安さにフォーカスしたファストファッション、アパレルのライフスタイルブランド化など、近年ブランドが同質化している傾向にあり、消費者とデベロッパーの双方で「専門店」に個性や奥深さを求めている。(株)スマイルズが展開するネクタイ専門店「ジラフ」はストーリー、商品ともに“面白い”。デザインの多様さ、素材、技術へのこだわりが支持を集め、現在、東京と大阪で計8店を展開し、4月には名古屋駅のJRゲートタワーに新店を構え、名古屋に初進出を果たす。ブランドの戦略について、ジラフ事業部 事業部長の我妻義一氏にお話を伺った。
―― 概要から。
我妻 生地は京都丹後地方で熟練の職人によって織られているシルク生地で、デザインから企画、生産まですべてを国内で手がけている。年間に企画される生地の種類は500種類以上とバラエティ豊富。異なる2種類の生地を使い、どちらも前にできる「リバーシブル」、小剣と大剣の生地の色柄が違う「カラーチップ」、ノット下で生地が切り替わる「クレリック」、ネクタイと蝶ネクタイがひとつになった「ネク蝶タイ」など個性あふれるネクタイをラインアップしている。さらに、年に2回コレクションを発表し、遊び心のあるネクタイを世に送り続けている。
―― ネクタイの着用シーンは減っていませんか。
我妻 カジュアル化やクールビズの浸透もあり、確かに夏場はネクタイの販売は厳しい。しかし、ネクタイは自家需要だけでなく、女性が代理購買するギフトニーズも多い。特にジラフはギフトが強い。誕生日は通年、クリスマスやバレンタインなどのギフトモチベーションが高い時期に商品がよく動く。プレゼントをきっかけにジラフを知っていただき、そこから自分で買い物に来ていただくケースが多い。
自家需要は新生活の時期に需要があり、売れる時期が違うので、結果、一年を通して安定的に需要がある。ブランドの認知度も上がってきたが、より需要を掘り起こすためネクタイをつけるシーンを提案していきたい。
―― 店舗展開について。
我妻 2006年に立ち上げ、当初は催事などで展開してきた。多店化を始めたのは12年から。最近は出店のギアを上げ、15年は2店、16年は3店を出し、現在8店体制となった。路面店は代官山、千駄ヶ谷、吉祥寺の3店で、ビルイン店は「ギフト店」と「専門店」の2形態に大別できる。
ルミネ新宿店、ルクア大阪店、東急プラザ銀座店はギフト店で、ターゲットの女性が多い館やフロアの平場を選んだ。ネクタイのほかにロゼッタやレディースネクタイも販売し、女性が買い物を楽しめる空間とした。「専門店」は新丸ビル店とNU茶屋町店の2店。ビジネスニーズに応える商品構成に加え、オーダーネクタイサービス「ジラフマニュファクチュア」も提供し、男性がじっくりとネクタイを選べる環境だ。
―― 各店で表情が違います。
我妻 共通のアイコンとして床屋灯を各店に配しているが、店ごとに店装が異なる。白を基調としつつ、色や什器も変えている。スープストックトーキョーで培ったノウハウもあり、店舗面積も狭小の3坪弱から50坪と様々。なお、一番店は2.8坪の新宿ルミネ店。開店して3年が経つがファンも付き、年々売り上げが上がっている。
―― 立地について。
我妻 17年は名古屋のほかに、地方都市にもう1店出店する予定だ。3カ年計画を立てた時に掲げた17年10店体制という目標は達成する見込み。ジラフは出したい場所に出店を進めてきて、4月にオープンする名古屋は念願の地。横浜、京都、福岡も候補に挙げてきたが、いずれ出店できれば。地方は労務的な面からいっても、ギフトと専門店を両立させたある程度の大きさの店舗としたい。
―― 旗艦店の千駄ヶ谷店の近くは「ダガヤサンドウ」と呼ばれています。
旗艦店「WORK TO SHOP Sendagaya」では
工房も併設した
我妻 15年9月にオープンした当店はブランドの品質面を発信するための店舗で、工房を併設した。目的を持って来店し、ゆったり過ごしていただくため、あえて原宿駅から10分程度の場所にオープンした。千駄ヶ谷と北参道を結ぶこの地は「ダガヤサンドウ」と呼ばれ、白Tシャツのセレクト店や和紙専門店など、個性的な専門店が集積し、新しいスポットとして話題を集めている。ダガヤサンドウに注目が集まるように、専門店の楽しさ、面白さは今の時代に求められていると思う。
―― 専門店ならではのサービスも追求しています。
我妻 ネクタイの補修、しみ抜きなど、ネクタイにまつわる多種多様な相談にも対応し、伝統を残したいという想いから、職人を自社で雇用している。
かつて、バッグや帽子、革製品などを仕入れで扱っていた時期もあったが、専門店の本気を見せるため、それらは一切止めた。今後も「ネクタイ」からぶれる気はない。ただ、16年11月の吉祥寺店のオープンを通じ、ネクタイを裁断する際に出る残布を利用したポーチや袱紗など小物類の販売を開始した。日本の伝統産業を元気にするためにも、将来は生地に特化した業態を横展開する可能性はある。
―― 今後の抱負を。
我妻 元々、海外も視野に入れており、国内外でビジネスの拡大を目指していく。また、商業施設の同質化が問題視されているが、個性を出すためには、専門店が必要だ。趣向も多種多様化し、消費者もより細かい単位で専門店を求めているように感じる。同じ価値観を共有できるほかの専門店などと仮想空間、リアル店舗などにおいて行動をともにできると嬉しい。でもまだこれは青写真に過ぎない。実現のため、ジラフとしてブランド力を高めていく。
(聞き手・大塚麻衣子記者)
※商業施設新聞2186号(2017年3月28日)(5面)
商業施設の元気テナント No.216