訪日外国人客(インバウンド)の増加、2020年の東京オリンピックなどを背景とし、東京、京都、大阪といった大都市を中心に、ホテルや宿泊施設の開発が加速している。前述の3都市に名古屋、福岡、札幌、広島、仙台を加えた8都市では、20年末までに計約8万室が新規供給されるという予測もあり、今後もさらなる建設ラッシュとなる。一方、マーケットは17年に転換期を迎え、大阪ではマイナス成長に転じる動きもあった。政府が掲げる「20年に4000万人のインバウンド獲得」に向け、マーケットはどうなっていくのか。シービーアールイー(株) CBRE Hotels ディレクターの土屋潔氏に聞いた。
―― ここ数年のマーケットを振り返って。
土屋 これまでのホテルマーケットはビジネス、レジャーともに国内需要が支えていた。それが、13年ごろからインバウンドの伸長というものが顕著に表れてきた。12年までは600万~800万人だったのが、13年に1000万人を超え、その後も堅調に伸び続けて、17年には約2870万人にまで増加した。わずか4年で2.8倍近くにまで増え、政府目標の20年に4000万人のインバウンド獲得も不可能ではない状況にきた。やはり、インバウンドが入ってきたことによって、ホテルマーケット全体にポジティブなインパクトを与えている。
―― 17年はどうだったか。
土屋 16、17年ごろから、マーケットは転換期を迎え、17年は高い稼働率を維持するために客室単価を調整する動きが一部で見られるようになった。だが、この背景には急激な客室単価の上昇や、客室の新規供給が始まったことなどによるものが大きいと思う。もう一つは、民泊の影響というのもすでに出てきているのではないかと思う。
一方で、地方都市はまだ成長率の高いところがあり、札幌、名古屋、福岡は好調な伸びを示している。やはり、最初に東京、京都、大阪という3大マーケットが一気に伸びて、その後、遅れてほかの地方都市が伸びているという状況だ。
―― 好調の要因はインバウンドか。
土屋 やはり、インバウンドは大きなキーである。延べ宿泊者数で見ても、国内は多少の浮き沈みがあるものの、毎年同じような数値をたどっている。大きな増減はなく安定的である。それに対して、インバウンドの延べ宿泊者数は、インバウンドの増加に伴って増えている。
―― 18年のマーケット動向をどう見るか。
土屋 東京や大阪のパフォーマンスが鈍化しているとは言え、これはRevPER(販売可能客室数あたりの客室売り上げ)の成長率であって、稼働は東京も大阪も高い。ただし、ADR(平均客室単価)はホテルごとに競争率の違いが明確になってくると思う。一方で京都や他の地方都市は、まだ伸び続ける可能性があると見ている。
―― ホテル開発が進んでいるエリアは。
土屋 東京、大阪、京都、名古屋、福岡あたりだろう。また、札幌にもまだ開発の余地はある。仙台も余地はあるのだが、インバウンドが入ってきていないという側面があるので、なかなか成長戦略を描きづらく、開発は進むとは思うが、限定的な形になってくるのではないか。広島も話は聞こえてくるので、まだ伸びてくると予測できる。
業態としては、大阪は東京に比べてビジネスホテルや宿泊主体型が多い。京都もほとんどが宿泊主体型だ。東京もビジネスホテルや宿泊主体型は多いが、大阪などと比べると、フルサービスの割合が少し高くなる。
―― 東京のフルサービスで外資系の割合は。
土屋 外資系フルサービスで言うと、宿泊主体型に比べると数は多くないが計画は見られる。今後は東京をはじめ大阪でも、もう少し出店の割合が増えてくると思う。宿泊主体型に偏りすぎている、ということは、デベロッパーなど大多数の人が感じている。
―― 民泊がホテル開発に与える影響は。
土屋 開発というよりも、マーケット全体に与える影響というのがある。現在でも、民泊はすでに数多くあって、十分マーケットに影響を与えていると思っている。一方で、「民泊新法」が18年6月に施行されることで取り締まりが強化され、いわゆる“ヤミ民泊”が減っていく可能性がある。
こうしたところを考慮すると、劇的に民泊が増えるということはないと考える。なので、これ以上民泊がマイナスの方向に働くかというとそこまでではない。影響があったとしてもすごく限定的だと思う。
―― ホテル業界への異業種参入について。
土屋 これは増えていくと思う。実際に「ホテルを運営したい、運営委託で任せたい」という例もいくつかある。
そもそも、賃貸借と運営委託は大きく違っていて、賃貸借は言わば大家業であり、貸してそのままというケースになる。だが、運営委託は運営リスクを背負い、オーナー自身がホテルの経営者になるということなので、ホテル事業に参入すると言っても過言ではない。
つまり、一般事業会社が自社で運営する場合は当然として、運営委託で任せるというのは、ホテル事業に参画しているのと同じことであり、こうした流れはもう出てきている気がする。多くの人がホテルに注目しているので、やりたい、やってみたいという声はある。
―― 20年以降のマーケットをどう見ているか。
土屋 まず、東京オリンピックが要因でインバウンドが増加しているわけではないということを前提にしたい。今、インバウンド数が増えているのは、アジア全体の経済成長に伴った動きのなかで、ビザの緩和や日本の観光資源の認知が進んだことが大きい。日本の観光資源は他のアジアのマーケットに比べてもバラエティに富んでいて、魅力が多い。
京都や金沢のような歴史があって世界中で知られている都市、世界最先端の街東京、外国人に大人気の大阪、北海道や沖縄などのリゾートなど、食べ物や文化を含めて、アジアの人々が気軽に行ける観光地になりつつある。こう考えると、まだインバウンドが伸びるというトレンドが続くため、マーケットも成長を見せるだろう。
(聞き手・若山智令記者)
※商業施設新聞2238号(2018年4月3日)(6面)
インバウンド4000万人時代 ホテル最前線 キーパーソンに聞く No.19