九州旅客鉄道(株)(JR九州)は2016年10月25日、東証1部上場を果たした。同社は本州JR3社と比べて非鉄道収益比率が6割と高く、不動産事業が収益を牽引する。今後も駅ビル開発など駅を中心としたまちづくりや商業開発を積極的に行う。事業開発本部長の本郷譲氏に伺った。
―― 九州のまちづくりや駅ビルの展開から。
本郷 150万人都市の福岡市を除けば、九州における県庁所在地人口は40万~60万人。約150kmの間隔で都市があり、都市間輸送に向き、都市開発や商業開発にチャレンジしやすい。JRとしての大型SCである「アミュプラザ」の第1号は1998年3月14日開業の小倉駅ビル。長崎、鹿児島、博多駅と続き、15年に大分駅ビルを開業した。なお、規模に応じて駅に商業施設を展開しており、キヨスク、コンビニを中心とした小型の「えきマチ1丁目」を現在18駅に展開する。
―― 旗艦のJR博多シティの状況は。
本郷 核店舗として「阪急百貨店」「東急ハンズ」に九州初出店していただいた。開業から5年が経過したが依然好調で、15年度のテナント総売り上げは1000億円を超えた。今年4月には丸井を核店舗にした「KITTE博多」がお隣に開業した。丸井さんとはMDで競合する面が少なく、逆に相乗効果が出ているようだ。
―― 駅ビルを中心としたまちづくりですね。
本郷 駅という集客施設を活かしたまちづくりをする。鉄道をご利用のお客さまだけでなく、自家用車利用のために駐車場併設もする。鹿児島中央駅ビルには駐車場2棟を、大分駅ビルには8階建ての上4層に駐車場を整備した。東京の常識とは異なるが、これが成功の要因だ。当社は駐車場やマンション(提供戸数)において、九州No.1デベロッパーである。
博多駅ではタクシープールの半分を地下に配置し、駅前に広いスペースを確保している。また、様々なイベントを開催しており、11月中旬からのイルミネーション、クリスマスマーケットは例年大変賑わっている。
―― 今後の計画は。
本郷 熊本駅で新幹線と在来線の連立高架化に合わせて駅ビルを開発中だ。商業、オフィス、住宅も含めた複合的なまちづくりを検討している。22年度には第1期の九州新幹線西九州ルートに合わせて長崎駅周辺を開発する。すでに長崎駅ビルがあるので、これに付加する。
南九州エリアでも今後4~5年にわたる計画がある。鹿児島中央駅の西口にある鹿児島支社を再開発し、住宅など計3棟整備を検討中だ。鹿児島駅では東街区と西街区があり、さらに東街区の北と南街区の計3エリアで実施する。宮崎駅でも業務施設を集約して駅前にビルを検討している。商業、住宅、そして我々が得意な駐車場を複合化していく。
―― 駅ソトの展開は。
本郷 博多駅から7kmほど離れた地下鉄駅周辺の「六本松複合開発」を推進中で、17年秋完成予定だ。九州大キャンパス跡地約8haに裁判所や弁護士会館が整備されるが、当社は約2haを取得し、東、西街区で開発する。住宅、商業、住宅型有料老人ホームのほか、九大のロースクール、福岡市の科学館が入居するなど、まちづくりの一翼を担う。民営化から30年。この間ノウハウや実績を積み上げてきた。福岡市内には適地がまだ多く、第2、第3の「六本松」を手がけたい。
―― 九州外では。
本郷 鉄道事業では九州7県が鉄道の管轄区だが、鉄道以外では九州外でホテル事業など多彩に展開している。外食事業では「うまや」をはじめ東京で11店、上海で5店を運営し、物販ではキヨスク、FCのファミリーマートのほかに、九州地区では指折りのドラッグストア「ドラッグイレブン」をグループに持つ。
―― 人口減による鉄道利用者減少に対しては。
本郷 対策は2つある。全体は減少しているが、県庁所在地の人口は減っておらず、定期が堅調で、特に通学定期は底固い。
そしてインバウンド。福岡市はクルーズ船寄港日本一だし、さらにはLCCを利用してアジアから訪れる。訪日客のJR利用率は極めて高い。外国人向けの乗り放題パスは、熊本地震までは毎年前年比150%で伸長している。そしてそのお客さまを駅の商業施設に誘導する。
―― 爆買い終息と言われていますが。
本郷 湯布院、長崎、阿蘇、太宰府天満宮をはじめ、自然や歴史などの九州の観光資源は秀でている。これを大事に鉄道と組み合わせる。ストレスなく楽しんでいただけるように九州新幹線は4カ国語放送や、Wi-Fiなどの対応をしている。そして日本国内、九州外のお客さまをお招きしたい。弊社では観光列車を「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と呼んでいるが、水戸岡鋭治氏によるデザインは、近代的で都会的な車両でありながら地域の歴史や風土を踏まえている。
―― ホテル事業は。
本郷 ホテルは計14施設(うち和風旅館2カ所)を有している。九州以外では「JR九州ホテル」よりもグレードの高い「ブラッサム」ブランドを東京・新宿で運営する。今年6月の那覇、19年開業予定の東京・新橋でも、ブラッサムブランドとする。今後も適地があれば積極的に開発する。熊本駅や長崎駅ビルもホテル機能を組み込む。まちづくりにおいてホテル機能は有力な候補だ。
―― 今後の展望を。
本郷 全国ベースで不動産業が本業のところに伍するとまでは言わないが、複合開発は自信がある。県庁所在地周辺のコンパクトシティ化など、我々の駅を中心としたまちづくりは地方の活性化、地方創生に寄与する。地元のまちづくりからコンサル依頼や、ビジネスをお手伝いする事例が増えている。九州のみならず、色々なエリアのまちづくりに寄与できる。
―― 海外展開は。
本郷 91年春から博多―釜山間で国際航路を運航しているし、「うまや」を上海で運営するなど、流通、外食、運輸事業は海外経験がすでにある。今後は不動産やデベロッパーとして経験を積んでいきたい。
(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2175号(2017年1月10日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.212