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第177回

(株)日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ 主管研究長 守屋俊夫氏


次世代物流システムの開発を推進
双腕ロボなどを技術発表

2016/7/1

(株)日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ 主管研究長 守屋俊夫氏
 (株)日立製作所(東京都千代田区丸の内1-6-6、Tel.03-3258-1111)は、自律移動機能を備えた無人搬送車などを活用し、新しい物流支援システムの開発に取り組んでいる。日立グループが持つハード・ソフト両面の技術が融合した次世代の物流システムとして、今後大きな成長が期待されている。プロジェクトを主導する研究開発グループ システムイノベーションセンタ 主管研究長の守屋俊夫氏に話を聞いた。

―― 物流支援システムに取り組まれた経緯から。
物流施設向け双腕ロボット
物流施設向け双腕ロボット
 守屋 当社では1960年代からロボット技術の開発に取り組み、2002年ごろからロボットの知能に焦点を当てた自律移動をテーマとした研究を進めるようになった。その1つとして物流搬送システムの開発を本格化させ、自律移動型の無人搬送車「インテリジェントキャリー」を09年に製品化した。無人搬送車は通常、床面に貼られた磁気テープやバーコードなどのマーカーを読み取って移動するケースが多いが、インテリジェントキャリーはマーカーを使用せずに移動ができ、施設内のレイアウトの変更などに柔軟に対応できる。

―― 貴社の強みは。
 守屋 当社グループでは、物流支援業務などを手がける(株)日立物流に加え、ビッグデータのようなITソリューションに強みのある部門もあり、最近では人工知能の研究なども積極的に進めている。物流施設のスマート化には無人搬送車などのハードウエアだけでなく、入出庫や受発注の管理ならびに最適化といった先端のソフトウエア技術も不可欠であり、こうした技術をグループ内で総合的に保有し、顧客ニーズに対してワンストップで提供できることも当社の強みといえる。

―― 開発面の取り組みは。
 守屋 15年に2つの技術を発表した。1つは、移動する商品棚を検知し、棚の配置図をリアルタイムに更新しながら位置を認識する技術だ。近年の物流施設では搬送車の上に商品棚を載せ、仕分けを行う作業員のもとに搬送車が移動するシステムが利用され始めている。しかし、そうしたシステムに、マーカーを使用しない自律移動技術をそのまま導入しようとしても、棚の頻繁な移動によって搬送車の位置の認識精度が悪くなり、適切な移動ができない。
 そこで当社は、施設内の「動くもの(商品棚など)」と「動かないもの(壁や柱など)」を分けて管理し、動くものの変化を自動的に検知しながら現在位置を認識する技術を開発。70×70mの建屋内で実証した結果、搬送車が平均誤差10mmで位置を認識することを確認した。

―― もう1つの技術とは。
 守屋 物流向けの双腕ロボットシステムだ。目的の商品が保管されている棚まで移動して商品を取り出し、箱入れする自律移動型ロボットで、2本のアームを活用し、片手に持っている箱に商品を詰める動作など、人と同様の柔軟で素早い動作を実現している。通常こうした機構を連携させると通信量や演算量が膨大になり、プログラムが煩雑となることから、高速に動作させたり、計測誤差や移動誤差、外乱などに対応することが難しい。そこで当社では、各機構を少ない通信量で効率的に連携できる制御技術を開発することで、その課題を解決した。

―― 現状ならびに課題などは。
 守屋 すでに当社から製品化している棚搬送システムでは、施設内の搬送に関わる人員を3分の1に低減した成果などが上がっている。一方、技術発表したロボットシステムなどの実用化に向けた課題としては、まず導入コストの低減だ。そのために様々なアプローチが必要であるが、搬送車ならびにそこに搭載する電子デバイス製品のコストダウンも大きなテーマとなり、当社としては自律走行に欠かせないレーザーレンジファインダーをはじめ、モーター、バッテリー、パワー半導体などにおいてコストパフォーマンスの良い製品を常に求めている。

―― そのほか課題となることは。
 守屋 最近の物流施設は24時間稼働し、施設内の配置変更なども多い。つまり、施設内の環境の変化が非常に大きい。そのため、搬送車やロボットには優れたロバスト性が要求される。最近は、冷蔵施設内で活用するケースや、逆に気温の高い地域で使用されることもあるほか、大規模な施設では100台以上の搬送車が稼働することもあり、当社としてはこうした多様な環境に対応でき、かつ安定的な運用が実現できるシステムの開発を進めている。

―― 今後の抱負を。
 守屋 インターネット通販などの市場拡大により、物流施設の需要は今後ますます高まっていくだろう。その一方、物流施設では人手不足が顕在化しつつあり、当社にも国内外から様々な話をいただいている。大規模な物流施設では作業員の方の業務量も多く、1日に移動する距離も長い。当社の取り組みによって、そうした作業員の方の負担を軽減し、働きやすい環境を提供していくことができればと考えている。それが結果的に物流施設の効率化にもつながっていく。この物流施設のスマート化に関する取り組みは、当社内でも非常に期待されている事業の1つであり、本格的な市場投入を早期に行えるように開発スピードをさらに加速していきたいと思う。

(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2016年6月30日号11面 掲載)

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