大和ハウス工業(株)(大阪市北区梅田3-3-5、Tel.06-6346-2111)のSC事業が新しい展開を迎えている。これまでは郊外を中心に開発してきたが、6月にJR中央線・京王線「高尾駅」から徒歩7分の距離に「(仮称)八王子高尾ショッピングセンター」をオープンするほか、JR「広島駅」の近くでは大和ハウスグループの力を結集した複合開発「(仮称)広島二葉の里プロジェクト」を進行中である。「単にSCありきではなく、不動産ビジネスとして成長させたい」と語る、同社のSC事業部 SC事業推進室長の村田順氏に聞いた。
―― 2016年度(17年3月期)を振り返って。
村田 業容は維持しているが、お客様の消費マインドはより厳しさを増している。世間一般ではアパレル業界の不振が囁かれたが、当社の施設では、アパレル店の中でもベビー・子供服専門店の不振が見られた。ベビー・子供服は着る期間が短いうえ、SALE品を購入する行動が常態化しており、プロパー商品が売れない状況だ。その一方で、「ユニクロ」や「無印良品」ではベビー・子供服の売り上げが好調に推移している。これらの店舗では、ファッションはもちろん、雑貨や食品なども販売しており、価格面も含めて、幅広い層から支持を集めている。
―― 好調な業種は。
村田 雑貨店や飲食店の売り上げは堅調に推移し、とりわけ、雑貨店の出店意欲は旺盛だ。例えば、「イーアスつくば」の場合、「無印良品」「PLAZA」「フライングタイガー コペンハーゲン」が出店しているが、いずれもお客様のほうで使い分けができており、比較購買が積極的に行われている。また、これらが出店していることで、「Francfranc」や「unico」といったテナントにも好影響をおよぼしている。いつの時代にも、SCのアンカーテナントは存在するが、今は雑貨店がその役割を果たしている。
―― 飲食店について。
村田 SC業界では飲食店の構成比が高まっているが、当社の施設では、全体の10%程度までという比率にとどめている。かつては館の集客力とそこからのドロップ率で飲食店の構成比を決めていたが、今はSCの外でも魅力的な競合店が数多く存在しているため、この比率を保っている。
とは言っても、SCによっては飲食店が売り上げを牽引するパターンもある。例えば、「イーアスつくば」では、テーブルレストランやフードコートのほかに、「VIMI COLLECTION(美味コレクション)」という選べるレストランも設置した。
美味コレクションには6店が出店し、テナントは厨房業務のみを担当。ホール業務はデベロッパーが担当することで、より上質な食事を、質の高い空間で召し上がることができる。同レストランでは、年に1回のペースでグランドメニューを改定し、販促イベントも行うことで、順調に業容を拡大している。なお、16年度は「イーアスつくば」などの売り上げが好調に推移していることから、全館売上高は対前年比103~105%で着地すると見込んでいる。
―― 17年度の見通しを。
村田 引き続き、安全・安心、かつ快適な施設に向けて、様々な取り組みを行っていく。当社のSCは、開業後9~10年経つ施設が多いため、そろそろ大規模修繕が必要になる。また、18年に開業10周年という節目を迎える施設もあるため、テナントの入れ替えだけでなく、増床も視野に入れた、バリューアップを考えなければならないだろう。17年度も全館売上高は103~105%を目指し、日常使いの商業施設として、地に足のついた事業を展開していく。
―― 新規の案件は。
村田 現在、東京都、広島県、沖縄県で新規の開発プロジェクトを進めている。東京都では、高尾駅から徒歩7分の距離に「(仮称)八王子高尾ショッピングセンター」を開発中であり、6月下旬の開業を予定している。同SCは地上3階建て・店舗層2階建てのエンクローズドモールで、当社にとって都内初の案件となる。店舗数は120~130店を予定。商圏は基本5~10kmと設定しながら、「イーアスつくば」と同様の広域型SCとして、神奈川県、山梨県にもおよぶ。
広島県では、広島駅の新幹線口に店舗、オフィス、ホテルなどを導入した複合商業施設「(仮称)広島二葉の里プロジェクト」が進行中で、19年の開業を予定。店舗は飲食店や物販店などを導入し、ホテルはグループ会社のダイワロイヤルが運営する「ダイワロイネットホテル」が出店するなど、大和ハウスグループの力を結集したプロジェクトになる。なお、沖縄県はまだ構想段階であるが、地の利を生かした施設開発を行っていく。
―― 今後の課題を。
村田 開発スピードをより加速するため、今後は、大和ハウス工業が施設の開発により注力し、大和情報サービスが施設の運営を行うなど、役割分担を図り、グループとしてシナジーを発揮していく。最近はSCだけでなく、ホテル、公共施設、スポーツ施設などを導入する複合的な開発案件が増えており、こうした街づくりにも取り組んでいく。そして、SC事業を単にSCありきではなく、不動産ビジネスとして成長させたい。
(聞き手・岡田光記者)
※商業施設新聞2182号(2017年2月28日)(1面)