電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第656回

明治維新の原動力となった鹿児島の夢は終わらない


「黎明館」が語る日本の産業革命の歴史は超面白い!

2026/1/23

 近代日本の夜明けともいうべき明治維新の原動力となったのは薩摩、つまりは現在の鹿児島県である。そしてまた、明治政府発足後においても数々の総理大臣を輩出し、我が国の産業革命を担っていたのも鹿児島県なのである。

 鹿児島県歴史・美術センター黎明館(鹿児島市城山町)は昭和58年に設立された人文系の総合博物館であり、近時は「明治維新と鹿児島」にスポットライトを当てた展示会を意欲的に企画・推進している。

崎山健文氏(左)と三反田みどり氏
崎山健文氏(左)と三反田みどり氏
 「海洋国家の薩摩藩は、欧米列強の外圧を受けてきた。幕末の藩主である島津斉彬は、反射炉や高炉、ガラス工場、蒸気船などを独自の在来技術を駆使して作り、近代日本の産業革命の先駆けとなる事業を行っていた」

 こう語るのは、黎明館にあって副館長の任にある三反田みどり氏である。三反田氏は鹿児島県立甲南高校を出て鹿児島大学に進み、鹿児島県庁入りする。商工部、水産、文化振興などで要職を務め、2025年より副館長の任にある。

 明治維新後、多くの薩摩人が新政府の要職を占めた。その中心であった大久保利通は、明治4年から2年間、岩倉使節団の副使として欧米を視察した際、「富国強兵」「殖産興業」が急務であることを実感し、帰国後、それを強力に推進するために内務省を立ち上げた。内務卿として自らそのトップに就き、富岡製糸場などを立ち上げ、すさまじい勢いで欧米列強をキャッチアップしていく。また、明治10年から開催した内国勧業博覧会は、国内産業の発展と育成、海外へのアピールを目的とし、国内技術の交流、産業の振興に大きな役割を果たした。

 明治中期に入っても、薩摩人は次々と明治政府で活躍していく。その一人である黒田清隆は、札幌農学校(現在の北海道大学)の設立や屯田兵制度の導入など北海道の発展に貢献したほか、その後は総理大臣(明治21年)となり、大日本帝国憲法の発布にも携わっている。

 また、松方正義は総理大臣を2回(明治24年、29年)、また、大蔵大臣を15年の長きにわたり務め、日本の財政のかじ取りを担った。国際社会に通用する通貨制度がなかった当時の日本において、日本銀行の設立や金本位制の確立など、日本の財政の基盤を作った功績はとてつもなく大きい。

 「松方正義は西郷隆盛、大久保利通などに比べれば一般的な知名度は低い。明治14年に大蔵卿となった松方は、西南戦争後のインフレを抑えるために紙幣整理に取り組み、“松方デフレ”と呼ばれる緊縮財政を断行した。これにより短期的には深刻な不況と農村経済の疲弊をもたらしたが、長期的には日本経済の近代化と産業再生の礎を築いたと高く評価されている。将来にツケを回さないという決意で、痛みを伴う改革に立ち向かった結果だと思う。」

 こう語るのは黎明館の学芸課にあって、主任学芸専門員を務める崎山健文氏である。崎山氏は鹿児島育英館高校を出て、島根大学法文学部に進み、高校教師を経て黎明館勤務となるのである。企画特別展「松方正義展」(令和6年)の企画・立案を担当したが、「近代経済学の基礎もできていない明治政府にあって、松方正義の功績は実に大きい」と評価するのだ。

 我が国日本が、世界も驚く短期間で世界有数の産業国家に発展したのは、幕末から明治にかけての先人たちの産業や経済の近代化への果敢な挑戦の礎があったからなのだ。

 「黎明館は、明治維新を成し遂げた先人たちの時代を切り開くエネルギーを未来に伝えていく場として、明治百年を記念して設立された。来年は西南戦争150年の年であり、当館では西南戦争をテーマとした企画特別展(令和9年秋予定)を計画している。西南戦争の実相やその後の社会に与えてきた影響を総括できたらと考えている。歴史上の人物がどのようなことに挑戦してきたのか、それが今の社会や自分の生活とどのようにつながっているのか、歴史から何を学び未来をどう生きるのか、何かを感じ取っていただける展示会にできたらと思う」(三反田氏)

 近代ニッポンの産業革命を担った鹿児島人の志は今も続いている。京セラを設立し、経済界の超有名人になった稲盛和夫氏は、県下に川内工場、国分工場、隼人工場を立ち上げた。同社は最先端半導体パッケージの開発・量産に全力投球の構えだ。そして世界初のトランジスタラジオを作り上げ、現在の国内半導体ランキング1位のソニーもまた鹿児島TECで新たな挑戦を開始している。

 幕末・明治から令和に至るまで“鹿児島県人の賭けた夢”は決して終わることがないのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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