シンガポールに本拠を置くOSATのUTAC(日本法人=京都市下京区)は、パワーやアナログ半導体市場を含む市場低迷の影響を受けつつも研究開発や能力増強に注力している。AIによる生産自動化も推進する。シニア・バイスプレジデントでセールス&マーケティング担当のジョナサン・アベラ氏に話を聞いた。
―― 業績の動向から。
アベラ 2024年12月期の売上高は前年度比7%増の17億5400万ドルだった。当社がベースビジネスと呼ぶアナログ・パワーは市況の悪化で低調だったが、ハイエンドモバイルなどが増加してトータルではプラスとなった。25年12月期は、ベースビジネスの回復に期待している。1~2月は低調だったが、3月以降に回復し4~6月期は前年同期比で2桁増となり、自動車、産業機器、PCすべての分野で上昇している。あるエリアの生産ラインはフルの状態となった。下期にかけても好調が続きそうだ。ただ、前年度に伸びたハイエンドコンシューマーが減少する見通しのため、通年の売上高は前年度比横ばいを見込んでいる。
―― 米国の関税影響は。
アベラ 当社ビジネスは米国と直接取引はなく、大きな影響は出ておらず下期にかけての需要も強い。顧客が生産を中国・台湾以外に移す動きが続いているため、東南アジアの製造拠点を活用してサプライチェーンの調整に貢献している。
―― 注力する研究開発テーマについて。
アベラ AI関連や自動車など高性能かつ高い電力効率のチップに向けたハイエンドパッケージ、テストソリューションの研究開発を強化している。AI関連ではパワーパッケージのニーズが高まっており、ウエハーバンピング、3Dパワー、Cuクリップに注力している。また、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けでは2.5Dアドバンスドパッケージの研究開発を推進している。MEMS向けにも注力している。
―― 設備投資について。
アベラ 24年12月期は、1億4000万ドルを投資した。ウエハーバンピングや車載関連の能力増強を行った。また、中国やタイの拠点でSiP(System in Package)の能力を拡張した。25年12月期は、前年度比でほぼ横ばいの投資を計画する。2.5Dアドバンスドパッケージの増強に数千万ドルを投じ、シンガポールにフルターンキーラインを構築する。ほかにもフリップチップ、Cuクリップ、SiPを組み合わせたパッケージの生産を増強する。また、アドバンスドウエハープロセスの分野でもプラズマダイシング、ステルスダイシングなどを含めて継続投資をしている。
―― 各拠点で工場を増設しています。
アベラ 中国では煙台の新棟でラミネートパッケージを拡張し、上海でも新棟を立ち上げ中だ。シンガポールでは既存棟の拡張に取り組むほか、新棟の確保も検討している。タイでも既存工場に隣接する第4工場の検討を進めている。
―― 生産の自動化にも積極的です。
アベラ AIを活用し、外観検査の良否判定自動化やプロセスデータの解析による予防保全などに取り組んでいる。ウエハーハンドリングのオペレーションは100%ハンズフリーを目標とし、投資効果を見ながら数年かけて進めていく。HPCや車載など、ウエハー単価の高い分野から優先的に取り組む。組立工程においても、費用対効果を検討しながら自動化を視野に入れていく。
―― パネルレベルパッケージ(PLP)は。
アベラ 非常に重要な技術であり、当社として取り組む方向性を検討している。HPC向けとパワー・RFパッケージの2つの分野を候補とみているが、参入にはIPのレビューも必要だ。動向をモニターしつつ、パートナー候補を模索している。
―― 日本市場に対する見方と取り組みを。
アベラ 重要な市場だが、保守的なところもある。当社はパナソニックの後工程拠点の取得を機に、10年以上にわたり良い関係を築いてきた。また、日本の複数の大手デバイスメーカーも顧客に加わった。日本でも中国・台湾圏から生産を移す動きが出ているため、そうしたニーズを取り込み我々のフットプリントの拡張を戦略的に進めていく。
(聞き手・副編集長 中村剛)
本紙2025年7月17日号1面 掲載