでは図書館と書店が相互に蔵書を検索できるシステムを導入しているほか、イベントなどで協業を図っている。書店は基本的に新刊を手に入れる場所で、図書館は過去の本、バックナンバーを読む場所だと考えているので、すみ分け・協業は十分可能だ。むしろ互いにシナジー効果を生み出していく関係でありたい。
―― 図書館の指定管理者制度の採用は拡大していますが、これをどう捉えていますか。また同業他社の増加については。
佐藤 同業他社については、もっと増えてほしいというのが正直なところだ。公立図書館はそれぞれの自治体が目的を明確にして、その目的を達成するのに最適な運営主体を選べばいいと思っている。それは民間事業者でも直営でもいい。より利益を出すビジネスモデルが望ましいならばそういう事業者があってもいい。様々な事業者が増えることで我々も影響を受けたりするし、新たな需要に気づかされることもある。
(聞き手・山田高裕記者)
※商業施設新聞2246号(2018年5月29日)(7面)