自動車産業は巨大市場を構築しており、製造業としては世界トップの400兆円となっている。しかしながら、台数ベースでは年間出荷1億台を割り込んでおり、今後も微増または横ばい、さらには一部下降も予想されている。
基本的にはインドや東南アジア、さらには欧州の一部、アフリカ、ロシアなどのエリアで自動車を保有していない層がかなりあるわけであり、中長期プランで言えば、伸びていくことは間違いない。ただここ数年の現状で言えば、大きな伸びは見込めない。
これまでのガソリンエンジン車であれば、200万円相当の車に対し、1台あたり5万~6万円分の半導体が搭載されているが、まことにもって低い水準なのである。これまでの自動車の常識で言えば、やはりメカニックな製品が重要であり、半導体や電子部品などの搭載は相対的に多くはないのだ。
ところが、EVを筆頭にハイブリッド、燃料電池車などのエコカーについては、1台あたりの半導体搭載金額は13万円以上に跳ね上がる。そして、増えた分の7割くらいが電力消費を制御するパワー半導体なのだ。
自動車の高性能化で車載半導体の市場も拡大(写真提供:NXP)
そしてまた、完全自動走行運転という形に進化することで半導体搭載金額はさらに増えていく。CMOSイメージセンサーなどは、かなりの伸びが見込まれるだろう。日本のソニーにとっては追い風だ。自動車マイコンのトップシェアをもつルネサスなどにも利得は生まれてくる。
第3ステップとしてのコネクテッドカーはAIが採用され、自動車は「走る通信機器」になっていくわけであり、GPUも搭載されることでメモリー搭載量も増えていき、1台につき30万円以上の半導体が積み込まれることになるだろう。2030年以降には車載向け半導体は爆発的に伸びる可能性があるのだ。
しかして、トランプの馬鹿げた関税政策などにより、自動車産業は一時的なトーンダウン現象となっている。世界の貿易が正常化することを祈るばかりなのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。