京都駅ではJR西日本グループのSCとして、京都ステーションセンター(株)が運営する「京都駅前地下街 ポルタ」と、(株)京都駅観光デパートが運営する「京都駅ビル専門店街 ザ・キューブ」を展開している。両社の代表取締役社長を兼任する押川正大氏に、強みや展望などを伺った。
―― 各SCの概要を。
「京都駅前地下街 ポルタ」
地下東口側から見たファッションエリア
押川 ポルタは、京都駅中央口側に1980年に開業した大規模な地下街で、店舗面積約1万m²、店舗数約120店で展開している。
空港や港がない京都にとっては駅が玄関口となるため、イタリア語で“門”という意味の“ポルタ”と名付けられた。SC名のように京都の玄関口として様々なモノやコトを発信しており、JR、地下鉄、バスなどの乗り換え時に多くの人で賑わっている。
一方のザ・キューブは、97年の京都駅大規模リニューアルに伴い誕生した新駅ビル内にある専門店街だ。店舗面積は約5500m²で、地下2階から地上1階と11階に約80店を集積し、特に地下1階と地上1階には何代も続く京都の老舗の商品を多く取り扱っている。
また、地下2階のファッションフロアはポルタと、11階のグルメ街は同じ駅ビル内にある「ジェイアール京都伊勢丹」と連動したフロアを展開している。
―― 老舗とのつながりを詳しく。
押川 ザ・キューブは、京都駅観光デパートという新駅ビル誕生前の3代目京都駅舎の商業施設が前身で、今年で創業65年を迎える。
それまで京都の料亭やお茶屋などで提供していた老舗の和菓子・お茶などを商品として初めて販売し、これがヒットした。今では京都以外の各地にも店舗があるのは当たり前の光景だが、老舗の和菓子をお土産などとして駅で販売することは大きな冒険だった。現在約100社の京都の老舗が出店しており、我々は老舗と共に発展し、歩んできたといえる。
―― 具体的な取り組みは。
押川 ザ・キューブ地下1階の「京都菓子 匠味」は京銘菓のセレクトショップで、京都を代表する和菓子を一品から販売しており、異なる店の商品をお客様の好きなように袋詰めできるのが魅力だ。さらに1階の「京名菓」では“一日一菓こよみめぐり”と題して、日替わりで限定商品を提供している。老舗同士のコラボ商品や、その日限りの和菓子など価値の高い商品を提供。ポルタの東ゾーンでも「京みやげ」を展開している。老舗側には、こちらが提案する企画に協力して頂いており、他のSCとの差別化ができている。これは長年の信頼関係があってこそで、老舗とのつながりが当社の特色であり強みだ。
―― 客層は。
押川 京都駅で売れるものは観光向け、お土産といったイメージがあるが、アンケートを実施すると意外にも、自分へのご褒美や親しい人と共有する目的で自己消費するお客様が多いことが分かっている。
今後のリニューアルに向け、特にポルタでは日常的に駅を利用する人に向けたデイリーな商品や店舗構成を強化する。食の店舗では老舗ならではの製法による“京都らしさ”を前面に取り入れたい。京都に住む人が日常的に京都を感じ、京都に住む人が支持するものを観光客の人にも購入していただきたい。
―― 店舗以外で注力している点は。
押川 ポルタ中央のポルタプラザでは、日々の催事に加え、京都の伝統や文化を発信する試みを実施。5月13日には第1弾として、京都の夏の風物詩「京都薪能」のプレ公演を開催した。日頃観る機会がない方に、手軽に本物を体感していただき、また提供する側も文化や伝統をより多くの方に発信できるメリットがある。今後も京都の食や観光、文化などをここで発信するスペースとしてもっと活用していきたい。
―― 今後の計画など。
押川 18年度に向けて京都駅の商業空間の再構築をグループ全体で考えている。今夏にある程度の構想を発表する予定だが、バックヤード、事務所、使用していない階段などを含め、よりよい商業空間を吟味している。ザ・キューブは増床となるだろう。
ザ・キューブとポルタは一体的に考えているので、同時に改装を行っていく。14年の大型改装でポルタに導入したセレクトショップゾーンは好調だ。次は19年度の改装に向け思案している。
―― 最後に一言を。
押川 老舗では世代交代の時期で、新しいことにチャレンジしようとする若いリーダーが揃っており、改革の気運が高まっている。老舗がチャレンジすることこそが大きな話題を呼ぶだろう。さらに、美山や福知山など京都の奥地にある情報やモノの発信も強化し、京都全体を知ってもらうのが我々のミッションだと考えている。
(聞き手・今村香里記者)
※商業施設新聞2197号(2017年6月13日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.228