商業施設新聞
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第50回

(株)JR東日本ステーションリテイリング 代表取締役社長 貝瀬厚氏


エキュート6施設を運営
旬のモノ・コト需要を深耕

2016/10/25

(株)JR東日本ステーションリテイリング 代表取締役社長 貝瀬厚氏
 (株)JR東日本ステーションリテイリングは駅ナカ商業施設「エキュート」を大宮、品川、立川、日暮里、東京駅で展開し、食を中心にユニークな店舗を誘致し、エキュートらしい空間を提供している。2013年に高架下の「マーチエキュート神田万世橋」や、今年7月には立川駅に駅ソトの「エキュート立川osoto」を開業し、施設運営の幅を広げている。JR東日本の開発畑を中心に歩み、6月23日付で新社長に就任した貝瀬氏に聞いた。

―― 改めてエキュートの魅力は。
 貝瀬 長らく駅開発に携わり、エキュート立ち上げにも間接的にかかわった。それまで駅で買えるものは限られていたが、エキュートは高いクオリティの商品、空間や時間を提供し、駅のシーンを劇的に変えたと思う。
 駅によって立地やニーズが変わるので、ニーズに合う館のコンセプトを考えている。マーチエキュートを含めて6施設あるが、それぞれがオーダーメードのようだ。

―― マーチエキュートやエキュート立川osotoは新しい形です。
立川駅に開業した「エキュート立川osoto」
立川駅に開業した「エキュート立川osoto」
 貝瀬 マーチエキュートは100年以上前の高架橋を利用した唯一無二の空間で、高架下の概念を変えたし、エキュート立川osotoは“通過する駅から集う駅”、さらに“集う駅から過ごす駅”の実現を目指し、駅を“ついで”ではなく、日々使っていただけるように進化させた。ニーズはICTの普及で大きく変わっており、それへの対応も必要だ。

―― 具体的には。
 貝瀬 Eコマースのビジネスモデルはたくさんの商品群から欲しいものを引き出すプル型。我々はお客さまに対して何を提供するかのプッシュ型。日本のお客さまは「旬」に関心が高く、旬のモノ・コトを提案したい。

―― リニューアルは。
 貝瀬 7月にエキュート大宮の惣菜ゾーンをリニューアルした。ニーズに合わせた改装は継続的に行っている。大宮は10年経っているので、設備も含めて考える必要がある。

―― 提案型テナント集積も強み。テナントの誘致力に長けている。
 貝瀬 目利きをして多店舗化しないようなテナントを選び、我々の熱意や思いをご理解いただく共感力のようなものがノウハウであり、強みである。エキュート立川osotoに出店したステーションカフェバーゼルの店づくりも“過ごす駅”の思いに共感していただいた結果だ。

―― アパレル不振といわれるなかで、以前から食にこだわってきた。
 貝瀬 ライフスタイルをコンセプトにしており、日々使っていただく点で、食物販は重要な要素。コンビニも最近は非常にレベルが上がっているので、エキュートクオリティで違いをしっかり出せることがカギだ。楽しさを演出する点では雑貨にも力を入れている。

―― 最近体験がキーワードになっているが。
 貝瀬 エキュート立川では、3階にあるイベントスペースでイベントや工作体験などを週末に行っている。マーチエキュートは、神田街歩きと水上観光をセットとしたイベントを企画し、施設の中だけでなく、「街」全体の体験を提案している。
 エキュート日暮里では文京区から台東区一帯の「谷根千」の街歩きマップをつくって情報を提供しているが、このマップはすぐになくなるほどで、改めてコトを求めていることを実感する。

―― エキュートに足りない機能とは。
 貝瀬 終わりの無い課題だ。足りないものはまだまだあるはず。流動で目の前を通っているが、買い上げ客はほんの一部。駅は多様なお客さまがいるので、そのニーズをどう掘り起こすかが大きな課題だ。

―― 新規開発は。
 貝瀬 グループ全体の戦略でもあり、我々としてはそういう機会があればチャレンジしたいが、具体的な予定はない。これだけの施設をターミナル駅で展開しているが、お客さまになっていただいているのはまだ一部であり、よりお客さまやファンを増やしたい。

―― 売り上げは。
 貝瀬 エキュート立川の改装のための閉店で減収分がある。15年度が約300億円で、14年度比約101%だった。

―― 今後の動向をどう見ますか。
 貝瀬 日本は少子高齢化で、30年後には生産年齢人口が3割減となることや今後の鉄道利用者減少が指摘されている。しかし、都市圏への転入が継続するなかで、公共交通が改めて評価されている。これは大きなチャンスで、高齢で車を運転できない人が増えていくことを考えると、公共交通の結節点である駅は安心して暮らせるための大きなポイント。駅の周りに住まわれるなど、駅を利用する機会が多くなる時代が来る。地方では駅近回帰、コンパクトシティの動きもある。お客さまが求めるモノを考えていくことが重要だ。そういう意味で通過する場所から集い、過ごす場所となる駅において、何が求められるかを今後も模索していく。その点でosotoを含めたエキュート立川は1つの方向だと思う。

―― 最後に抱負を。
 貝瀬 当社は若くて優秀な社員が多く、グループの中でも最もエネルギッシュな会社だと思っている。非常にやりがいを感じている。


 
(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2162号(2016年10月4日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.205

サイト内検索