「SUBARUとインフィニオン」、「ポルシェモータースポーツとTDK」。そんな協業に関する記者説明会に参加する機会がこの1カ月の間に相次いだ。両案件に参加してみて実感したのは、いずれも100年に一度の大変革期を迎えた自動車業界の今を象徴する事象であるということだ。
完成品メーカーである自動車メーカー(OEM)を頂点として、ティア1サプライヤー、ティア2サプライヤー、ティア3サプライヤーなどへとピラミッド構造が常態化していたこれまでの状況とは異なり、自動車の電動化、SDV(Software Defined Vehicle)、自動運転(AD)などが到来した現状では、完成品メーカーも半導体メーカーも電子部品メーカーも「直接」の関係、かつ「対等」なのだ。それは想像以上に力強く、前向きなアクションであること、躍動感が感じられるものであることも肌で感じることができた。
同時に、こうした事象を成し得るには、お互いが「選び、選ばれる」存在であることが前提条件であることも感じ取れた。これは自動車業界に限らず、AIサーバー/AIデータセンター業界もしかりであろう。付加価値ある製品群で挑み続けるためには、選ばれる完成品メーカー、選ばれる電子デバイスメーカーであり続けられるかが勝敗を分ける。そんな時代に突入している。
■3つの変化で関係は深化
SUBARUとインフィニオンは、次世代SUBARU車(SUBARUデジタルカー)向け制御統合ECU搭載用高性能MCU(インフィニオン製AURIX TC4x)設計に関する協業を説明する記者説明会(3月下旬に都内某所にて開催)。ポルシェモータースポーツとTDKは、技術コラボレーションの意義やシナジー効果を説明する記者説明会(4月上旬にTDKテクニカルセンターにて開催)であった。前者は自動車メーカーと半導体メーカー、後者はモータースポーツではあるが自動車メーカーと電子部品メーカーの協業事案であり、特に電子部品メーカーが直接自動車メーカーと一体で開発の初期段階から対等な立場で技術開発に挑むという記者説明会は、自身が参加した事案の中にはこれまでに無かった。半導体のみならず、電子部品も完成品メーカーとの「直接」かつ「対等」な関係論になってきたことを実感する。
さて、SUBARUとインフィニオンの記者説明会における冒頭挨拶で登壇した、インフィニオンの日本法人、インフィニオンテクノロジーズジャパン(株)代表取締役社長の神戸肇氏は、半導体メーカーと自動車OEMメーカーとの関係が深まっている理由として、①技術の変化、②競争環境の変化、③サプライチェーンの変化の3点を挙げた。①は、自動車の電動化、SDV、AD/ADASなどで自動車メーカーが差別化を図るにあたり、半導体の性能がそれを大きく左右する状況になっていること。②では、中国EVメーカーや新興EVメーカーが早期に最新機能を搭載した電動車を市場投入する競争環境に変化しており、自動車メーカーが最先端の最新情報・状況を深く知る、早く知ることの重要性が高まっていること。③は地政学リスクを回避し、安定供給、事業継続に向けたサプライチェーンの重要性が増していることをそれぞれ示唆する。まさに「直接」かつ「対等」にタッグを組む必要性が高まっていることの裏付けと言える。
■SUBARU×インフィニオンが示唆する「直接」「対等」「選び、選ばれる存在」
そして、実際の協業説明では、SUBARUの執行役員 CDCO(Chief Digital Car Officer) 技術本部副本部長 兼 SUBARU Lab所長である柴田英司氏、インフィニオンテクノロジーズAGのEVP(Executive Vice President)兼オートモーティブチーフセールスオフィサーであるピーター・シェイファー氏が登壇し、それぞれの立ち位置から今回の協業の意義が語られたわけであるが、柴田氏はSUBARUが次世代車として見据える「SUBARUデジタルカー」は、「メカとSWを分離しない。メカとSWを融合してクルマの良さをどんどん出していく」「メカとデジタルを内製で徹底的に融合させて、車の機能性を上げていく」ものになると強調した。
