電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第652回

ニッポン期待の星「ラピダス」は超高速プロセスを完成し、世界を驚かせた!


試作段階では通常の約1/3の時間、全枚葉式とAI技術をフル活用

2025/12/19

 ニッポン半導体の期待の星ともいうべきRapidus(ラピダス)はここにきて、驚きの技術進展を世界に次々と見せつけている。2nmプロセスの試作に成功するという快挙をすでに成し遂げているが、これに続いて新たな高速プロセスを製造ラインに適用し、トランジスタの試作に成功した。従来であれば、早くて45日はかかるところをなんと約1/4の12日で試作できたのである。これには、世界中の半導体関連メーカーから驚きの声が上がった。

ラピダスは2nmプロセスの試作に成功
ラピダスは2nmプロセスの試作に成功
 同社の小池社長によれば、試作ラインでは今後1~2年以内に300mmウエハーで月産5000枚くらいまで持っていくという。2027年の量産時にはこれを月産2万5000枚に引き上げる構えである。同社は枚葉式をフル活用し、AI技術を多く導入することで、台湾TSMCをはじめとするシリコンファンドリー各社の半分という短期間での製造を目指している。つまりは、ウルトラスピードを武器に抜け出していくという戦略だ。

 同社の専務執行役員であり、エンジニアリングセンター長の任にある折井靖光氏はラピダスの強さについてこう語る。

 「前工程と後工程の融合で、優位に立ちたい。とりわけ、半導体パッケージの技術が重要であり、チップレットが必要になる。ラピダスにおいては、有機基板の上にRDLインターポーザー、そしてその上に2nmロジックとメモリーを搭載する最先端チップレットに挑戦している」

 こうしたラピダスの状況に対し、赤沢経済産業大臣は政府として、ラピダスに情報処理推進機構を通じて1000億円を追加出資することを打ち出した。ラピダスのプロジェクトは31年度にフリーキャッシュフロー黒字化を果たし、株式上場を達成することにある。後工程については25年度内にパイロットラインを稼働し、生産技術を確立したいとしている。

 さらに、経済産業省はラピダスへの政府支援に関して26~27年度に1兆円を追加することを決めた。これにより累計支援金は実に2.9兆円まで拡大する。しかし、これだけの金額になれば各年度の予算案に計上し、国会の審議を経る必要があり、高市早苗首相率いる自民・維新の連立政権がこの法案を通す必要がある。

 ここに1つの問題がある。維新の代表である吉村洋文氏(大阪府知事)が場合によっては、いつ連立を離れるとも限らないからである。つまりは、自民党政権が推進してきた「半導体による国起こし」の一環であるラピダスのプロジェクトが、維新の動きによっては揺れ動くということになるのだ。

 まあ、こんなことを考えているのは筆者だけであろう。それにしても、ニッポン半導体の復活を願うならば、「半導体による国起こし」には全国家を挙げての取り組みとしてもらいたいものだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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