一体これまでにどんな本をどれだけ書いてきたのだろう、とふと思うことがある。部屋の書棚をぼーっと眺めていたら、一番初めに書いた単行本が『日本半導体 起死回生の逆転』であることに気が付いた。すでに50歳を超えてからの処女作であった。とても悔しいことは、世界のIT産業の一大発展の中で、この本に書いたどおりの逆転現象とはならず、日本の半導体産業が一気に後退していったことであった。
その後『ニッポンの素材力』という本では、半導体材料や電子ディスプレーの材料は日本企業がぶっちぎりトップシェアを持つことを力説し、素材産業こそ日本のお家芸なのだと指摘した。このシリーズとして『ニッポンの環境エネルギー力』『ニッポンの医療産業力』も執筆させていただいた。シェールガス革命にとりつかれ、その分野で2冊の本を書き上げたこともあった。
そして今、筆者にとって25冊目の単行本である『日・米・中IoT最終戦争~日本はセンサーとロボットで勝つ』が、東洋経済新報社から1月27日に全国書店で発売されたのだ(定価は1500円+税)。
さて、世界で巻き起こってきたIoT(Internet of Things)大革命は、いよいよその巨大市場創出の姿を明確に見せ始めた。第4の産業革命とも言われるIoTは、すべてのモノとコトをインターネットにつなげて社会インフラを変えていく一大技術革新のことである。
IoT革命によって生み出される新たな市場は、少なく見積もっても360兆円はあると言われており、エネルギーの1300兆円、医療の560兆円に次ぐ、とんでもない新市場が形成されることになる。このIoT革命を巡って世界の企業は、それこそ死に物狂いでその体制を整えつつある。
IoTの上流を形成する人口知能(AI)、ハイエンドサーバー、各種のITサービス、自動走行などの車載IoTについては米国がぶっちぎりで疾走しており、これからもその地歩を固めていくだろう。また、中国は今や一般家電製品については世界チャンピオンであり、太陽電池、液晶などの電子デバイスにおいてもひときわ存在感を放ち始めた。スーパーコンピューターの世界においても中国は強い。3年連続で世界最速の記録を樹立し、台数ベースにおいても米国に比肩し、世界トップに躍り出ようとしている。
こうした米中激突のはざまで我が国ニッポンはどう戦っていくのか。IoTにより通信の数は膨大になっていくが、そうなると人間の五感にあたるセンサーがかなり重要なポジションを占めてくることになる。日本は世界No.1のセンサー王国であり、マーケットシェアの50%以上を握っている。人間の眼にあたる半導体センサーではソニーが圧倒的シェアを持ち、血圧センサーの世界ではオムロンがトップを走り、圧力センサーにおいてはデンソーが王座の地位を固めている。温度という分野においてデファクト・スタンダード(事実上の世界標準)を持つのが、センシング技術に優れるCHINO(チノー)というカンパニーであり、何と創業103年を超える老舗企業なのだ。
ところでIoTの重要な要素を占めるのが、「人を介さない社会」という概念であり、当然のことながらロボットがAIと並ぶ主役となっていく。日本企業はこのロボットの分野においてもめっぽう強い。世界シェアの6割を握り、設備投資においても先行している。総合世界王座は安川電機、FA系トップはファナックであり、半導体工場の搬送系は川崎重工業、液晶工場向けでは日本電産がそれぞれ世界の首位を走っている。
そして、世界のデータ処理量が現状の8ゼタバイトから、2020年にはなんと5倍を超える44ゼタバイトまで広がり、データセンターの主要記憶媒体がハードディスクからフラッシュメモリーをベースにしたSSDに置き変わっていく。こうなればフラッシュメモリーの生みの親であり、サムスンと世界トップ争いを演じる東芝の今後の巨大投資に注目が集まってくるだろう。
IoTの本質が分からないという方には、是非読んでいただきたいと切に思っている。そしてまたIoT革命で高成長を遂げる企業の具体的な活動を知りたい方にも、好適な本であると自負している。読者諸氏の変わらぬご指導、ご鞭撻、ご批判をお願い申し上げる次第である。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。