もちろん、IVIやアプリケーションなどデジタルデータが価値を生むIT由来の技術領域では専門部品メーカーとタッグを組んですばやい導入をしつつ、SUBARUのメカのDNAを汲む水平対向エンジン+シンメトリカルAWD+ストロングハイブリッドや次世代アイサイトなど“メカとデジタルを徹底的に内製で融合させる”要となる制御統合ECUには、インフィニオン製高性能車載用MCU「TC4x」が肝となり、インフィニオンはSUBARUデジタルカーの未来をともに創出する重要かつ対等なパートナーとなることを意味する。
制御統合ECU向け高性能MCUでタッグを組むSUBARUとインフィニオン(左から柴田氏、ピーター氏)
ちなみに柴田氏は、SUBARUでADAS開発、初代から現行世代に至るアイサイトの立ち上げ、AI技術開発などでSUBARUの最前線に従事してきた経歴を持ち、現在は次世代SUBARU車(SUBARUデジタルカー)の開発を一手に担うデジタルカー開発責任者だ。そんな柴田氏が、SUBARUデジタルカーの中核をなす制御統合ECU向けにタッグを組むMCUメーカーとしてインフィニオンを選択した理由として語られた言葉は「インターフェースが充実、リアルタイム制御領域で堅牢かつ演算リソースが豊富でパワフルなチップ」というMCU製品そのものへの評価。そして「開発初期段階からチャネルオープンで話を聞いていただき、最先端で高い技術力をベースに真摯にディスカッションし、一緒に開発に取り組めた」という開発姿勢とフィーリング、そしてその実力。新たな機能向上を図り、増加するデマンドに対応するSWの適宜適切かつ迅速な実装を要する状況には、かなりの演算リソースが必要であり、パワフルなMCUが必須と柴田氏は説き、「業界ナンバー1のインフィニオンと開発した」と語った。
これに対し、インフィニオンのシェイファー氏も、「その国におけるリーディングカンパニーと一緒に仕事をしている。SUBARUに関しては、カメラベースの安全機能分野で最先端を走っている」との認識を示した。この両者の発言から、お互いが選び、選ばれた存在であることが確認できる。
■ポルシェモータースポーツ×TDKで「あらゆる細部を最適化」
ポルシェモータースポーツとTDKも同様だ。TDKは25年からポルシェフォーミュラEチームおよびポルシェコアンダEスポーツレーシングチームの公式テクノロジーパートナーを務めており、26年7月に東京開催のEVレース「フォームラE Tokyo E-Prix」のタイトルパートナーに就任している。ちなみに、その今回のレースは「2026 TDK Tokyo E-Prix」の名称で開催されることがすでに発表されている。
ここでも前述のSUBARUとインフィニオンと同様に、「ポルシェはモータースポーツを代表する自動車の象徴、TDKはエレクトロニクスの象徴」というお互いを尊敬・尊重する姿勢があり、選び選ばれる関係論がみえる。「まるで長い間家族の一員であるかのような感覚を抱いている」とも表現し、対等な関係で一体になって開発に挑む姿勢が伝わってきた。
説明会でポルシェモータースポーツのファクトリーモータ―スポーツ・フォーミュラEディレクターであるフロリアン・モドリンガー氏が「We are leading all three championships at the moment.」と語るように、ポルシェは選手権首位の常連だ。そんな同社は、各種レースや各種シリーズでの勝利に向けて「(EV車両の)あらゆる細部を最適化する必要がある」とし、意外にも「コスト重視」であることも強調する。
当然、衝撃、振動、温度、出力レベルなど、レース車は通常の乗用車に比べて格段に過酷な状況下で機能する必要がある。そして、EVレースに向けてあらゆる機能が最高峰のEV車でもある。この「あらゆる細部の最適化」には電子部品まで含めた極限の最適解が求められるということなのだろう。そこで選ばれる電子部品メーカーは、車載グレードでの豊富な品揃えと実績、顧客ニーズを満たすために材料から一貫で固定概念を覆すような新製品を創出していける高度な技術力、そしてそれらの製品群を安定供給し続けられる生産体制などが前提条件として必要とみる。
TDKもポルシェと一体で開発に邁進(左からモドリンガー氏、TDKのミッションエグゼクティブ マイケル・ポチャッコ氏)
