社会医療法人 河北医療財団(河北博文理事長、東京都杉並区阿佐谷北1-7-3、Tel.03-3339-2121)は2016年4月14日付で、環境省主催「環境 人づくり企業大賞2015」において大賞(環境大臣賞)を受賞した。優秀賞、奨励賞に東証一部上場企業などそうそうたる顔ぶれが並ぶ中での大賞受賞であり、また医療・福祉業界においては初となる。杉並区を中心に高度急性期医療から回復期医療、健康診断、退院後の支援、在宅医療、さらには地域の医療機関や福祉施設との連携によるサポートまでを展開し、地域住民の健康増進と医療に貢献する同財団が1990年に制定した理念「社会文化を背景とし地球環境と調和したより良い医療への挑戦」に基づき、長年にわたるハード面、ソフト面においての全職員による地道な環境活動への取り組みと地域への普及啓蒙活動が評価された。
具体的な評価ポイントとして、(1)医師、看護師、技師、事務員による全員参加型の活動、(2)本業に関わる医療廃棄物の排出削減だけでなく、生ごみなどの循環型リサイクルの取り組みを通した教育、(3)内容が充実した社内報『環境ニュースISOS』による職員の環境意識向上、(4)財団施設と地域住民参加のイベント「around杉並健康ライフ」でのパネル展示や環境ウォーキングなどの取り組みを通した地域住民との積極的な交流が挙げられている。
財団では環境管理重点テーマとして、1.環境意識の高揚・教育、2.社会貢献、3.省エネルギー、4.リサイクル、5.廃棄物の適正処理および減量を掲げ、これらを達成するために、目標を設定し定期的に見直す「環境マネジメントシステム」を推進している。
システムを推進するため「環境マネジメントシステム委員会」(河北惠男委員長)が立案し、環境マネジメント・ディレクターの承認を受けた財団の環境年度計画をもとに、各部署の環境プロモーターは自部署の活動プログラムを策定し、所属スタッフへの啓蒙と活動の推進・管理を担う。これにより全員参加の活動になる。
取り組む活動では、廃棄物関連においては、9種類(紙、雑紙・雑誌、カン、ビン、ペットボトル、新聞、生ごみ、その他ごみ、医療廃棄物)の分別を行う。入院病棟や外来ホールでは、ごみの種別ごとにゴミ箱を設置し、病院利用者の協力を得る。1次分別に続き、2次分別として、ハウスキーピング(清掃)スタッフが混入したごみを分別する。分別ごみは処理業者へ委託するが、年1回の視察を行うなど適正に処理されているか確認を行う。ごみの排出量は、目標と実績値による評価を環境プロモーターにフィードバックし、さらなる分別と減量を進める。
電気・ガス関連においては、まず、97年にコジェネレーションシステムを実稼働させ、発電電力と商用電力との電源の二重化により安定的な電力供給を行うとともに、夏場などのピーク電力の抑制にも実績を上げている。
コジェネレーションシステムに加え、財団施設内の省エネ効果の高いとされた場所について、順次LED照明へと更新し、人の頻繁な出入りがないところでは人感センサーや省エネ電球を利用することで、10年から11年にかけて電力・ガス使用量が大幅に減少し、その状態を維持している。
このほか、冷暖房の設定温度の適正化とそのための服装(クールビズ&ウォームビズ)、職員は原則として階段利用でエレベーターの省エネ、リサイクル原料由来の医療廃棄物専用ペールの導入、省エネ効果の高いパソコンの導入など、考えられるあらゆる省エネを実践している。パソコンでは、画面の輝度調整による省エネ効果を試したところ、年間で杉の木626本分が吸収するCO2削減効果を確認している。
環境教育においては、97年から財団職員向けの環境広報誌ISOS(イソス)を発行し、環境に関する様々な情報(環境の歴史、世界の動向、国内外の法律、内部の活動など)を紹介するなど、情報の共有と知識の向上に役立てている。また、財団の医療活動および環境活動との関連性を理解するため、財団職員向けに年数回の環境見学を実施しており、14年度は古紙再生工場、一般清掃工場、医療廃棄物ごみ処理場の見学を実施した。このほか、eco検定受験を推奨し、合格者には受験費用を財団が負担している。
外部団体の環境活動とも連携し、12年からは医療用テープなどの巻き芯リサイクルの収益金をマングローブ植樹に役立てるプロジェクトを推進する会社の取り組みなどにも協力・参画している。
環境活動を検証するため、年1回の環境内部監査に加え、外部審査機関である特定非営利活動法人 KES環境機構による外部審査を受け、活動の見直し、改善を図っている。
around杉並健康ライフ2015の
環境活動に関する発表
こうした環境活動を地域社会に周知するため、09年から毎年開催しているaround杉並健康ライフにおいて環境展示を行い、地域住民との交流を図っている。13年度からは財団内で育成した朝顔の種を来場者に配布もしている。
こうした不断の環境活動の背景には、財団の理念および標語「あたたかく やさしく 人にも 地球にも」と、そのための「人間の存在自体が地球環境問題そのものに他ならないことを強く認識し、それを医療に反映させていく覚悟が必要であり、未来の世代とのかかわりを深めて、子供に豊かな地球環境を残していきたいとの願いから、私たちは日々関わっている医療の専門的知識と技能を機会あるごとに見直し、世代から世代を越えてより良い“Quality Of Life”を追求し、地球環境保全の実現を図っていきたい」という環境方針が貫かれている。
今回の受賞は、医療・福祉業界で初となったが、まさしく「人間の存在自体が地球環境問題そのもの」(同財団)であり、良好な地球環境こそが健全な生命を育み、継承することができると言い換えることができる。医療スタッフは、人々の生老病死に寄り添う。同財団では、「人間の尊厳を確立する医療を行いたいと考えています。“人間の尊厳”とは“その人らしいこと”、その人らしく生き、その人らしく亡くなる医療を実践」(同財団)としている。
社会医療法人は、社会的な影響力が大きく、日本にある8500以上の病院のうちの220法人(16年2月15日現在)にのみ認められている。その社会医療法人である同財団が、今回の環境大臣賞を受賞したことは、“地球環境保全=人類の生命を守る”という大命題にとってシンボリックなことであり、同財団の思想と環境活動に共振し、広く普及、加速することに期待がかかる。
(本紙編集長 倉知良次)