2018年度がスタートし、ホテル、物流施設、オフィス、小売り(リテール)などの不動産マーケットが変化を見せる。東京五輪まで2年となり、インバウンドも右肩上がりで増加を続けるなか、マーケットは今年度どう動くか。ホテル、物流、オフィス、リテールの各分野について、シービーアールイー(CBRE)(株)代表取締役社長の坂口英治氏に聞いた。
―― 17年度の不動産マーケットを振り返って。
坂口 日本経済の特徴として「日経平均」「設備投資」「個人消費」の3つが連動するというものがある。堅調な株高に支えられたおかげで、各企業の設備投資が伸びた結果、物流やオフィス、ホテルなどの不動産開発に多くの資金が投入されたため、これらの分野は好調に推移した。また、オフィス、物流を中心に、借り手側(テナント)の旺盛な需要も確認された。
特に、オフィスに至っては、18年度から始まる東京での大量供給のうち、18年度に竣工するビルについては、17年度にある程度のめどがついた。逆に、地方都市のオフィスは新規供給が少なく、札幌や梅田、福岡の中心部では空室率が低い状態で、そういう意味でもホットだった。総じてオフィスは17年度で最もホットな分野だったと思う。
―― リテールについて。
坂口 先述のとおり、17年度は堅調な株高に支えられ、なかでも富裕層の高額出費に回復の兆しが見られた。リテールの18年度は、全体で見ると厳しいと思うが、金額だけに着目すると比較的強い数字が出るのではないか。ただし、それがリテール全体に与える影響はそこまで大きくないとも思う。
―― 百貨店がSC化している状況が見られる。
坂口 こうしたトレンドは変えられない。百貨店各社も、独自に商品を仕入れ、売り場を展開するセレクトショップのような形態に変わってきたものの、壁にぶつかっているように見受けられる。セレクトショップ自体も厳しい状況であるし、リテールは引き続き厳しい状態である。
―― 物流施設は。
坂口 首都圏では、過去最大規模の新規供給が18、19年度と続く。特に圏央道エリアではストックの割に供給量が多い。物流は「雇用の確保」が大きな課題だ。施設内での自動化などによる省人化の流れはあるものの、それだけでは難しいし、まかないきれない。やはり雇用が必要である。
また、これからも大型マルチテナントが主流になるだろう。自動化設備など省力化投資の効率を高めるには、施設の大型化がカギとなる。加えて、17年度は地方での新規供給が多かった。今後も、大阪では工場跡地などの内陸部で開発が多く出てくる。
物流は18年度も全体的に高水準で推移する。中部エリアは17年度に、既存ストックの60%にあたる大量供給があったため、18年度は調整段階となって少し落ち着くだろう。だが、中部圏は物流において比較的新しいマーケットなので、今後も新規供給が期待できる。
―― 東名阪以外での物流開発は。
坂口 九州は敷地の確保が難しいということもあるが、九州や札幌などの地方都市は、物流施設を借りるよりも自己所有したいという考えになる。すでに、地方の高速のIC近くなどは既存の物流施設があったりするので、これから大型マルチなどを作るとしても敷地の確保などが難しい状況にある。
―― 各分野における18年度のキーワードは。
坂口 ホテルは「民泊新法」、物流は「雇用確保」、リテールは「eコマースとの差別化」と「無人店舗」、オフィスは「二次空室」や「コーワーキングスペース」などが挙げられる。特に、リテールにおける無人店舗は、eコマースとリアル店舗の融合として大きな可能性を秘めている。例えば、米国シアトルに開業した「Amazon GO」は、既存のeコマース、リテールのあり方を大きく変えるかもしれない。無人店舗は、治安の面や少子高齢化で雇用確保が難しい日本で、最も向いている業態といっても過言ではない。
―― 20年度以降のマーケットをどう見るか。
坂口 ホテルは為替水準次第で、日本の魅力の認知はまだ続くと思うし、アジアの中間所得層もまだ増加していく。こうした人たちに支えられている部分もあるので、為替水準次第ではあるが、インバウンドのニーズはまだ伸びる。また、オリンピックが終わった後の北京やロンドンなどはインバウンドが増えている。こうした例は日本でも起こると思う。
オフィスは20年に大量供給があるため、まだ成長していくだろうし、物流もeコマースというトレンドがある以上、堅調に推移していく。
(聞き手・若山智令記者)
※商業施設新聞2239号(2018年4月10日)(1面)