その意味でTDKは、30年以上前から車載向けに着目し、高温化や耐振動などのハイスペックな車載グレードに対応できる材料技術、プロセス技術を磨き続けている。今では積層セラミックコンデンサー(MLCC)を筆頭に、モビリティー向け電子部品では業界トップレベルのシェアを堅持しており、厳しい製品品質要求やコスト要求を満たす製品開発はお家芸の域にある。また、データインテリジェンスに不可欠な圧力、温度など各種センサー関連製品ポートフォリオも取り揃えるなど、ポルシェモータースポーツが次の開発車で実現したいと描くレースEV車に対しても「あらゆる細部を最適化する」選択肢を提供できる豊富な電子部品製品ポートフォリオを持ち得る。ポルシェモータースポーツとは、すでに次世代車となる第4世代車両の開発・テストにも着手しているといい、エンジニアは1年半~2年半先の未来を見据えてモチベーション高く開発に挑んでいるようだ。
■「半導体」「電子部品」は未来の付加価値につながる切り札に
この2つの事案に共通する事項、お互いに得られる果実という観点でみた場合、完成品メーカーはこんなことを成し得たいという思いの実現と同時に、実現までの過程を最強のパートナーとともに考え、時に技術に精通した視点やグローバルでの豊富な実績に基づく提案まで得ながら、完成品メーカーが想定していなかったような最適解を導き出し、描く未来・思いを形にしていけることになる。一方、半導体メーカー、電子部品メーカーは、この完成品メーカーとともに開発に挑む過程そのものから次世代ニーズが先取りでき、そこで開発される最先端技術・製品は、未来の付加価値につながる重要な切り札にもなり得る。エンジニアのモチベーションも高まるという相乗効果も期待できる。
こう俯瞰しながら、ふと思ったのは、こうした成果が双方に得られるのは、自動車が電動化し、SWで機能アップデートするSDV時代になったからこそであるという事実である。かつてのメカの塊である内燃機関車では、自動車メーカーごとに内燃機関エンジンを筆頭に各社各様の車両の差別化がなされており、ブラックボックス化されていた。そのためMCUなどの半導体は特定車種のみに特化したカスタム半導体であり、せっかく半導体を開発してもその特定車種のみにしか使用できず、応用展開が図れないことなどが課題とされていた。
しかし、電動車はモーター駆動であり、エレクトロニクス化が進行することから、パソコンやスマホさながら、中には各パーツを持ってきて車両を組み立てる様子がプラモデルを例に語られることもあるとおり、EV車両そのものは共通化し、各自動車メーカーが差別化すべきポイント、重視すべきポイントが大きく変化している。まさに100年に一度の大変革期なのである。
たとえば車両にあらゆるセンサー、モーターが搭載され、車両周辺360°をセンシングカメラ、レーダーやLiDAR、超音波センサーなど各種センサーを駆使してセンシングするとして、それらのセンシング機器や取得される膨大なデータへの対処を担うのは「半導体」ということになるのだ。自動車における「半導体」「電子部品」の価値、位置づけが内燃機関車とはまったく異なるものになったからこそ、前述の2つの事案のような形が大きなメッセージ性を持つことになるのだと改めて実感する。
一方今後、モビリティーでも「AI」の浸透が予想される。そんな思いから、AIサーバー用GPU、CPUで名を馳せるNVIDIA、クアルコムにおいて、Automotive分野のパートナーとして公表されている日系自動車関連メーカーをざっとチェックしてみたところ、NVIDIAではトヨタ自動車、日産自動車、いすゞ自動車、Astemo、ソニー、富士ソフト、クアルコムではトヨタ自動車、Lexus、Honda、日産自動車、SUBARU、マツダ、スズキ、デンソー、ソニー・ホンダモビリティなどの企業名が見受けられた。100年に一度の大変革期がもたらす地殻変動は、選ぶ、選ばれる車載向け半導体メーカーの顔ぶれにまで及ぶ可能性があるのかもしれない、とそんなことにも思いが及ぶ。
ここ最近はAIサーバー/AIデーターセンター一色の電子デバイス業界であるが、モビリティー業界も半導体・電子部品を巻き込みながら、着実に未来を見据えて進化し続けている。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美