インジウムリン(InP)市場が活況に沸いている。InPは、データ通信の高速化に不可欠な通信用半導体レーザーダイオード(LD)を生産するために不可欠な基板材料で、AIデータセンター(DC)の高速化ニーズを追い風として、InPウエハー、LDともに需要が急激に拡大中。さらに、近い将来、シリコンデバイスとInPのLDを融合し、演算処理や情報伝送にかかる消費電力を大幅に抑制する「光電融合」の取り組みにも需要増が見込めるとして、参入各社が積極的な増産投資に着手している。InPの活況は、ITバブル絶世期の1999~2000年にもみられたが、現在の盛り上がりは当時を上回る“空前の活況”と言っていい。日本企業が強い分野でもあり、さらなる活躍が期待される。各社の動きをまとめた。
ウエハー各社が生産能力を倍増以上に
InPウエハーは、日本のJX金属と住友電工、米国のAXTが世界3大メーカーとして知られている。
JX金属は2月、InPウエハーについて追加の増産を行うため、総額約200億円の投資を決定した。磯原工場(茨城県北茨城市)でウエハー製造設備一式を増強するもので、2030年時点で25年比約3倍まで生産能力を引き上げる。27年度から段階的に稼働させる予定だ。今後の需要増に加え、ウエハーの大型化ニーズにも対応する。同社がInPウエハーの増産投資を発表するのは、25年7月と同年10月に続いて3度目。同社のIR資料によると、24年度のInPウエハー販売数量を100とした場合、25年度は128と30%近く伸びる見通しだ。
AXTは、InPウエハーを中国子会社のTongmeiで生産している。旺盛な需要を受けて、25年10月時点から同年末までに生産能力を約25%増強したことに続き、既存工場に約3000万ドルを投じて26年末までに生産能力を倍増する計画で、これにより四半期あたりのInPウエハー生産能力を約2000万ドルから3500万ドルへ引き上げる。InPウエハーの受注残は25年9月末の4900万ドルから25年末に6000万ドル超へ増えているため、27年に生産能力をさらに倍増させる可能性を検討しており、この場合は1億~1.5億ドルのグリーンフィールド投資が必要になるとみている。ちなみに、一連の増産では6インチウエハーの生産能力を大幅に増強する考えだ。
ただし、AXTは「中国の輸出認可」というリスクを常に抱えている。米中摩擦の激化に伴い、中国は25年2月にインジウムの輸出規制を即時発動させた。これにより、中国子会社でInPウエハーを生産しているAXTは認可取得に時間を要するようになり、実際に25年2~6月半ばまで中国国外へ出荷できず、その期間はInPウエハーの売り上げが急減した。今後の国際情勢で認可取得にさらに時間を要するような事態に陥れば、当初スケジュールどおりに計画を進められない可能性もある。
住友電工は、28年のInPウエハー生産能力を23年比で2.4倍に引き上げる方針を明らかにしている。生産は主に伊丹製作所が担当しており、社内のLD向けおよび外販向けの需要増に対応するのが狙い。2/3/4インチをラインアップし、主力は3インチと4インチだが、すでに6インチの量産にも対応可能という。
インテリエピ(英特磊科技)は、米テキサス州に本社を置く台湾系企業で、MBEを用いた化合物エピウエハーを米国で製造している。テキサス州のリチャードソンとアレンに工場を持ち、GaAs、InP、GaSbのエピウエハーを製造。25年はInPエピウエハーの需要が急拡大し、売上高に占める構成比は24年の37%から50%に増えた。複数の大手メーカーから量産受注を獲得し、26年は60%まで構成比が高まることが想定されるため、生産能力の増強とともにウエハーサプライヤーからの供給枠拡大に努めている。24年11月にテキサス半導体イノベーション基金(TSIF)から412万ドルの助成金を獲得し、アレン工場の第2期拡張を推進中で、フル稼働すれば年産能力は約3倍に高まる見込み。顧客の認定次第で26年から業績への寄与が見込まれており、26年は過去最高の業績を記録するとの予想も出ている。
LD各社が生産能力を大幅に拡大
三菱電機は、DCにおける通信のさらなる高速化に不可欠なEML(電界吸収型光変調器を集積した半導体レーザーダイオード)の世界的サプライヤー。高周波光デバイス製作所(兵庫県伊丹市)で20~24年度にかけてEMLの生産能力を5倍に引き上げたが、28年度にかけて24年度比でさらに3倍に増やす。さらに、29年度の計画も上方修正し、24年度比でさらに4倍に引き上げることを決めた。
これらによって、29年度の生産能力は20年度比で20倍に拡大する。設備増強とウエハー大口径化の両輪で増強していく考えで、EMLを生産する同製作所のNVL棟の既存スペースを最大限に活用するとともに、高周波デバイス生産棟であるU棟で一部生産していたパワーデバイス製造設備を26年内に他拠点に移管し、27年にEMLの製造設備を導入する。同時にウエハーを3インチから4インチに大口径化し、新規ラインはもとより既存ラインも順次4インチ化していく方針だ。
古河電気工業は、光通信に利用されるDFB-LDを2000年から製造する世界的大手で、信号光源用の高出力DFB-LDチップの生産能力を28年に25年度比5倍以上に引き上げる。総額380億円を投じて、グループ会社の古河ファイテルオプティカルデバイスがジャパンセミコンダクター(JSC)岩手事業所(岩手県北上市)内の建屋を借用し、DFB-LDチップを製造する「岩手工場」を新設する。延べ床面積は約6000m²で、28年4月に稼働予定。東芝グループとして半導体製造実績を持つJSCの協力を得て、高効率・安定的な供給体制を構築する。また、同じくグループ会社のFurukawa FITEL(Thailand)で、26年2月に竣工予定の第2工場内にDFB-LDチップの検査・組立設備を導入する。
住友電工は、DC棟内用の光デバイスの生産能力を28年に23年比12倍に拡大する方針を打ち出している。24年に23年比4倍へ増強したが、今後の需要に応じて26年に24年比2倍、28年には26年比1.4倍へ増やす。200G/1波長対応EMLや350mW級の高出力連続波(CW)LDなどを増産する見通しで、トランシーバーの設計に応じて双方を供給できるようにする。半導体チップと光部品を同一パッケージに集約するCPO(Co-Packaged Optics)では、現行比4倍以上の高出力CW-LDが必要になるため、高付加価値化でさらに差別化を図っていく考えだ。
米ルメンタムは、RF半導体大手の米Qorvoから買収したノースカロライナ州グリーンズボロ工場を改修し、InPベースの光デバイスを製造する工場に衣替えする。DCに使用されるCW-LDや超高出力LDなどを製造する予定で、6インチInPウエハーを用いて生産能力を大幅に拡大し、28年半ばに本格的な生産を開始する予定だ。今後数年間で数億ドルを投資し、400人以上の雇用を維持・創出する。ルメンタムはエヌビディアと戦略的提携を結び、数十億ドル規模の購入契約を得るとともに、20億ドルの資金支援を受けており、生産能力の増強はこの契約を受けたものとみられる。
電子デバイス産業新聞 特別編集委員 津村明宏