東日本旅客鉄道(株)(JR東日本、東京都渋谷区代々木2-2-2、Tel.03-5334-1111)は、2020年ごろまでの社会環境の変化を見据え、「グループ経営構想V」を推進中だ。その中で、不動産・ホテル事業は3620億円(16年度実績3263億円)を目指し、20年ごろに客室数1万室を目指す。今後の展開などを事業創造本部の森本航氏に聞いた。
―― JR東日本のホテル事業の概要から。
森本 JR東日本ホテルズで46ホテル・6972室を展開している。
カテゴリーは4つに大別でき、1つは「東京ステーションホテル」だ。歴史的、文化的にも高い価値を有する唯一無二のホテルである。
2つ目は、シティホテルタイプの「メトロポリタンホテルズ」。池袋の「ホテルメトロポリタン」をフラッグシップに、首都圏や東日本エリアの新幹線主要駅に展開し、計12ホテルある。
宿泊特化型の「ホテルメッツ」は、首都圏中心に、地方は八戸、北上、福島、新潟、長岡などにも展開し、計23ホテルに及ぶ。
4つ目は地元と協力しながら地域の魅力を発信し、鉄道事業や旅行業と連携して地域活性化に貢献する「ホテルファミリーオ・フォルクローロ」。全8ホテルあり、最近では三陸沿岸の観光拠点として釜石に出店した。
―― 稼働率は。
森本 メッツ渋谷など都心立地型は高稼働で、満室が続いているものもある。併せて平均客室単価も伸び、8000~9000円台、稼働率は8~9割台となっている。
だが地方は平均客室単価や稼働率の面で首都圏より厳しい状況にある。例えば首都圏のホテルメトロポリタンは宿泊客の半分以上が外国人だが、比較的外国人の多い仙台でさえ10%ほどで推移している。
―― 20年に1万室とし、秋葉原、舞浜、船橋、竹芝、川崎で計画しています。どのタイプを増やしますか。
森本 メッツを中心としていきたく、秋葉原、船橋はメッツの予定だ。一方で、竹芝ではインターナショナルブランドと提携したラグジュアリーホテルを検討している。川崎も内容を検討中だ。
―― 舞浜は。
森本 舞浜もある意味、唯一無二のホテルで高架橋の余力荷重のある舞浜駅でしか実現できない。竹中工務店が特許を持つホテル自体を高架橋にぶら下げる「吊り免振工法」を採用した。高架下は騒音があり、ホテルに向いていなかったが、地面から伝わる振動を低減させた同工法はこの問題を解決した。04年2月に本館を開業し、東京側にアネックス棟を今年12月に開業する予定。
―― 地方展開は。
森本 マーケット状況を見極め事業の採算が合えば検討していきたい。JR東日本グループのコンセプトワードは「地域に生きる。世界に伸びる。」だ。東京にだけインバウンドが訪れればいいわけではなく、JR東日本のネットワークを使い東北、信越に来ていただき、地域の経済を活性化させるのが大きなミッション。ホテル事業は社会的使命の役割を担う。
―― 他のJR各社が東京に進出している中、貴社は京都や沖縄進出は。
森本 東京というマーケットを当社は抱えているので、首都圏が中心となっていくが、事業採算性が合えば当然、比較検討する対象となっていく。JR系のホテルの共通の弱みは鉄道の自社のエリアでの認知度は高いのだが、他社エリアでの認知度の低さ、他社エリアでの出店は単体の収益以上に自社ブランドの浸透、いわゆる広告塔の効果も期待できる。
―― ホテル開発が過熱しています。過剰感は。
森本 今はハード先行でホテル開発は来ているが、運営する人材が足りておらず、ハコはあるがヒトがいなくて開業できないケースが当然出てくる。ハードとソフトを両輪で進める開発をしないと、これからのホテル開発戦争の中では生き残れない。
―― ロボットという選択肢は。
森本 AIやIoTはホテル事業において親和性が高い分野であると思う。競合の料金や自社の予約状況からAIで判断して最適な宿泊料を導き出すこともできるはず。
一方で、最近はやりの客室の水回りに鏡を多用したデザインにすると清掃の負荷が増える。今後はデザイン性を損なわず、いかにメンテフリーのホテルを作っていくかも重要だ。
―― 人材育成は。
森本 ホテルは縦割り意識が強く優秀な人材であればあるほどそこの上司に囲われて異動ができない。結果、他部門を知らない人材になり全体をマネジメントできなくなる。その点を改善するために、以前在籍していたメトロポリタン仙台では、宿泊・宴会・料飲の2~3部門を20代のうちに経験させ、どこでもこなせる人材を育成する方針だった。JR東日本ホテルズのホテルは合併して今日に至る。以前はホテルごとに文化や価値観、やり方が違っていたが、最近は異なるブランド間を異動できるようになった。色々な現場を経験させられることが、最大の教育につながる。
―― 最後に抱負を。
森本 特に地方のホテルにおける話だが、シティホテルタイプは多くの人を雇用する業種で、地元の取引業者も含めて経済波及効果は大きい。そこで働ける場所をつくるから、若い人が地域に定着できる。「地域に生きる。」、それが当社のホテル事業が大事にしていかなければならない点であり、社会的使命であると考える。
(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2208号(2017年8月29日)(7面)
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