(株)ルミネは、休館日の拡大、営業時間を見直すなど、ハード・ソフト両面で、従業員の働きやすい環境を整えており、その取り組みには業界が注目している。新井良亮会長に聞いた。
―― ES施策に力を入れる理由は。
新井 今、雇用は非常に厳しい状況になっている。優秀なスタッフを確保するためには、働き方、施設の状況、環境を抜本的に変える必要がある。
また、当社のお客様は商品感度だけでなく、スタッフへの感度も厳しく、高い。どんなに商品や店作りが立派でも、最終的に社員や、ショップスタッフの対応が不十分ではお客様は不機嫌、不満足になってしまう。
社員、ショップスタッフの満足度合いは、やがてお客様まで届く。働く条件、環境、意欲というものが、お客様に買っていただくという環境を作っていくと考えている。
―― 貴社のESへの考えは。
新井 ルミネブランドを支えているのは「人」であり、ルミネでは人材は“人財”と表記する。ショップスタッフは、単にモノを売るだけでなく、ブランドの世界観や商品の魅力といった「価値」を、接客を通して伝えている。
そのためには働きやすい環境づくりが大切。ルミネのターゲットである20~30代の女性と同年齢のスタッフが多いので、女性に寄り添った企業を目指し、ES施策を実施している。
―― 具体的施策は。
新井 ESというと設備や食事を完備すればいいと思われがちだが、それだけではない。自社社員だけでなく、ショップスタッフも含めて、満足できる労働環境を整えていくことが必要だ。
各ショップでそれぞれにやってくださいという話ではない。我々が先陣を切って取り組んでいくことで、オーナーさんの意識を高める狙いもある。これがルミネの“パートナーシップ”だ。パートナーシップのもと、ESに取り組んでいる。
―― パートナーシップとは。
新井 デベロッパーとショップは運命共同体で、対等なパートナーだと考えている。ルミネに出店してもらうだけでなく、我々は店作りから商品作りまで、より質の高いものを求めていく。店頭のディスプレイから隅々まで入って細かくサポートしていく。そこが他社とは異なるところかもしれない。
企業理念の「お客さまの思いの先をよみ、期待の先をみたす。」を実現するには、自社社員だけでなく、ショップスタッフも一丸となって、この理念を追求していくことが欠かせない。この経営哲学に共感し、志を持ったスタッフが集まっている。これがルミネの強さだ。
―― 閉館時間を30分早めました。
新井 働きやすくなったという声は多い。ここで創出されたこの30分をどう活用するかが重要。会社で拘束せず、個人に還元することが大切だ。その時間で勉強したり、アフターファイブに色々な文化や情報に触れたりと、仕事以外に豊かな時間を持つことで、個人の成長がある。これは会社に戻ってくる。
―― 売り上げに影響するため、踏み込めないデベロッパーもあります。
新井 利益を減らさない努力をすればよく、それに尽きる。時間変更はお客様へのアナウンスを周知徹底しているし、時間が短くなったことでスタッフもモチベーションが上がり、その分頑張っている。実際、売り上げも伸びており、影響はない。量を売るのではなく、重要なのは「質」で、利益を上げることだ。
―― バックヤードの再整備にも投資しています。
新井 従業員休憩室の改修はもちろん、倉庫の再整備も行っていく。スタッフは倉庫での作業もある。動線も含め、環境もきれいで快適な場所に刷新していく。
―― 会長が「販売員」と呼ばないことが印象的です。
新井 売り子、販売員という呼び方もあるが、階級社会然とした呼び方には違和感がある。今の若い人たちは、社会のために役立ちたい、豊かな生活をしたいという想いを持って、“職”を求めている。呼び名も含め、ショップスタッフの地位向上を図っていきたい。
ただ賃金を釣り上げていくだけではダメ。経営者には、自分が生きていくということも含め、働くという意義の動機付けをどう作っていくかが求められている。
―― 他社の取り組みは意識しますか。
新井 唯一のもの、自分たちのオンリーワンを作っていくのだから、他社がどうやっていくかは関係ない。
―― ESの先を見据えているようです。
新井 お客様にルミネで買い物をしていただくには、いかに顧客感動を与えられるかにかかっている。スタッフの成長なくして顧客感動は成り立たない。
さらに、顧客が感動すると同時に従業員が感動する環境をどう作り上げるかも重要になってくる。ESも従来どおりのものではダメ。ESの先、「従業員感動」を先陣を切って提供していきたい。
(聞き手・大塚麻衣子記者)
※商業施設新聞2216号(2017年10月24日)(1面)
輝け!従業員 ES新時代 デベロッパーの支援を追う No.6