半導体産業は、いまや世界経済の牽引役であり、各国は膨大な補助金、支援金、税制の優遇などのアクティブな政策を推進している。我が国にあっても、高市早苗政権はAI/半導体分野へ積極的に支援することを断言しており、支持率も非常に高いことから、これを断行していくことだろう。
また、世界の国家安全保障、サプライチェーン、軍事防衛などの観点においても、半導体産業はコアとなる存在になってきた。「半導体を制する者が世界を制する」という時代に入ってきたことは間違いない。
さて、世界半導体市場は2024年に前年比24%増を達成し、90兆円の大台に乗せてきた。25年は前年比15%増が見込まれ、105兆円を突破し、伸び率は少しトーンダウンしたとはいえ、相変わらずの成長ぶりをみせている。そして、26年は前年比20%増の125兆円となる予想だ。WSTS(世界半導体市場統計)やSIA(米国半導体工業会)などは約30%伸びるとしているが、これは各半導体メーカーの希望的観測を集めたものであり、はっきり言って当てにならない。
26年の半導体が約30%の成長を遂げるためには、それに必要な製造装置がしっかりとラインアップされなければならない。ところが、装置メーカーはそこまで巨大投資を実行してこなかった。つまりは、半導体メーカーが作りたいと思っても装置が間に合わない。それゆえに、WSTSやSIAのいう30%増はあまりにも大きすぎる数字だといえよう。
一方、26年における半導体設備投資は前年比11%増の20兆円程度にとどまるとみている。装置メーカーでは売上高予想の上方修正が目立っているが、装置の生産体制を拡大することについては慎重になっている。半導体生産額に対する設備投資の割合が20%以内に収まっていれば、シリコンサイクルの影響を受けないで済むと考えているために、装置各社は投資には慎重である。
半導体市場の牽引役としては、これまでのパソコンやスマートフォン(スマホ)などを超えるものとしてAIが出てきた。エヌビディアを中心にAIチップが半導体市場のど真ん中に出ようとしている。AIサーバーの出荷台数もうなぎ登りとなっており、今後は年平均成長率20%で増加すると予想されている。
もちろん、ASICやFPGAなどのロジック半導体もこれに合わせて伸びていく。また、ほぼ30年ぶりといってよいメモリー半導体の一大ブームがやってくる。つまりは、AIに使われるHBM(高帯域メモリー)、NANDフラッシュメモリーが急成長する状況となった。
さらにいえば、12億台の巨大マーケットであるスマホにもAIチップが搭載されてくる。また、ノートパソコンにもAIチップが搭載され、マイクロソフトのTeamsといったツールにもAIを使った自動通訳機能が入ってくる。近い将来には、自動車にもAIチップが搭載され、コネクテッドカーの時代に突入する。AIをコアに半導体産業は一大ブレークの時代を迎えることになる。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。